安井息軒《睡餘漫筆・地理のこと》05 (完)
原文-05:其の他政事・法律の如きは國俗に從ひ刻薄を極む。若(も)し之を用ゐば恐らくは我が忠厚の俗を破りて薄惡の風とならん。
人倫の道は君臣・父子の類、假として天主の合せし所なりとて、獨り夫婦を貴ぶ。女を尊ぶこと男子より甚し。此の教えは尤も我が國に害あり。汝が輩西法を取らんには、此の意を失ふべからず。
意訳-05:その他、政治や法律のようなものは〔西洋の〕国柄(國俗)にしたがって極端なまでに人情味に欠ける(刻薄)。もしこれ〔つまり西洋法〕を採用すれば、恐らくは我が〔日本国の〕“誠実で人情にあつい”という国柄(俗)は破壊されて道徳的に浅薄(薄惡)な国風(風)となるだろう。
人倫の道については、〔西洋ではキリスト教の教義に従い、〕君臣関係や父子関係の類はニセモノ(假)だとし、〔ヒトに日々の糧を與える〕君主と〔ヒトにその肉体を与えた〕父母〔の役割〕はGOD(天主)が合わせ持つとして〔排斥し〕、ただ夫婦関係だけを重視する。〔西洋の騎士道には“婦人への奉仕”という徳目があって、西洋では〕女性を男性よりずっと尊ぶ。〔実際、大英帝国の今上皇帝ヴィクトリア2世(在位1838-1901)は女性だという。〕この教えは最も我が国に害がある。あなた方が西洋法(西法)を導入するのであれば、このこと〔、つまりそれにより日本の美風が損なわれる危険性〕を失念してはならない。
余論-05:法律制度と人倫について
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