危険物取扱者 乙四に挑戦した時の話
小特免許を取ったから、というわけでもないのですが、資格取得のモチベが急騰してきた私。とりあえず有名どころから取ってみようかと目を付けたのが「食うのに困らない国家資格」のラインナップに必ずといって良いほど出てくる「乙四(乙4)」こと「危険物取扱者 乙種 第四類」。危険物取扱者の中では一番身近なガソリンやら灯油やらの「引火性液体」を扱う資格です。
燃料には日々お世話になっているものの、指定数量となるレベルの量を扱う事は日常でも仕事でも皆無。正直この資格の使い道は私には全く無く、本当に興味本位で受けてみただけなのですが、思ってたより歯応えがあったと言いますか難しかったという印象。一切関わりのない分野の知識が必要とされるので当然ちゃ当然なんですけど、よく見る「数日勉強すれば取れる」とかいう話は「嘘だッ!」とまでは申しませんが、合格してる人の「簡単」は鵜呑みにしちゃダメだなとは思いました。正直、食うのに困った段階で取れる資格じゃないと思います。困る前に取りましょう。
というわけで、食うのに困る前に乙四を取ってみた流れの話です。
受験手続
基本的にオンラインで申し込み、手数料支払いができますが、CBTが無いので試験は筆記(マークシート)試験を試験場まで受けに行く形になります。東京の場合、会場は笹塚の消防中央試験センター。試験そのものはけっこう頻繁に開催されていますが、受付期間がだいぶ短く、試験日程と受付期間を確認して計画立てて申し込む必要があります。試験日の2か月前くらいに申し込む形。準備期間として2ヶ月あればだいたい何とかなるので、思い立ったらまず申し込みだけ済ませておくのも手です。
受験料(試験手数料)は4,600円。オンライン申し込みだと300円くらいの払込手数料が追加されます。ちなみに最近値上がりして試験手数料は5,300円になったみたいです。なんてこった。
勉強法
やはり過去問、過去問は全てを解決する。ITのような分野とは違い、技術や知識が陳腐化しない世界なので、過去問を地道に攻略するのが一番の近道。「問」と「解」の組み合わせをどれだけ頭にインプットできるか、つまり記憶力が全てです。少しだけ計算問題がありますが、計算方法より基準値を覚える方が大事。危険物のスペックも有名どころを丸暗記。その意味では電工系の試験と似たところがあります。
私の場合はサラっと教本を読んだ後に35問セットを毎日2セット、買った本が過去問8セット入りだったので毎週末2日ずつ、4週計8日で2周しました。ただこの本、回答と解説が別冊になるタイプで理解はしやすかったのですが、問題数が少なくてちょっとカバー範囲が狭かったので、過去問ノックするなら問題数の多い ↓ のような本が良さそうです。試験場には電子書籍は持ち込めないので、ギリギリまで仕上げたい派の人は物理の本を買いましょう。
教本はじっくり見ると覚えることが多くてパンクするので、概要を掴むつもりでサラっと読んだ後は過去問で間違えたところだけ「何故?」と調べるくらいがちょうど良い気がします。というかそういう形じゃないととても頭に入り切りません。危険物製造所の建築や設置に一人で携わることなんてまず無いわけで、保安距離とか空き地とか建築要件とか手続きとか全て覚える方が無理ってもんです。
私は学生の頃から単純な暗記が苦手で、教本見ながら危険物にキャラ付けしたり、電工系の知識と絡めるなど試みたもののかなり苦戦しました。特に一番難関だったのが手続き関連の法規です。届出先の違いとか、許可と承認の違いがいまいちピンとこなかったり。あと地味に他の類の知識も覚えないといけないのが辛いですね。粉塵爆発とか明らかに乙四のジャンルじゃないんですけど出てきますし。(「不完全燃焼」と覚えてればだいたい良い模様)
ちなみに現時点で頭に残ってる知識はザックリとした引火性液体の分類と「524-1261」、あと「ガソリンは桃鈴ねね(オレンジ担当)」くらいです。他はほぼ揮発しました。私の記憶の沸点はアセトアルデヒド以下です。
