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ザキング 永遠の君主 39.「全宇宙の扉を」

ちょうどテウルに電話をかけようとしていたウンソプは、テコンドー道場前の庭に入ってきたテウルの姿を見つけて大慌てで駆け寄った。
さっきまでナリのカフェにイ・リムが来ていたのだ。
大韓帝国ではっきりと目にした、あのイ・リムだった。 
リムはまるでウンソプが自分に気づくのを待っていたかのように伝言を頼んできた。


「 甥にぜひ伝えてくれないか?どこに隠れているか知らないが、母親の命日には必ず戻ってこいと。私は彼女の追悼ミサに参加する予定だ。もし現われなければ…私は再び君のその友人に会いに来るだろう。 」


それは脅迫だった。 
ウンソプは背筋が凍る思いでナリを自分の背後に隠した。
そんなウンソプを嘲笑うかのように、リムは悠々と去っていった。
おそらくゴンを探しにここまで直接出向いて来たのだろう。
一目散にテウルの元へ走ったウンソプは、声を潜めながら今起きた出来事を伝えた。


 「 テウルさんッ…!!たった今ちょうどここにイ・リムが来たんだ…! 」

 「 こ、ここに…?父さんは? 」

「 おじさんならさっき子供たちの送迎に行った。午後のクラスはキャンセル出来なかったんだって…ねぇ、だからいったい誰なの? 」


ウンソプの後ろで戸惑ったまま立っていたナリが代わりに答えた。 
その時、庭に酷い顔のシンジェが入ってきた。 
テウルは驚いた顔でシンジェを見上げた。


「 何、兄貴そのおでこどうしたの…? 」


シンジェはじっとテウルを見つめた。 


「 お前こそ怪我したくせにここで何してる。 」

「 テウルさん怪我したの…!?どこを?なんで?? 」


テウルが右の脇腹を押さえながら顔をしかめた。 


「 あ…まぁちょっとあって。兄貴、とりあえず出よう…

「 チョン・テウル 」

「 …ん? 」

「 お前が刺されたのは左だろ? 」


その瞬間、テウルの目つきが冷たく変わった。
テウルを演じていたルナは唇の端を上げた。


「 …ああ、そうだった。あたしは右利きか… 」


そう呟いたルナは素早く逃げようとしたが、一足早く動いたシンジェがルナの腕を後ろに捻り上げて動きを封じた。


 「 兄貴…!」


今度こそ本物のテウルの声だった。 
まだ回復していない体であちこち走り回ったせいで、テウルは息を切らして顔を歪めていた。
驚いたナリが後ずさりした。


 「 何…!?どういうこと…… 」


テウルは、まんまとルナに騙されて口を開けたまま呆然としているウンソプにナリを気遣うように言うと、ルナを取り押さえていたシンジェを見上げた。


 「 兄貴、そのおでこどうしたの…? 」

「 あたしも聞いたのに答えてくれないんだよね… 」


拘束されたままルナは皮肉を言った。


「 あんたは黙ってな…! 」


そう言い放ったテウルはルナの頬に拳を飛ばした。
ナイフで刺されることに比べれば大したことではないはずだ。


「 …ッ!」

しかし急に動いたせいで脇腹に激痛が走った。 
シンジェとテウルはルナの手首に手錠を掛けてから場所を移した。
そこは、以前にもゴンとヨンがナリに借りたことのある空きビルの地下室だった。

ヨンは怒りに満ちた顔でルナを見下ろした。 
椅子に仰け反って座るルナの目は荒んでいた。
振り向くと、後ろにはルナと同じ顔をしたテウルがいた。
ゴンがなす術もなく騙された顔だった。 
ルナもまた、自分を睨むヨンの目を見つめ返しながらふっと笑った。


「 チョ・ヨンだ。…そんな目で見ないでよ。同じ故郷の人間でしょ。 」

「 ここが故郷なら即射殺していた。誰の差し金だ…陛下の毒殺を命じたのはイ・リムか…? 」


一方でシンジェはルナの所持品をくまなく調べていた。
かばんの中は雑多な物で溢れていた。
たばこ、かつら、帽子、ドアを開けるのに使う工具まで…
誰が見ても怪しい物ばかり。
中には薬もあった。 
シンジェには何の薬なのかがすぐ分かった。


