安井息軒《睡餘漫筆・地理のこと》01
原文-01:地理の事を言へるは、西洋の書尤もよし。堅艦を作りて萬國に通商し、親しく之を見し上に、天文に因りて地方を定むるゆへ、此れより確かなる者なし。
其の次は分理術・器械の製作なり。
天文の說は其の理漢土渾天家の說に同じ。渾天家の說に“地の天中にあるは、鶏子中の黃の如し”と云ひ、“月食は地影なり”と云ふが如き、皆な西説と暗合す。
意訳-01:地理の事を言っているのは、西洋の書物が最もよい。〔西洋人は鉄で覆った〕堅固な軍艦を作って世界中の国々(萬国)と通商し、自分の目で実際に(親しく)これ〔らの国々〕を見た上で、天文学によってその〔国々の〕位置を決定いしているため、これより正確なるものはない。
〔西洋文明の優れた点としては、〕その次に科学的分析技術(分理術)と工業機械(器械)の製作である。
天文学の学説はその論理(理)は中国の渾天説と同じである。渾天説に“大地が天空〔に覆われてそ〕の中にあるのは、ニワトリの卵の中の黄身のようなものだ。〔つまり宇宙の構造は鶏卵のようなもので、天空が卵殻に、大地が鶏卵に相当する〕”と言ったり、“月食は〔月の表面にうつった〕地球の影(地影)である”と言ったりしているような点は、みな西洋の学説と偶然にも一致(暗合)している。
余論:西洋文化の評価と許容
息軒は、ここで渾天説を西洋天文学に同定している。だが、渾天説はあくまで天動説の一種であり、キリスト教的宇宙構造とは類似しているけれども、地動説とは本質的に異なる。そのことは、息軒自身が《地動説》で詳しく説明しているのだが、なぜかここでは両者は一致していることになっている。
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