こんまりも実践!「ほどよいひとでなし」で人間関係を片づける
『Be Yourself』著者・川原卓巳インタビュー(4)
雑誌「TIME」による「世界で最も影響力がある100人」に、片づけコンサルタント「こんまり」こと近藤麻理恵さんが選ばれたのは2015年のこと。その前から、彼女のマネジメントを担当し、「こんまりメソッド」の世界展開をプロデュースしたパートナー、川原卓巳さんの初著書が発売された。タイトルは『Be Yourself』。本書は、麻理恵さんと川原さんがどのように「こんまり」をプロデュースしてきたのかを振り返り、誰もが応用できる再現性のあるメソッドにした「セルフプロデュースの教科書」だ。
変わりたくても変われない人、ストレスフルな人間関係にうんざりしている人、今の環境に全く満足できない人……。どんな悩みを持つ人も、「自分の中にある才能を引き出せば、ありのままの姿で輝き出す」ことができると確信を持って伝える川原さん。その理由について、率直な疑問をぶつけてみた。全4回インタビューの最終回は、自分らしくいられる人との出会い方と、ストレスフルな人間関係の整理の仕方について話を聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/Ogata)
川原卓巳(かわはら・たくみ)
KonMari Media,Inc Founder and CEO/Producer
1984年広島県生口島生まれ。大学卒業後、人材教育系の会社に入社し、のべ5000人以上のビジネスパーソンのキャリアコンサルティングや、企業向けのビジネス構築・人材戦略を行う。近藤麻理恵とは学生時代からの友人であり、2013年以降は公私共にパートナーとして、彼女のマネジメントとこんまりメソッドの世界展開のプロデュースを務める。2016年アメリカ移住後、シリコンバレーとハリウッドの両方に拠点を置きながら、KonMariのブランド構築とマーケティングを実施。日本のコンテンツの海外展開なども手がける。2019年に公開されたNetflixオリジナルTVシリーズ「Tidying Up with Marie Kondo」のエグゼクティブプロデューサーでもある。同番組はエミー賞2部門にノミネートされた。
自分らしく生きたい人が出会いを求めるときの条件
――自分を知るためには、「あなたは素晴らしい」「あなたのままでいい」と言ってくれる人を大切にすることも大事だと、『Be Yourself』では書いてあります。そんなパートナーとの出会いを求めて婚活している人もいますが、そのことについてはどう思われますか。
川原:出会いで人生は変わりますから、自分の価値や魅力を認めて信じてくれる人との出会いを求めることには大賛成です。ただし、自分で満たせないものを誰かに埋めてもらうための出会い探しは、やめたほうがいいです。
なぜなら、一人で幸せを感じられる者同士でないと、共依存になってしまうから。よく「2人でいると幸せは2倍、辛さは半分」になると言いますが、それはお互い一人でいても幸せだから成り立つ関係のこと。僕と麻理恵さんもまさにそうで、お互い一人のときも幸せだったから、一緒になってより幸せになることができました。
繰り返しますが、麻理恵さんは独身の頃から、個人として十分うまくいっていました。会社員時代に彼女が副業でしていた片づけレッスンは、人気が高まって、本業の業務時間以外と週末、目一杯入るようになりました。そしてクライアントだった中小企業の社長のデスクの片づけもするようになり、その会社の業績がアップし、本業での受注も増加していったのです。さらに片づけのお客様も紹介してもらって、また片づけの仕事も増えていきました。
麻理恵さんが勤めていた会社でも、同僚や上司から片づけのアドバイスを頼まれるようになって、本業より片づけコンサルの副業が忙しくなったから独立したのです。その後で再会したとき、僕が「世界をもっと良くしたい」と学生時代に話したことを彼女は覚えていて、「あなたはもっと広い世界で挑戦できる、素晴らしい人だよ」と自信を与えてくれました。
僕も、片づけで一人でも多くの人を幸せにしたいと本気で活動をはじめた麻理恵さんに共感して、全面的にサポートする覚悟ができた。麻理恵さんのプロデュースは、人を幸せにするために何ができるかを考える仕事です。人と話すことが好きで、次々にアイデアが湧いてくる僕の強みを活かせるところも大きかったですね。
人と距離を置くときは「ほどよいろくでなし」になる
――目指す方向が同じというのは、パートナーとしての関係を育んでいく上で重要なポイントです。逆に、自分がストレスを感じる人との関係を断つコツはありますか。
川原:ニコニコしながら感じよく距離を置くことですね。僕はいつもニコニコしているので、誰とでも仲良くなりそうに見られるのですが、決してそんなことはありません。好きだと思えない人や、自分に害を与える人とは、絶対に付き合いませんから。
そこは麻理恵さんも同じで、「ほどよいろくでなしを目指しましょう」とよく言っています。「ほどよい」のさじ加減は人それぞれですけど、たとえ相手が身近な人であっても、後腐れがないように距離を置くことはすごく大事です。
――「人間関係の片づけ」は慣れないと難しそうですね。ところで、『Be Yourself』にある、「自分らしく生きるための5つのステップ」の中で一番つまずきやすいのはどれでしょうか。
川原:ステップ4の「環境を変える」だと思います。理想の新しい環境を求めて、会社を辞めたり、属しているコミュニティを変えたり、今まで慣れていた環境を飛び出すときはやっぱり勇気がいりますし、手放すものも多くなりますから。前に進むことと手放すことと、両方の勇気が同時に必要になるので、なかなか踏み切れない人が多いです。