 「 麻薬性鎮痛剤だ…末期ガン患者に処方される。ガン患者なのか? 」


テウルは驚いた目でルナを見た。 
ルナは動じる事もなく平然と答えた。


「 うん…もうすぐ死ぬ。嬉しいでしょ。 」 


ルナはシンジェの方に顔を向けた。


「 あ、それよりあたし達がキスした話はもうした?この子も知らなきゃ….当事者なんだし。なんかすごい悲しい顔してたけど、まさかあたし…じゃなくてこの子とは初めてのキスだったの? 」


地下室には心地の悪い沈黙が流れた。
ため息をついたテウルは、ヨンとシンジェに席を外して欲しいと伝えた。 
テウルの目をまともに見れないまま、シンジェはその場を離れた。
2人が出て行った後、テウルは持ってきた椅子に腰掛けてルナに向かい合った。
ゴンを毒殺しようとして、今度は自分を殺そうとした。 
しかし本当に殺そうとしたのだろうか…
そんな疑問が体を震わせた。 
テウルは怒りを我慢しながら挑発するように尋ねた。


「 それで、自分がガンだから私を殺しに来たの?何が必要なの…肝臓?腎臓?…ああ、だから臓器を避けて刺したわけね。 」

「 …ほんとだ。あんたの瞳の中には……不安がない。 」


ルナがぼそりと呟いた。
はっきりと示された光と闇に、お前は影だと言われた気がした。


「 父さんに電話して知らせたのはあんたでしょ。私のことも、なんで致命傷になるくらい刺さなかったの? 」

「 あんたの父さんが悲しむかと思って。 」

「 ……父さんとは何を話したの。私がいない間うちにいたんでしょ? 」

「 ご飯の話…お金の話…仕事の話……結局全部あんたの話。 」

「 ……こうしてると鏡を見てるみたい。じゃあ、次はあんたの話を聞かせて。」


まさか自分について聞かれるとは思わなかったルナは驚いて目を見開き、そしてテウルをあざけった。


「 感傷的な女だね… 」


しかし心の片隅が震えたのも事実だった。 
今まで誰かに関心を持たれた事などなかったから…
正面から向かい合った自分の顔は不思議なものだった。
ルナは自分を労ったことがなかった。
大事に思えなかった。

互いを見つめていた2人は、頬にかかった髪を同時にかき上げようとしてハッと動きを止めた。
本当に鏡を見ているようだった。 

そして驚いたその瞬間…

時間が止まった。 



長く、とても長く……





       ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





薄暗くなった夕方、病棟の入り口でテウルは担当看護師にこっぴどく叱られていた。


「 いったいどこに行ってきたんですか!絶対安静が必要なんですよ…!? 早く病室に戻って下さい。」


長時間病室を抜け出していたテウルの顔色は青ざめていた。


「 いえ…実はある人を待っていて… 」


看護師の剣幕に口ごもりながら頭を上げたテウルは、声を震わせながら話を続けた。 


「 …来ました……あそこに…… 」


暗い道の向こうから、テウルに向かって一直線に駆けてくる見慣れた男のシルエット。
あまりにも懐かしくて、恋しくて、目を閉じても描けるようなその姿は…
ゴンだった。

テウルは唇を噛み締めてゴンの元へ走り出した。
いつものようには走れなかったが、テウルは脇腹を押さえて1秒でも早くゴンに近づこうとした。 

そしてついにゴンはテウルを抱きしめた。 
ゴンの両腕に強く抱き上げられたテウルの足は宙に浮き、ゴンの胸に顔を埋めたままテウルは涙を流した。



 「 君……! 」



込み上げる感情に息を詰まらせたゴンは、さらに深くテウルを抱きしめた。


「 元気だったか…? 私を…待っていたか…? 」

「 ……会いたかった…会いたかったってばこのばかッ…!」


テウルはゴンの胸の中で声を上げて泣いた。
これまですでに何度もテウルを泣かせ、悲しませてきた。
ゴンがテウルにあげたかったのは待つことではなかったのに、待たせてばかりだった。
運命に向き合うことは余りに苦しいことだった。



「 すまない…待たせてばかりで…本当に悪かった……許してくれ……ごめん……… 」




それでも…
ゴンはこの運命を共に生きていく恋人に、テウルに、ただ謝ることしか出来なかった。

テウルはゴンをきつく抱きしめたまま頷いた。








再会を果たした二人は病室へ戻った。
テウルはベッドに腰掛けたゴンの袖をギュッと握り締めていた。
自分が買ってあげた服を着て、結局会えないまま別れてしまったゴンだった。
ゴンに会えたのは過去の自分だけだった。 
それでも、過去のその記憶のおかげで諦めずに耐えることができた。 