試験
試験場は9時開場と聞いていたので笹塚駅から商店街や緑道を散歩しながら9時少し前に到着。いったんロビー的な所に通されてから「スマホの電源を切った人から部屋に入ってください」と案内されました。つまり試験を行う部屋内でのスマホ利用や撮影は厳禁です。もう一度言います。厳禁です。
試験に必要な持ち物は顔写真を貼った受験票と筆記用具(鉛筆と消しゴム)と身分証明書。この受験票に貼った顔写真が免状にも使われます。免状の写真は10年有効なので綺麗に撮りましょう。
筆記用具はシャーペン可ですが予備的に鉛筆も持っていくと良いです。マークシートなのでボールペンは不可。私はマークシート試験ではいつもユニホルダーを数本持っていきます。消しゴムは安心のMONO。
試験時間の15分前が集合時間となってますので必ず席に着いておきましょう。「集合時間に会場に到着」ではちょっと遅いです。試験場によっては集合時間を過ぎると入場できなくなることもあるようです。笹塚駅周辺はスタバ等もあるので「やべ早すぎた」くらいの余裕をもって駅に着いておくことをお勧めします。
集合時間になると各種説明や用紙の配布が始まります。低音で大変穏やかな声の事務員さんのアナウンスがラリホー的に効きそうになるという想定外の罠を乗り越えつつ合図を受け試験開始。試験時間は2時間ですが35分経過すると途中退室できるようになります。私は見直し含めて50分程度で終えて出てきました。マークシートはズレて記入しがちなのでよく見直しましょう。なお問題用紙は持ち帰れません。
合格発表
東京都の場合ですと(昔は即日だったらしいのですが)試験日からだいたい2週間後が合格発表日になります。発表日の朝に合格者の受験者番号が試験センターに貼りだされます。ただ、正午まで待ってホームページで確認した方が遥かに楽です。微妙に遠いんですよね笹塚。発表日から数日で結果通知書が郵便で届きますので、あえてそれを待つのも良いでしょう。どうせ結果通知書が無いと免状交付申請できませんし。
自信が無い場合、待ってる間に次の日程の確認とか再勉強とかしたくなるかもしれませんけど、いったんそこはスパッと忘れましょう。頑張った脳を休ませるのは大事なことです。
結果
脳を休ませ過ぎたのか、発表日にホームページを見るつもりが見事にすっかり忘れていて、通知書が届いて「あ、そういえば」という形で合否を知りました。
法令:80点 (12/15)
物理化学:70点 (7/10)
性質消火:90点 (9/10)
結果:合格
全科目60点以上が合格基準のためけっこうギリギリ。物理化学は初見問題が3つあって自己採点で落としてたのはわかってたので内心穏やかではありませんでした。といいますか不合格だったらこの記事書いてないと思います。軽く一か月は落ち込む自信があります。
ともあれ、これで他の乙類を受験する時は法令と物理化学が免除されます。乙種356を取れば甲種挑戦も可能。取りませんけど。
免状交付申請
合格の結果通知書が届いたら手順をよく読んで、試験後にもらった申請キット一式に必要事項を記入して郵便局へ。交付手数料支払って(※)受領証を同封した申請封筒を「特定記録で」と窓口にお願いして郵送料払えば終了です。返送用封筒に切手(定型+簡易書留分)貼るのを忘れずに。なんだかんだで4,000円くらいかかります。近所であれば試験センターに直接持ち込むのもアリですが、たぶん数百円しか変わりません。
交付申請には結構シビアな締め切りがあります。締め切りを過ぎても申請は出せますし免状は発行されますが発行がめっちゃ遅れることがあります。私みたいに趣味で取ってる人はともかく、業務や就職で使うために取った人は気を付けましょう。ちゃんと締切内で手続きすれば試験日の2ヶ月後には免状が手に出来ている筈です。