でも一度やってみると、次からは怖がらずにできるようになっていきます。新しい環境で、より自分らしくいられる人たちとの出会いに恵まれると、どんどんと楽しいほうに引き寄せられる状態が続いて、おもしろいように人生が変化していきます。
僕の場合、コロナ禍でTwitterを始めて、日本に帰ってきて環境がガラッと変わってから、「好き」「楽しい」と思えることに出会うと、1秒で「イエス」を出せるようになりました。もともと、「これいいかも?」と思ったことは人に言われなくてもどんどん進めてしまうタイプなので、今は毎日が楽しくて、本当に幸せです。
反対に、物事を慎重に考えて石橋を叩いてしまう人は、慣れない環境や知らない人との出会いにオタオタしたり、居心地の悪さを感じたりして立ち止まるかもしれません。すると、「好き」「楽しい」の波が目の前にやってきたとき、うまくウェーブに乗れずに停滞してしまうのです。
そうなったら、改めてその前のステップに戻って、とにかく自分を発信することに力を入れてみてください。自分が理想とする環境にいる人のSNSをフォローしたり、メンションをつけてメッセージを送ったり、自分の存在をアピールするのです。
僕も、自分にメンションを飛ばしてきた人のことは全部にチェックしています。知らない人からダイレクトメッセージでセルフプロデュースの相談が送られてきても、なるべく目を通しています。その中で、「この人だったらこういう方法がハマるかもしれない」と思ったら返事もします。
そこまで細かく発信者をチェックして、なかなか芽が出ない人のことを引き上げることにやりがいを感じる僕みたいな人もいるのです。だから、相手がたとえ有名人でも、どうせ自分なんかダメだと思わずに、チャンスをつかむつもりで発信し続けると、変わりたい自分を後押ししてくれるような追い風が吹くことがあります。
日本社会は逆に今、チャンスをつかみやすい
――日本社会は同調圧力が強くて、人のことを監視し合ったり、人と違うことをして目立つと叩かれたり、面倒なことが多いです。そのため、自分のことより人の目を気にしてしまう人もいると思うのですが……。
川原:本当に、みんなよく我慢しているなぁと思います。でも見方を変えれば、自分らしく生きている人が少ないぶん、日本はチャンスをつかみやすいはずなんです。なにかやりたいと思ったとき、アメリカ人は手を挙げるだけじゃなく、脚まで挙げる勢いで目立とうとする人がほとんどですから。
僕もどちらかというとそちらに近くて、やりたいと思ったことはすぐ行動に移すタイプなんです。楽しいアイデアを思いついたら、どんどん関係者にメールしてしまうし、この人とこの人がコラボしたら面白いことが生まれそう!と思ったら、すぐに仲介してつなぎます。
好きなことややりたいことだけやっていると、そういうことしか思いつかなくなっていきます。だから、僕と一緒に過ごした人たちは、自分を卑下したり、何もできずに悩んでばかりいるのがアホらしくなるみたいです。
「こんなことをしたら批判されるんじゃないか?」とか、「こんなこと言ったら嫌われるんじゃないか?」とか、そんなことを気にしてしまう人がもし周りにいたら、それはあなたにとって必要ない人。「はい、さようなら。ありがとうございました」と今までの付き合いには感謝して、さっさと手放しましょう。
Photo by Ogata
打算的な出会いを求めてもうまくいかない
――以前、川原さんが、「打算をやめて、自分の心がときめくことを選ぶようになってから、良い縁に恵まれ、すべてがうまく運ぶようになりました」とつぶやいて、「#あざとい自分に負けるな」とハッシュタグをつけていたツイートに共感しました。打算で人づき合いをしている人に伝えたいことがあればぜひお聞きしたいです。
川原:僕はすいぶん前に、イベントやセミナーで出会った人の中で、一番お金を稼いでいそうだと思った人と頑張って名刺交換したことがあったんです。でもやっぱり、ときめかない相手には結局、連絡しませんし、たとえ連絡したところで相手にメリットもないので、無理して挨拶する必要はなかったと思いました。
少し無理をしてでも、お金のためにと考えてビジネスを拡大していくことがときめく人もいるので、そういうやり方のほうが合うタイプの人はそれでいいと思います。でも、自分がうまくいかないときに他人の金を目当てにすり寄ることだけはやめたほうがいい。それが僕が言うところの「あざとさ」で、打算的に考えてやったことは大抵うまくいきません。
結局、僕は最初から自然な流れで出会って話が盛り上がった人たちと、面白いことや人の役に立つことを考えて、一緒に頑張っていくほうが楽しいことに気がつきました。麻理恵さんとの関係がそうであるように、同じ方向を目指している人と一緒に上を目指していくほうが、性格的に合っている。
もちろん人によって向き不向きはあるので、自分がやりたいことのために、ちょっと無理してでも支援してもらうほうが手っ取り早いと考える人はそれでもいいでしょう。結局はやはり、どちらが「自分らしい」と思えるかを基準にして選べば後悔はしないと思います。
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『Be Yourself』
川原卓巳(著)
<内容紹介>
世界で最も有名な日本人「こんまり」を生み出したプロデューサーが、初めて明かすあなたらしい魅力の見つけ方、輝かせ方。自分らしさを活かして人生を変えたいけれど方法が分からない。そんな人も、読めばすぐに自分の魅力を見つけて、伝えていけるようになります。
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