「 行かないで… 」


切ない一言がゴンの胸に響いた。 
ゴンは去り、テウルは待つ…その繰り返しが2人を苦しめた。
ゴンは暗い眼差しのテウルを見つめた。


「 ……行かない。」

「 明日も。 」

「 ……行かないから。横になれ…絶対安静だと怒られてただろ。」

「 私が寝たら行く気なんでしょ… 」


体が痛むせいか、駄々をこねる子供のような気分だった。 
それでもテウルは止めなかった。
こうして数ヶ月ぶりに会えたゴンとの短い出会いの後に待ち受ける長い別れが怖くて仕方なかった。
どれだけ心が辛いか分かっているから…


「 本当に行かないって。…証明しようか? 」


冗談っぽくそう言うと、ゴンはベッドに入ってテウルの隣へ横になった。
そしてテウルの方に腕を伸ばして微笑んだ。
ゴンの腕を枕にして、テウルはゴンの横顔を眺めた。
2人は目を合わせ、ゴンはそっとテウルの髪を撫でた。


「 会いにきてくれて嬉しかった…5歳の私と、27歳の私に。 」

「 私を抱きしめてくれてどれだけ嬉しかったか…初めて光化門で会った時に。」

「 2回ともイカれた野郎だと思った。 」

「 私は2回とも感動的な出会いを予想していたのに。まさかまた身分証の提示を迫られるとは… 」




あの日を基点に、ゴンとテウルの運命は少し違った方向へ流れた。 
テウルは潤んだ瞳でゴンに尋ねた。


「 あのあと、私たちがどうなったか…全部覚えてる…?」


最初の時とは違い、テウルは大韓帝国の皇帝というゴンの言葉を半分は信じ、並行世界をもう少し早く理解した。 
そしてもう少し早く大韓帝国へ行き、やはり花の種を買い…蒔いた。
そうしてテウルはもう少し早く自分の運命を愛することを決めたが、テウルのスピードとは関係なく起きることは起こった。 
皮肉なことに、悲劇までがもう少し早く訪れた。 
テウルが拉致され、ゴンがテウルを救い、息笛に亀裂が生じ、再び2人が別れなければならない悲劇が。

ゴンは悲しそうな目で頷いた。


「 運命は何も変わらなかった。運命は…本当に変えられないんだろうか… 」

「 …そんなことない。でも運命はそう脆くない。大きな運命ほど、たどり着くまでの道のりも遠いはず。私たちは…きっとまだ到着してないだけ… 」


過酷な運命に背を向けたくなる度に、2人は互いの理由になった。 
与えられた運命を愛する理由に…

ゴンはいつの間にか眠ってしまったテウルの寝顔を長い間眺めていた。 
少し痩せた気がするその愛らしい頬に…ゴンは静かに口づけた。





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ゴンは病院前の公衆電話ボックスからヨンに電話をかけた。
しばらくして、ヨンとシンジェが病院前にやってきた。 
ゴンを発見したシンジェは怪訝な顔をした。
ゴンの服を上から下まで眺めたシンジェはすぐに鋭い言葉を投げた。


「 お前だろ、チキン屋の前で電話してきたのは…4年前に。 」

「 ボート競技場でお会いしたのも、本当に陛下だったのですか…? 」


ヨンも同じ服装のゴンを見たことがあった。 


「 こうして2020年に来てみると、2人とも随分老けたように見えるな。」

「 とうとう過去にまで行ってきたのか? 」


シンジェは呆れて言葉が出なかった。


「 ご無事で何よりです。ソン・ジョンヘの居場所が分かりました。カン刑事にも色々と助けて頂きました。」

「 また借りが出来たな…手を貸してくれて心から感謝する。」

「 有り難いならちゃんと返せ。 メシ代も、車に乗せてやった分も、何もかも全部… 」

「 どう返して欲しい? 」

「 命で…? 」


冗談ではなさそうだった。
ヨンが鋭い目つきでシンジェを警戒した。 
ゴンは顔を曇らせた。
ゴンの命を必要としているのはシンジェではない。


「 イ・リムに会ったんだな。両方の母親を助けたければ、私を殺せと言われたか? 」

「 …死んでくれるか?できればお前の世界で。」

「 皇帝を殺すのは難しい。身元不明者を殺す方が簡単だと思うが? 」

「 それだと弔問客が来ねえだろ。…向こうに行く時は連絡しろ。」


さり気なくイ・リムが訪ねてきたことを話し、シンジェは背を向けて立ち去った。 
ゴンはシンジェの後ろ姿をやるせない思いで見つめた。
シンジェを見送ると、すぐにゴンはヨンとともにソウルのとある路地へ向かった。 
路地の入り口に韓屋(※ハノク)が一軒あった。 
シンジェが調査して突き止めたソン・ジョンヘの現在の居場所だった。


