リムスキー・コルサコフ:交響組曲交響曲第2番 「アンタール」 作品9

00:00 I. Largo - Allegro - Allegretto - Largo
11:45 II. Allegro
16:56 III. Allegro risoluto
22:39 IV. Allegretto - Adagio

再生時間 31'' 07'

リムスキー=コルサコフの交響組曲「アンタール」作品9(通称「交響曲第2番」)は、彼の初期作品の一つであり、オリエンタルな音楽スタイルとロシア音楽の伝統を融合させた代表作の一つです。この作品は、詩的で物語性の強い内容を持つ交響組曲であり、当初は交響曲として分類されましたが、後にリムスキー=コルサコフ自身が「交響組曲」として改訂しています。

### 作曲の背景
リムスキー=コルサコフがこの作品を作曲したのは1868年から1869年にかけてのことで、彼がまだ若い音楽家として成長しつつあった時期です。当時、彼はミハイル・グリンカやバラキレフなどとともにロシア音楽を発展させようとする「ロシア5人組」の一員として活動していました。彼らは、ロシア民族の音楽的アイデンティティを模索し、異国的な題材を取り入れた作品を数多く生み出しました。「アンタール」はその潮流の中で生まれた作品の一つです。

この作品のタイトルとなっている「アンタール(Antar)」は、アラビアの英雄詩に登場する実在の詩人で戦士であるアンタラ・イブン・シャッダード(Antara ibn Shaddad)に基づいています。アンタールは、アラブ文学における英雄的な人物であり、彼の冒険や愛の物語が広く知られています。リムスキー=コルサコフは、この伝説的な人物にインスパイアされ、彼の音楽にオリエンタルな響きを加えました。

### 作品の構成
「アンタール」は交響曲としての形式を持ちながらも、物語的な性格が強く、4つの楽章で構成されています。各楽章は、アンタールの物語を描写しており、リムスキー=コルサコフ特有の豊かな管弦楽法と、異国情緒あふれるメロディが特徴的です。

#### 第1楽章:アンタールの放浪
第1楽章では、主人公アンタールが砂漠をさまよい、彷徨する様子が描かれています。彼は過去の裏切りや失敗から人間社会を捨て、孤独な放浪者となっています。この楽章は、静かで不安な音楽から始まり、次第に激しさを増していきます。弦楽器と木管楽器が、広大な砂漠とアンタールの孤独を表現しており、オリエンタルな雰囲気が漂います。

#### 第2楽章:アンタールとフェニックスの出会い
第2楽章では、アンタールが美しい泉のほとりで神秘的なフェニックス(霊鳥)と出会う場面が描かれます。このフェニックスは、彼を敵視するのではなく、逆に彼に感謝し、3つの願いを叶えてくれると約束します。音楽は優美で、木管楽器による軽やかな旋律が印象的です。ここでは、フェニックスの美しさと神秘性が音楽によって象徴されています。

#### 第3楽章:アンタールの勝利
第3楽章では、アンタールが再び戦士として立ち上がり、敵を打ち負かす場面が描かれます。この楽章は非常に活力に満ちた音楽で、激しいリズムと力強い管弦楽の響きが特徴です。アンタールの英雄的な行動が、力強い主題によって表現され、彼の勝利の歓喜が描かれています。

#### 第4楽章:アンタールの死と安らぎ
最終楽章では、アンタールが最後にフェニックスから「安らぎ」を受け取る場面が描かれます。音楽は再び穏やかさを取り戻し、アンタールが最終的に死を迎え、平和と永遠の安息に入ることを表現しています。全体的に夢幻的で、瞑想的な音楽が展開され、フェニックスが彼に与えた「安らぎ」が、安定した旋律として繰り返されます。

### 音楽的特徴
「アンタール」の音楽には、リムスキー=コルサコフの特徴である**色彩豊かな管弦楽法**がはっきりと表れています。彼は非常に精緻なオーケストレーションの技術を持っており、この作品でも異国情緒を強調するために独特の音響効果を用いています。

