【TV「セブンルール」登場!注目の編集者が語る】子どもと大人の感想が真っ二つに分かれる90万部ベストセラーの秘密
進化は良いこととは限らない
―― 金井さんは、前職での『ざんねんな生きもの図鑑』や『わけあって絶滅しました。』など、児童向けに生きものを紹介するベストセラー本をいろいろ作ってこられました。なかでも、この『わけあって絶滅しました。』シリーズで、生きものの「絶滅」をテーマにしたのはなぜですか? なぜ、「生きる」じゃなく、あえて「滅びる」ほうを?
金井弓子(以下、金井):私は動物が好きなんですけど、可愛いから! では全然なくて(笑)、その生き方や面白みにすごく興味があるんです。なかでも「絶滅」って面白いなと思ったきっかけは、『理不尽な進化:遺伝子と運のあいだ』(吉川浩満著、増補新版:筑摩書房)という本を読んだことでした。この本には、進化論をひも解きながら、進化の理不尽さや不条理さがまとめられているんです。
たとえば「進化」と聞くと、直感的には「強くなる」「良くなる」など、「前向きで良いこと」だと思いがちじゃないですか。でも、「進化」というのは単に「変わっていく」ことでしかなくて、その結果、繁栄する生きものも、絶滅する生きものもいる。進化のすえに絶滅してしまうというのは理不尽な出来事だけど、なぜだか、それゆえのおかしみも感じる。だから、この「絶滅という現象の面白さ」をもっと多くの人に知ってもらいたい!と思うようになったんです。
―― 「絶滅の面白さ」を知る本、というのは、たしかにあまりなさそうです。
金井:「絶滅」をテーマにした本で売れているものもあるのですが、どれも難しいし、読んでいて悲しい気持ちになってくる。私自身が、難しいことも悲しいことも苦手ですし、児童書を読む年代のお子さんならなおさらです。それに、まだ10年前後しか生きていない子どもの読者さんたちが、過去の絶滅動物について責任を感じたり悔い改める必要ないんじゃないかなと思うんです。
だから、まずは絶滅について「楽しく」知ってもらう入り口になるような、エンタメ性の高い本を作りたい! と考えて企画しました。この「わけあって絶滅」シリーズをきっかけに、生きものや絶滅に興味をもった読者の方には、どんどん別の生きものの本も読んでもらいたいです。
眼がイキイキしすぎたらダメ
―― 「絶滅」という直感的には悲惨で悲しいテーマを、エンタメ性が高くて面白く読めるようにするって、アンビバレントでいかにも難しいですが、実際に両立できてるのがすごい。『わけあって絶滅しました。』では、絶滅理由が「油断して、絶滅」「やりすぎて、絶滅」「不器用で、絶滅」「不運で、絶滅」……などコミカルにまとめられていたり、生きものたちが自分で絶滅理由を語っていたりするのも楽しいです。
金井:生きものたちが「自分がたり」をしているのが結構ミソかなと思います。企画段階で著者の丸山貴史さんと議論していて、「なぜ滅んでしまったのか」に焦点を当てて説明すれば、その生きものが在りし日の良いところも含めて紹介できるね、という話になったんです。
もし第三者が絶滅理由を解説する形式で、あの子はこうして「死にました」、この子もこんなふうに「死にました」……という話が続くと、読んでいて悲しくなるじゃないですか? でも、それぞれの生きものが自分の口で絶滅に至ってしまった理由を説明すれば、読む側としては思い出話を聞くように、悲しくなりすぎずに読めます。それで、絶滅した生きものみずからが絶滅理由を語る、というコンセプトが固まりました。書籍タイトルも一人称にして、『わけあって絶滅しました。』にしよう、とこのスタート時点で決まったんです。
―― どのページから読んでも楽しいですね。
金井:もちろん全体の流れを考えて、面白い順に並べたつもりですが、見開きで一つ一つのストーリーが完結しているので、どこから開いて読んでもらってもいい、気軽に読めるというのを意識してつくりました。
―― イラストも、コミカルすぎないけどジワジワくる面白さがあって、色使いや構図など含めてすごく味があります。
金井:生きものが一人称で語っていくストーリーなので、イラストも物語性を感じさせるタッチでありながら、眼がイキイキしすぎないように気を付けて、そこはイラストレーターさんにもかなりお願いした部分です。
―― 「イキイキ」したらダメなんですか?
