次の日の朝


 「やべ…」
ねぼすけの第一声は現状を物語るには十分だった。

薄っすらと明るくなってきた景色はもうすでに暑さが増しており、額に少し汗をにじませている。
しかし、これは事態の大きさからではなく暑さからだとすぐに分かる。

これで今年度通算4回目になるからだ。


下から聞こえていたバタバタする音もなくなり、静けさが広がっている。

もうこの家にはねぼすけしかいないみたいだ。


 「ああああああ、どうしよ」


もう使い慣れたスマートフォンを片手に呟いた。


♪~いらない 何も 捨ててしまおう~

急に鳴る音楽とその振動にびっくりしながら画面に目を向けると、見慣れた文字が書かれていた。

そーちゃん、辻井空(つじいそら)とは長年の付き合いの友だ。

 「あ、やっと出た。ようやく起きたの?おはよう」
そーちゃんはいつも通りの声色で話し始めた。

 「今からなら午後の授業間に合うから来なよー」

電話を切った後、何故か冷静に支度を始めた。
遅刻に慣れてきたとかではなく、昨夜の夢について考えながらだったからだ。


 「あの夢は一体…?」



安藤先生に叱られることから始まった今日の学校は、そーちゃん含む色んな方からさすがねぼすけ、やっぱりねぼすけと様々なお言葉を頂いて終わった。


♪~ギリギリ 崖の上をいくように~

大丈夫僕の場合はぁぁぁぁ~♪


ねぼすけは歌が下手だ。でも歌うことが好きなのでよくカラオケに来ている。
今日も出ない高さの音を必死になって出そうとしている。
基本的に楽しければいいって考えだ。


♪~ラジオネーム”恋するふーちゃん”~


本来は”ウサギちゃん”なのだが、みんなでカラオケに行くとき用に練習しているみたいだ。

ふーちゃんこと風上 蘭馬(かざかみ らんま)もそーちゃんと同じねぼすけの友達だ。ふーちゃんは困ったときはこっそり助けてくれる良き人だ。
なお、ツンデレである。


 「あ、そういえばあれ練習してねこの困った顔を見てみたいな」

そう言いつつ、デンモクに曲名を打ち込みピピっと送信した。

 「アンジュリゼのあれ良かったなぁ…」


♪~ねーこねこ!ねこ!スキスキダイスキ!ねこ!ねこ!キラキラリン~

猫田 守(ねこたまもる)はいつも落ち着いててクールな友達だ。しかし、ここぞという時には決めてくれるのでいつもねぼすけは頼っている。

それ故にあまり困った顔とか見たことがない。
だからねぼすけは見たくなったようだ。

 「この曲はちょっと無理だな・・・」

ねぼすけは女性曲が好きなのだが、自分が男な上に高い声が出ないのであきらめたようだ。


♪~引き寄せて マグネットのように~


男同士で行くならやっぱりこれだよなと思いながら、ねっとりとした歌声で1曲を歌い終えた。

思い出しながら歌った1曲は、端から聞けばとても気持ち悪かった。ねぼすけが歌える曲調でないことは誰でも分かる結果となった。

「低い声、無理して出すんじゃなかった…」

おもむろにかばんからのど飴を取り出す。
VC-3000ではなく、龍角散のど飴だ。
こちらの方が喉に効くような気がして、カラオケの時は持ってきている。

「修学旅行の時に偶然会えないかなぁ…」

なんてすごく夢のような出会いを妄想しながら選曲した。


東京に行く人もいるんだろうなぁとあと1年半ぐらい先のことを思いながらカラオケを歌い続けた…

♪~明日には消えゆく優しさを~

to be continued...


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