小型特殊自動車免許を取りに行った時の話
原付免許は元々持っていた私。都内住みかつインドア派ということもあり、それ以上の免許は必要としていなかったのですが、ちょっと最近色々ありまして、今更ながらの普通免許を取ることになりました。
で、事前調査がてら動画サイトを回っていたところ「フルビット免許」なる動画が流れてきたのが今回の事件(?)のきっかけ。流石に職業ドライバーになる気は無く、当然フルビットを目指す気にもならないものの「普通免許を取ると一生埋まらない項目がある」と聞くと埋めておきたくなるのがオタクという生物。近いうちに普通免許の学科試験を受けることにもなるので、ちょっとした予行練習と景気付けも兼ねて受けてみようと、そういう流れの話です。
そもそも小特ってどんな免許?
ざっくり言うと「小型特殊自動車を公道で運転できる免許」です。小型特殊自動車とは、例えば青果市場で走ってるターレット、農業用トラクター、フォークリフト(※追加で別途資格が必要)など、作業用として作られた車両のうち小型かつ最高速度が15km/h以下に制限された車両です。ただ、基本的にこれらの車両は敷地内で運転するもので、農道ならともかく公道で運転するケースは極めてレア。更に普通免許(あるいは普通自動二輪免許)取れば小型特殊自動車も運転できるので、わざわざ小特だけ取るという人はウルトラレアです。令和5年版運転統計を見ても保有者数1.4万人もいません。しかもその大半が65歳以上。おそらく今コレを取る最大の理由は運転目的ではなく「とにかく早く安く顔写真付きの公的身分証が欲しい」というあたりになるかと。同じく公的身分証となるマイナンバーカードは試験が無く「安い」の要件は満たしているものの発行に一か月くらいの期間がかかるのが難点です。
先ほども書いたように、普通免許など上位となる免許を持っている場合は「既に資格を持っている」という扱いになり小特と原付の免許は新規に取れません(乗車資格はあるが種別欄に表記されない)。つまり既に普通免許を持っている人は「小特」「原付」の文字を免許証に刻むことができません。フラグビット的には一緒に立てといて欲しい気持ちもありますが、昔からそういうものらしいので仕方ないですね。
農業用トラクターは大型特殊?
この辺は大変ややこしい話でして、2024年4月現在「道路運送車両法」の施行規則第2条別表第1上では「前項第一号ロに掲げる自動車(農耕用作業車のこと)であって、最高速度三十五キロメートル毎時未満のもの」とあり、農業用トラクターに関してはサイズ制限なく35km/h未満まで出せることになっていますが、「道路交通法」の施行規則第1章第2条の小型特殊自動車の項にはこの農耕用作業車の規定が無く、サイズと速度に制限がある規定だけになります。
この差異のため割と多くの農業用トラクターが「道路運送車両法では小型特殊だけど道路交通法では大型特殊になる」というよくわからない状態に。運転免許は道路交通法に基づくので小特や普通免許を持ってるからとうっかりトラクターで公道を走ると無免許運転になりかねません。かといってこのために大型特殊免許を取るのは大きな負担になることもあり、今は「農耕車限定」条件を付けた大型特殊免許が講習で取得できるようになっています(要MT普通免許)。
この問題に関しては農水省が詳しい解説を出しているので一読しておくと良いでしょう。もちろん「トラクターで公道を走らない」のも一つの解決策です。
電動キックボードの扱い
最近なにかと話題の電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」で、字面はなんとなく似てますが全く異なる扱いの車両です。原付と自転車の間くらいの位置付け。実は当初「小型特殊自動車」の扱いで、免許持ってないと乗れなかった筈なのに、なぜか規定が新設され無免許で乗れるようになってしまい案の定あちらこちらで問題になってます。どんな力が働けばそんなことになるのか。嗚呼おそろしい。
ケッテンクラートは乗れるのか?
ケッテンクラートにも何種類かあり一概に言えないのですが、2004年に排気量制限がなくなったこともあって小型特殊自動車として登録が可能な車種もあるようです。ただ、最高速度15km/hという制限で使うのはちょっと厳しそうな気が。仮に大型特殊として走らせるにしても自治体との交渉術が重要になってきそうです。
そもそも乗れる乗れない以前にちゃんと走る車両を入手できるかという時点でだいぶ無理ゲ感はあります。日本国内でまともに走れる現存車両3台くらいしかなさそうですし。
試験に必要な物は?