 「 あの家です。イ・リムはまだ姿を見せていません。」

「 しっかり見張ってイ・リムが竹林に向かう道を必ず把握しろ。」

「 …はい。それから…チョ・ウンソプからイ・リムと鉢合わせたと連絡が来たのですが、奴はまもなく行われる皇太后様の追悼ミサの話をしたそうです。」


完全な息笛を手にする為に、奴は手段を選ばないつもりだ。 
ゴンは拳を固く握った。
時計を確認したヨンが慎重にソン・ジョンヘに関する報告を続けた。


「 ソン・ジョンヘは20分後に近くの教会へ行くはずです。いつも監視人が同行しています。」




「 ………いや、お前は時間を間違えたようだ。 」



ゴンはヨンの肩越しに歩いてくるソン・ジョンヘに気づいた。
彼女の手には聖書があり、ヨンの言葉通り側には監視役の男がついていた。 

母と同じ顔だった。
顔などただの記号に過ぎないと思っていたが、実際に会うと心が乱れた。
ゴンは立ち止まったままソン・ジョンヘの動きを目で追った。 
低いヒールを履いた彼女がカツカツと音を立ててゴンの横を通り過ぎた。 
ゴンは振り返ることもできず、その場に立ち尽くしていた。

その時、靴音が突然止まった。
不思議に思ったゴンが振り向くと、立ち止まったジョンヘもこちらを見つめていた。

2人の視線がぶつかった。


「 あなたね…イ・リムの甥は。息子のジフンと同じ顔の… 」


ゴンの瞳が激しく揺れた。
ジョンヘはさりげなくゴンの顔を眺めた。
冷たい表情とは裏腹に、ジョンヘの目からはいつの間にか涙が溢れていた。


「 ジフンが生きていたら······こんな風に成長していたのね。でもあなたのせいで死んだ…私のジフンは。 」


ジョンヘの涙が錐(きり)のようにゴンの心を突いた。
何も言えなくなったゴンはジョンヘを見つめるばかりだった。


「 そしてあなたは私のせいで死ぬかもしれない…。イ・リムが私を生かす理由はそれよ。」


ゴンは驚いた目でジョンヘを見た。 
その時、横でジョンヘを監視していた男が尋常ではない会話の内容にナイフを取り出し振り上げた。
すかさずヨンが男の腕を蹴り上げてナイフを落としたが、男の行動を見たゴンはジョンヘの身を案じた。
彼女が人質として拘束されていることは明らかだった。 
しかし、ジョンヘはすでに覚悟を決めていた。 
ゴンは慎重に言葉を続けた。 


「 もうすぐ私の母の命日です。イ・リムはその日、あなたを追悼ミサに参加させる気です。向こうへ行けば…もう二度と戻れません。…手を貸します。」

「 なら助けに来てくれる…?命日の2日前に来て。 私も日にちは分かってる。 」



「 息子さんのことは……

「 やめて。何を言ってももう言い訳にしかならない。あなたのせいなのは変わらない。 ………それでも、あなたは私のせいで死んではだめ。私は…あなたの母親じゃないの。」


冷たくそう言ったジョンヘは背を向けた。 
ゴンは赤くなった目で遠ざかるジョンヘの痩せた後ろ姿を見守った。



※韓屋(ハノク)…伝統的な朝鮮の建築様式を使用した家屋の大韓民国での呼び名





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去らなければならなかった。
これ以上この世界に留まれない理由は数え切れない。 
それでも簡単に去ることなど出来なかった。 
この世界にはテウルがいる。
テウルの体調が良くないというのが、胸が痛むもっともらしい言い訳になった。
そしてさらに胸が痛んだのは、テウルさえも自分の怪我が原因でゴンが留まっているという事実を幸いに思っていることだった。
病院は恋人たちが時間を過ごすにはふさわしくない場所だったが、2人はいつになく穏やかな時間を過ごした。
病院のベッドの上のテーブルにテウルが食べたいと言ったものを乗せ、ゴンはそれをテウルの口に運んだ。
手を怪我したわけでもないのに、絶対安静が必要だからと…テウルはまるで親鳥から餌をもらう雛のように口を開けてゴンに甘えた。


