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プロローグ...zzZ
「塗り合いしてれば勝ちやな」
あさがおはまだ試合が終わっていないというのに、集中力を高めるのを止めた。
それ故にコントローラーを持っていた手の汗が気になり始めた。
3
2
1
・・・
可愛らしいマイキャラクターが可愛い表情を浮かべながら動いている。
「ちぇ…、頑張ったけど+7か…」
他の人が聞いたら完全に”やばいやつ”、と認識されてもおかしくないぐらい小さい声で画面に向かって呟いている。
見慣れた天井を見ると同時にコントローラーを机に置いた。
このポーズはもうすでに何回もしている。
そう、ゲームを止める時の合図だ。
このゲームは2時間で試合ルールが変わる。
そのたびにこのポーズをあさがおはしているから手慣れたものだ。
調子が良い時はポーズキャンセルしてそのまま”ガチマッチ”というのを選択してAボタンを押しているようだが、今日はどうやら調子が悪いらしい。
ポーズキャンセルをせず、充電コードの刺さったコントローラーを机に置き、そのまま手慣れた手つきでゲームを終了させた。
もうとっくに新聞配達は終わり、下から静かながらもバタバタと音が聞こえる。
遅刻するわよの声が聞こえてくるのも時間の問題だ。
「ちょっとだけ寝るかぁ…」
窓のカーテンは薄っすらと光り、涼しかった部屋も何だか暑く感じてきそうな頃、あさがおは目を閉じた。
「1限目から国語だし何とかなるだろ…」
国語教師の井上は、両親よりうんと人生の先輩で尊敬すべきだと思うのだが周りからはスリーパー井上と呼ばれている。
彼の催眠術にかからないものはごく僅か。
クラスの学級委員長ですら時々かかっていることがある。
あの真面目で勤勉な学級委員長がかかるのだから、あさがおが催眠術にかかるかどうかなんて言うまでもない。
「明日はふーちゃんとあの動画の話をしよ…」
周りは明るくなりつつあるが、視界は暗くなっていた…。
「ここは…どこだ?」
アスファルトの照り返しと全速力で漕ぐ自転車から生まれる生緩い風、いや熱風と呼ぶべきか、あさがおはその熱風が大の苦手だった。
大の苦手ではあるがねぼすけと呼ばれるだけあって、この季節は経験する回数が人より多い。
誰も走らない公道、耳障りになりそうでならない虫の鳴き声、ベランダに出たら見える小さくても存在感が大きい星々、ねぼすけはそのどれもが好きだから仕方ない。
まあ、それは今流行りのゲームを隠す理由でしかないのだが。
どうやらからっとした空気ではあるが、全身から滴る汗は出ていないようだ。
察するにここは地元周辺でないだろう。
何より、だ
目の前に見える焚火の横にいる…サル?がおかしい。
2足立ちは芸達者なサルが出来るのをテレビ等々で見ていたのでそこまで気にしなかった。
何より気になったのが、耳がとても大きく長いのと見慣れない服を着ていることだった。
気になったので近づこうとした途端、ねぼすけは変に思わなかったがシーンチェンジが行われた。
これは京都にいけば見られるだろうか…。
いや、いくら日本家屋の多い京都とはいえこのような建造物は無いだろう。
見るからに木造ではないし、デザインもどちらかと言えば洋風である。
「ヨーロッパのどこかの国かな。綺麗なデザインだなぁ…」
世界史を専攻しているにも関わらずそれ以上の言葉が出てこなかったのは、さすがねぼすけといったところか。
ねぼすけが通う高校は授業を選択出来るようになっている。
世界史を専攻したのは中学で日本史は習ったし、次は世界史を知って日本との違いを知るんだ!と中学の日本史もまともに出来てないのに選んだとても浅はかな理由だった。
現に世界史の小野先生は凄く優しい女性の先生で子守歌が上手とねぼすけは思っている。
中学の小泉先生はえーーーっとですねと、スローリーな喋り方をする先生で中学時代で一番好きな先生だった…。
イケメン!!!
いや、決して男が好きなわけではない。
男のねぼすけが見て第一印象がそれなのだから、相当顔の整っている青年だ。
その次に目に入ったのはサル?だった。
靴履いてるwww
何故か笑いが止まらなかった。
耳の長いサル?は見慣れたかのように興味を持たず、印象的だったのは靴らしい。
ここまで大したストーリーではないのに、ねぼすけは夢中になっていた。
「ベルモンド・バンデラス」みたいなかっこいい男性だが、確実に違うところが1点あることに気づくのはそう時間がかからなかった。
角生えてるぅぅぅー!!!!!
気の弱いねぼすけが街ですれ違う場合、絶対に顔を合わせないタイプの人種だ。
ぱっと見しか出来なかったが、それでも確認できた顔の刺青。
逃げよう…。
俯きながら反対方向に歩く。少し歩いて顔を上げた時にねぼすけは様子がおかしいことに気づいた。
「建物や人、サル?。全てがリアルから外れている気がする…。」
気付いたのだがそこで深く考え込まないのがねぼすけである。
「最近、新作ゲームのPVでも見たっけ…?タイトルなんだったかなぁ…」
余計に気になって呼吸がより一層深くなったように思える。
to be continued...