ちなみに危険物取扱者の免状そのものには有効期限がありません。取得すれば一生もの。ただし免状の「顔写真」には10年という有効期限があり、期限が切れる前に顔写真の更新(免状の書換え)が必要になります。顔写真の期限が切れた免状は機能せず、そのまま危険物を取り扱うとマズいことになります。運転免許のような親切な更新通知は来ないため気を付けましょう。私は忘れそうです。
終わってみて
冒頭でも述べましたが、簡単カンタンと言われる割には「嘘でしょ」というくらい広範囲な知識と記憶力が求められる資格です。乙類は受験資格がないため「誰でも取れる」のは確かですし、試験の実施頻度が高いため「取りやすい」資格ではありますし、世間的にも何故か「簡単」というイメージが付いてて履歴書に書いても「フーン」で済まされたりしますが、決して簡単ではありません。受験者の過半数が落ちてます。割と難関です。
受験だけでも時間は取られますし、費用も安くは無いので「ちょっと資格増やしてみようかな」くらいの気持ちでナメてかかって不合格になると相当ヘコむと思います。私も最初はナメてましたが勉強を進めるにつれ「あ、このままだとマズい」とだいぶ焦りました。無勉強では玉砕必至。一夜漬けもボリューム的に厳しいので、少なくとも2週間前、できれば4週間前には動きましょう。
今後この資格を使う機会が訪れるかどうかはさておき、一歩間違うと引火性液体がどれだけ怖い物になるかという事を知る事が出来たのは良い経験でした。油火災に水ぶっかけない、油が染みた布は放置しない、食用油も立派に危険物、粉末消火器さいつよ、というあたりが頭に入ってるだけでもだいぶ人生の防災にはなると思います。ご安全に。
余談
人気資格だけあって、Youtubeに教本的な動画がたくさんあります。カバーしてる範囲はどうしても狭いのですが、本読むのが苦手な人は概要を把握するために一度見るのはアリだと思います。ただ、私はつい他の動画見て勉強時間失っちゃうのでダメでした。誘惑に弱い人に動画サイトでの勉強はちょっと難易度高いです。
余談2
多数の受験者が会場にいましたが、一方でけっこう空席が目立ちました。氏名が入ったシールが貼ってあったので何らかの事情で来られなかったのでしょう。自身で払ってるかどうかはともかく受験料が勿体ないなーとは思うんですけどね。
余談3
そもそもこの資格は本当に「食うのに困らない」のかという所が気になり、求人サイトを眺めてみました。結果、急募してるような物を除くと「乙四持ってなければ支援するよ!」というレベルの求人が多く、資格取得者というより単純に人手を欲されている感じ。若いうちは良いでしょうが、シニアでの再就職を目論む場合は乙四所持というだけではちょっとパンチが足りなさそうです。ジャンル的にはボイラー技士や消防設備士の乙6類(消火器)あたりも押さえておきたいところ。ボイラー技士は取得にそこそこのお金が、消防設備士も維持に定期的な有料講習が必要になってしまうのが難点ですけど、そこは勤め先と交渉するのも手でしょう。どのみち危険物取扱者として業務に従事する場合は講習が必要になりますし。
余談4
後から知ったのですが、多くのバッテリーに用いられているリチウムイオン電池の中の電解液は「引火性有機溶媒の混合液」のため、実は危険物の「引火性液体」に該当します。引火点が40度前後のため第2石油類の扱いです。最近も韓国の電池工場で多数の死傷者が出る痛ましい火災がありました。
とはいえよくある1865(直径18mm長さ65mm)の円筒状セルで電解液2ml、指定数量1000Lに至る数量なんと50万本。1/5でも10万本。個人で指定数量や条例に触れるほど所持することはまず無いです。変な安物を買わないこと、押し入れの奥に仕舞わないこと、廃棄の仕方に注意するくらいで充分でしょう。
・・・家電量販店とか大丈夫なんですかね?
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