「  美味しい。いいなぁ…こんな日常。」


テウルは気持ち良さそうに呟いた。
満ち足りた気分がゴンの決心を揺さぶった。
幸せは、すぐそこにあるように感じられた。
時々自分の服の裾を握るテウルの仕草を見るたびに、ゴンの心には悲しみが押し寄せた。

空になりつつある器を見ながらテウルは言った。


「 これ食べ終わったら無断外出しよう。 」

「 すみません!ここのチョン・テウルという患者が……!!


ドアの外に向かっていたずらに叫ぶゴンの口をテウルが慌てて手で覆った。 
そうして笑って騒ぎながら、2人は食事を終えた。 

夜になると、テウルはゴンの手を握って昼に言った通り無断外出を敢行した。 
テウルが向かった先は病院のすぐ隣にある聖堂だった。 
聖母像の前で2人は祈りを捧げた。 


「 何を祈ったんだ? 」

「 祈ってない…脅してやった。いい加減にしろって。 試練ばっかり与えて…私たちが何したっていうの?私たちに…神のご加護はないの?って。」


切ない笑みがゴンの口元に浮かんだ。 
2人は手をつないだまま病院の庭を散歩した。 
夜露が青い木の葉の上に宿るまで。
神の加護を願いながら…
けれどいくら知らないふりをしようとしていても、別れの時間は近づいていた。



ベンチに座り、ゴンの肩に頭を預けて寄りかかったテウルはそっと目を閉じた。
目をつむると、ゴンの息遣いやゴンの匂いがより強く感じられた。 
ゴンが隣にいるという現実がいっそう鮮明になった。



「 ………いつか今まで省略したこと全部やって暮らそう。 一緒に旅行に行って、一緒に映画も見て、一緒に写真も撮って、一緒に………

「 チョン・テウル 」

「 言わないで。」


ゴンの手を強く握るテウルの手がかすかに震えた。
ゴンはその手をぎゅっと握り返した。


「 “もう行かなければ”なんて聞きたくない。絶対行かせないから… 」

「 …… 」

「 世界を正すのはやめよう?行ったり来たりしながら…ただ行ったり来たりしながら今日だけ生きよう。…ね? 」


ゴンの視界は滲んでいた。
テウルの言う通りにしたかった。 
しかし、今日すら暮らせない日が2人の目前に迫っていた。 
時間が延々と止まり、息笛の亀裂も深まっていた。
イ・リムが破った均衡のせいで失われた命もまた、多すぎた。 
全部…全て…戻さなければならなかった。 


「 どんな方法を考えてるのかは分かってる。また過去に戻って、イ・リムがこの世界に来る前に捕まえるつもりなんでしょ…? 」


下を向いたまま答えられないゴンに怒りを感じた。 


「 それじゃ…私はあなたのことを思い出せなくなる。この世界が今と違う方向に流れれば、私はあなたを知らないまま生きるようになる… 」

「 2つの世界が…交錯し過ぎている。元に戻さなければならない理由はあまりに多いのに…方法はたった1つしかない。だから……行けと言ってくれ。行けと…お願いだ… 」


テウルはそのまま泣き崩れた。
涙で引き留められるならどれだけ良かっただろう。
テウルも分かっていた。
引き留めるなどできないということを。
巨大な運命がゴンを消そうとしていることを。
テウルの涙は止まらなかった。


「 誰かに許しを請うのは生まれて初めてだ。君が止めたら…私は行けない。」




「 ………10番目…戻るって約束して。11番目…何があっても必ず帰ってきて。12番目……イ・リムを捕まえて、もしあの扉が閉まっても、全宇宙の扉を全部開けて…必ずまた戻ってくると約束して……… 」


ゴンは泣きじゃくるテウルの体を引き寄せて強く抱きしめた。


 「 分かった……そうするよ。全宇宙の扉を開けて…そして必ず君のもとへ帰ってくる。 」



互いの存在を体に刻むように、2人は深く抱き合った。
これが最後になるかもしれない。 


悲しみの涙が、雨のように2人の肩を濡らしていった。





ザキング 永遠の君主
    39.「全宇宙の扉を」

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