クラフトビールに個性はあるのか?
少しばかり過激なタイトルですが、少々お付き合いいただければ幸いです。
さて、今年のDiamond Breweryの夏は多忙を極めた夏でした。
コロナが少しだけ落ち着いてきて、イベントも少しずつ復活してきて、ほぼ毎週どこかのイベントに出店していました。
おかげ様で少しばかり認知されることが増えてきたのかなと思います。
イベントでは商品をお飲みいただくだけでなく、お仕事のご縁も繋がって、現在は近江八幡市内にてタップルームのようなものをオープンする準備を進めております。開店が間近になりましたらご報告できればと思います。
さて、イントロはこれくらいにしておいて本題に。
冒頭でも書きましたが、この夏は本当に色んなイベントに出店しました。
お客様の意見を頂戴するだけでなく、他の醸造所の方とご一緒する機会もたくさんあり、おそらくその中のキーワードが二つ
「IPA」と「ヘイジー」です。
もうどのイベントに出ても、まずはお客様から
「IPAはないんですか?」
「普段ヘイジーを良く飲むんですけど、それに近いのはありますか?」
おそらく7割以上のお客様からそういった質問をされたように思います。
そして醸造所もラインナップにはほぼ確実にIPAが鎮座していて、
多い所では提供している商品の半分以上がIPAやヘイジーなんてことも。
私は以前からこちらでも書いてある通り、ホッピーなビールは飲むのも作るのも得意ではありません。
モルトとのバランスが取れていて、味の下支えがある上にホップの苦みや香りが乗っているビールは好きなのですが、近年のIPAやヘイジーブームにはホトホトうんざりしているのが正直なところです。
香りのきつくないドイツ産、チェコ産、フランス産等のホップでおしとやかで柔らかなIPAについては作ってみたいと思っています。
他の醸造所で作られたものを飲んでみましたが、食中酒として向いていそうで個人的にとても好みでした。
また、醸造所の方とお話をしていても
「本当はIPAはそこまで作りたくないけれど、お客様から求められる」
「ヘイジーの作り方分かります?苦手だから避けてきたけれど、常連さんからも作って欲しいと言われ出すようになってきたから作ることにしました」等
別にIPAやヘイジーが悪いと言っているわけではないのですが、ここ最近のホップガツガツ系ビールのトレンドには個人的に辟易しています。
各醸造所の個性さえも奪い、「IPAを作らないと」と、思わせるほどですからよほどのことでしょう。
モルティな商品、バランスが良くて毎日でも飲める秀逸な商品は売れず、香りが強烈で、味が分かりやすいIPA系ばかり売れてしまう。
結果的に醸造所が作る商品もホップを大量に使用したラインナップが多くり、どんどん醸造所のカラーが出しにくくなってきている状況に。
逆に「狂ってる」と言われるほどエクストリームな商品を作っている方が売れてバズって、話題をかっさらっていく。
経営をする以上、また、醸造担当者がそういった商品が好きな場合は何も言えませんが、近年のIPAはどこの商品を飲んでも同じような香り、フレーバーがしているし、ペールエールでさえどんどんホップの香りが強烈になってきています。
余談ですが、少し前まではバラエティに富んだラインナップだった醸造所がIPAやホップの強烈なペールエールばかりになってしまったのを見ると、経営上売れる商品を製造し続けることが大事なのはわかるのですが少し悲しくなります。
イベントで「IPAなのに濁ってないんですね」とか「クラフトビールって苦くて香りキツいやつでしょ?」と、結構な人数から言われましたので、「クラフトビール=IPA」と言う認識が市民権を得ていると言っても過言ではないでしょう。
ちなみに近年「ヘイジー」と呼ばれているビアスタイルは元々存在せず、ホップの香りをいかにしてビールに対して上手に乗せるかをブルワーが試行錯誤をした結果、たまたま濁る原因となる原材料を大量に使用することとなり、「結果として濁ってしまった」が正解です。海外の方に「Hazy」と言っても、「は?」と言われます。常用句ではありません。詳細を書く気はありませんが、気になる方は調べてみて下さい。
ただIPAを作るにしてももっといろんな醸造所の色が出てもいいと思いますし、商品の説明に落とし込んでもらっても面白いと思います。
ですが、IPAがどれも近しい味に近づいてきているのを見ると、
「ブルワリーの個性はどこに行ったのか?」
「IPAに個性はあるのか?」と、感じてしまいます。
先週、今週とは少し自社の仕事のペースをゆっくりにして、少し休養も兼ねて色々な醸造所に出て回っていました。
そこでも耳にしたのは
「本当はモルティで食事に合うビアスタイルを醸したい」
「もっと日常的に飲めるビアスタイルを作りたいが、客からはIPA等のホッピーなビアスタイルを求められている。経営的に仕方ないと思い作っている。」
こういった意見。そこではほぼIPAしかラインナップにはありませんでした。中には
「IPAは他の会社に任せて、ウチはあまり作らない。気が向いたら作る。」
といった意見もありましたが、他社製品のIPAが飲めるようにはなっていました。
クラフトビールも黎明期を経て、ブームやトレンドから文化へ、地ビールブームから操業されているブルワリーは老舗になり、現在は若手の台頭が目まぐるしく、業界自体もかなり活気づいてきたように感じます。
新規のブルワリーが増えてきているからこそ、「売れるしトレンドだからIPAを作る」ではなく、「自分のその時の熱意や個性を表現したらたまたまIPAだった」という風に、もっとビールという液体について向き合うような方も増えてくれればなと思います。
その積み重ねがブルワリーの個性になり、他にはない味になり、唯一無二の存在になるのではないかと思うのですが、近年の流れを見るにどうもプロダクトアウトになっていたり、話題やトレンド先行になっている気がしますね。
それくらい市場が注目されてきたということでしょうか。もっと製造担当者は自由で良いと思うのですが、市場の要求がそうさせない。少しがんじがらめになりかけている感が否めないように思います。
私自身はこれからクラフトビールに興味を持ってくださる方の為にも、「クラフトビール=苦くて味の濃いやつ」以外にもたくさんの選択肢があって面白いんだよ。と、思っていただけるように頑張ろうと思います。
最後になりますが、私はIPAが好きではありません。時々作りますが、ホップフォワードなビールは基本的に作りません。
IPA好きには「ほんまにIPA?」と、鼻で笑われるでしょう。イメージはストロングペールエールくらいでしょうか。
なので、ホップヘッズにはウチの商品は向いていません。ビールのバランスを無視したビアスタイルはよほどのことがない限り作らないでしょう。
モルトとのバランスを重視していますので、お食事と一緒に飲むのが大好き食いしん坊さんには刺さると思います。ウチの商品はビール単体ではなく、是非お食事と一緒にお楽しみください。
ちょっとした宣伝と注意書きでした。
それでは。