試験場によって異なりますが、東京都の試験場の場合は持ち物以前に「WEB予約」が要ります。予約してないと試験の受付ができず、いきなり試験場に乗り込んでも見事な門前払いを食らいます。小特の場合1日あたりの予約枠が少ないものの、そもそも取ろうとする人が少ないためか、空いてる時期なら前日でも予約取れるようです。つまり「思い立ったら即予約」が現在の正しい小特(あるいは原付)免許の取り方です。持ち物は予約時に案内されるのでよく読んでおきましょう。
免許証を持っている場合
・免許証
・3cmx2.4cmの顔写真
免許証を持っていない場合
・本籍の入った住民票の写し
・身分証明証
・3cmx2.4cmの顔写真
両眼視力0.7無い人は眼鏡(コンタクト)も忘れずに。あとお金が試験手数料1500円、合格後に免許発行手数料2050円、計3550円ほど必要です(2024年現在)。電子マネーでの支払いに対応している試験場も増えてきている模様。時代ですね。ちなみにカラーコンタクトは(色の程度によるっぽいのですが)原則アウトです。私の目の前でそれで失格になってた人がいました。
どんな勉強をしたらよい?
これもまた試験場によって問題が違ったりするのですが、私が受けた限りでは「原付の範囲9割+小特独自の範囲1割」といった内容でした。合格基準は正答9割なので、原付の範囲が100%取れるよう勉強していればほぼ十分です。ただ、小特の範囲を丸々捨てるのはもったいないので、最低限の知識は頭に入れておくと良いでしょう。
例題
※回答は間違っている可能性もあります。
参考にしたもの
原付に関してはネットやアプリで多くの参考書や問題集があります。内容の信頼性や網羅される範囲という意味ではちゃんとした本を買うのが良いのですが、合格後に用済みになってしまう事を考えると買うにしても電子書籍の方が良いでしょう。
普通免許の下位免許ということもあるのか、小特に関しては専門の書籍は無さそうです。私が受けた試験では小型特殊自動車の車両規定(車長高とか積載量とか最高時速とか)の数値的な部分については出題されず。道路運送車両法と道路交通法で農耕作業用車の扱いに差異があるためか、今は出さないようにしているのかもしれません。心配な人は普通免許の中でもけん引についての範囲、Wikipediaの「特殊自動車」のページや各法規をざっと見ておくと理解が深まります。
ちなみに合格率は60%くらいだそうです。最近はイジワルなひっかけ問題は出てこないようですが、予習無しで取れるほど甘い試験だとは思わない方が良いです。昔みたいに午前落ちたら午後に再挑戦というやり方が難しいためお金と時間を無駄にしないようにしっかり勉強しましょう。大丈夫、ポケモンの性能覚えるよりは楽な筈です。たぶん。
裏校という存在
だいたいの試験場の近くに「裏校」(闇校)と呼ばれる(概ねカタカナ4文字の)学科試験の予習のための塾があります。特に違法性があるわけではなく、試験直前の数時間で一夜漬けならぬ浅漬けで試験対策を詰め込んでくれるので、いまいち勉強できなかった人や、絶対に落ちたくない人が総仕上げをするには良さそうです。実際に行った人間曰く「行ってなかったら落ちてた」という程度には役に立ったとのこと。5000円くらいかかるので素直に勉強した方が良い気はしますけど、自信が無い人は利用して見るのも手かもしれません。
で、取れたの?
取れました。合格すると点数教えてくれないため実際の点数はわかりませんが、迷った問題は無かったので余裕はありました。ほかに原付受験の方も5-6人いて、試験時間終了後すぐに「全員合格です」と言われみなさんニッコリ。原付と違い小特は技能講習が無く、免許発行手数料払って写真を撮ったら後は免許の発行を待つだけ。空いてる時期だと10-15分くらいで発行されます。私は食堂でご飯食べてから受け取りに行きました。居残る理由も無いため受領後にそそくさと退場。8時受付で11時には試験場を出てたので一日どころか半日もかかってません。
やはり試験場の雰囲気は独特で良い予行演習になりました。脳内の交通法規のアップデートもできましたし、免許の種別欄も少し賑やかに。これで心置きなく普通免許を取れます。あわよくばフルビットもワンチャン。やろうとすると300万くらいかかるそうですけどワンチャン。取り終わったころには返納する年齢になってそうですけどワンチャン。
余談
「小特」と略した場合に「ことく」なのか「しょうとく」なのかで悩んでいたのですが、試験場の方がみんな「ことく」って言ってたので「ことく」でいいみたいです。
余談2
今のところ乗れる車種が一般人には用の無い車両ばかりの小特ですが、近年「免許を返納しても乗れる車」として小型特殊自動車のカテゴリが注目され始めています。最高速に制限があるあたりが良いのかもしれません。
まぁ免許返納するようなご年齢の方にこの手の車で公道走られても逆に危ないというオチはありそうですが・・・。