例えば、**東洋風の旋律**やリズムが随所に見られ、特に木管楽器や打楽器の使用によってオリエンタルな雰囲気が醸し出されています。弦楽器のピチカートやハープ、グロッケンシュピールなどの打楽器は、エキゾチックな響きを生み出すために巧みに活用されています。また、物語の各場面に応じたテーマや動機が作品全体を貫き、統一感を与えています。

### 改訂版とその意義
リムスキー=コルサコフは、この作品を生涯にわたって何度か改訂しました。最も重要な改訂は1897年に行われたもので、彼はこの時点で「アンタール」を交響曲ではなく交響組曲として再定義し、標題音楽としての性格を強調しました。彼の意図は、この作品を物語的なものとして聴かせることにあったと言えます。

### まとめ
交響組曲「アンタール」は、リムスキー=コルサコフの初期作品ながら、彼の独自の音楽スタイルを確立する重要な作品です。異国的な題材と、彼の緻密な管弦楽法が融合し、ロシア音楽に新たな一面をもたらしました。特にオリエンタルな色彩とドラマティックな構成が、この作品をユニークなものとしています。

エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団による1954年6月録音のリムスキー=コルサコフ「アンタール」作品9は、ロシアの民族主義的な色彩が強い作品で、アンセルメの音楽的解釈とオーケストラの精密な演奏が特徴的です。詳細を以下に解説します。

### 指揮者: エルネスト・アンセルメ (Ernest Ansermet)
エルネスト・アンセルメ(1883–1969)は、スイス出身の指揮者で、フランス印象派やロシア音楽の擁護者として知られています。特にスイス・ロマンド管弦楽団(Orchestre de la Suisse Romande、1918年創設)の創設者および長年の常任指揮者として活躍し、同団を国際的な名声へと押し上げました。アンセルメの指揮スタイルは、厳密なリズムと構造に加え、作品の民族的・物語的要素を引き立てる感性に長けており、ロシア音楽やバレエ音楽、特にストラヴィンスキーやリムスキー=コルサコフなどの作品において卓越した解釈を示しています。

### オーケストラ: スイス・ロマンド管弦楽団 (Orchestre de la Suisse Romande)
スイス・ロマンド管弦楽団は、ジュネーブを拠点に活動しているオーケストラで、創設以来フランス音楽とロシア音楽を中心にしたレパートリーで世界的に知られています。アンセルメの指導の下、オーケストラは細やかで透明感のある音色、精密なアンサンブル能力を発展させ、録音においてもその品質が際立ちます。特に、モノラル録音時代においても音のクリアさとダイナミックな表現力が評価され、多くの録音が残されています。

### 作品: リムスキー=コルサコフ「アンタール」作品9
「アンタール」は、リムスキー=コルサコフが1868年に作曲した交響組曲で、彼の「交響曲第2番」とも呼ばれています。オリエンタルな物語に基づいたこの作品は、異国情緒あふれるメロディーや色彩豊かな管弦楽法が特徴です。作品全体は4つの楽章からなり、それぞれが物語の異なるエピソードを描写しています。アンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団の録音では、この作品のオリエンタルな雰囲気と色彩感が際立ち、特に管楽器と弦楽器の巧みな対話や、柔らかい表現が評価されています。

### 1954年の録音
この録音は、1954年6月に行われたもので、アンセルメの得意とするロシア音楽のひとつとして、特にその表現力と精緻な音楽解釈が称賛されています。録音はモノラルながらも、その時代の技術としては非常にクリアで、音色の多彩さやダイナミクスの繊細さが感じられます。この録音は、リムスキー=コルサコフのオリエンタルな響きとアンセルメの緻密な解釈が見事に融合した、歴史的な名盤のひとつとされています。

### 総評
アンセルメ指揮のスイス・ロマンド管弦楽団によるリムスキー=コルサコフ「アンタール」の演奏は、その時代のロシア音楽解釈の代表例として、非常に高い評価を得ています。オーケストラの精密な演奏とアンセルメの独特の指揮スタイルが相まって、リムスキー=コルサコフの豊かな音楽世界を鮮やかに表現しています。

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