金井:もちろん、適度にイキイキしているのは大事なんですけど。実際に生きている生きものって、そこまで眼がキラキラしてないじゃないですか。人間もそうですけど、日常ってそんなにイキイキしてない(笑)。でも、むしろそういう眼の方が、見る人によっていろんな読み取り方をすることができます。だから、読者がそれぞれの解釈で物語を読み取れるような、想像の余地がある眼を描けるイラストレーターさんに描いていただきたいと思って、サトウマサノリさんとウエタケヨーコさんにお願いしました。それぞれの生きものについて「お調子者」「少女漫画の主人公」……などとキャラクターを設定して、特徴を際立たせてもらうようにもしました。
―― それぞれの生きもののキャラが立ってますよね。上にイラストを載せたステラーカイギュウはいかにも「やさしすぎて、絶滅」しちゃったと納得できるノンビリした様子だし、ほかにも例えば「アゴが重すぎて、絶滅」したプラティベロドンは次のように自分がたりを始めます。
この自分がたりの部分はマンガのように面白く読める一方、「絶滅年代」や「生息地」「大きさ」などの基礎データや、ゾウの仲間の進化に関するきちんとした解説もついているから、勉強にもなるなーと思いました。
子どもの前向きな捉え方に対し、大人は…
―― この本で意外に思ったのは、読者のなかでも子どもさんと大人の方からで、感想がかなり分かれている、という話です。
金井:そうなんです。お子さんたちからは総じて、「今後、こういう絶滅が起こらないように、保護していかないといけない」など、自分たちの行動で未来を変えようという前向きな感想が多く寄せられました。このシリーズ1作目が出た2018年当時は、まだSDGs教育がスタートする前でしたが、リサイクルや環境保護の大切さがすでに声高に言われていた影響もあるかもしれません。
一方で大人の方からは、「(生物を絶滅に追いやった)人間は醜い」「人間という罪深い生きものは……」といったネガティブというか自虐的な感想が多かったのが印象的でした。
―― 子どもたちはきちんと考えて行動を起こそうとしていて、頼もしい! でも、その大人の悲壮感ただよう感じ方も、第2弾の中で活かされていくわけですね。
(明日公開の中編『ウナギが絶滅しそうなら養殖すればいい!? 絶滅しそうな生きものについて子どもと一緒に考える』に続く)
【今回の話題書】
わけあって絶滅しました。
今泉忠明 監修/丸山貴史 著
サトウマサノリ 絵/ウエタケヨーコ 絵/海道建太 絵/なすみそいため 絵
【関連書籍のご案内】
気になるだろう? なぜ、ほろんだのか…!
地球に生まれてきた以上、絶滅からは逃げられない。
絶滅したり、栄えたり。いろいろあるよね、生きてると。
こんな楽しい「図鑑」、今までなかったー!!
◎絶滅生物が、みずから「絶滅理由」を語る! シリーズ第1作!
『わけあって絶滅しました。世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑』
(今泉忠明・監修/丸山貴史・著
サトウマサノリ・ウエタケヨーコ・イラスト)
◎絶滅生物にくわえて、「わけあって繁栄した」動物たちも登場!
『続 わけあって絶滅しました。世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑』(今泉忠明・監修/丸山貴史・著
サトウマサノリ、ウエタケヨーコ、北澤平祐・イラスト)
◎地球誕生以来、生物の99.9%は絶滅していった…その絶滅原因を紹介!「絶滅全史」の付録付き。
『も~っとわけあって絶滅しました。世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑』
(今泉忠明・監修/丸山貴史・著
サトウマサノリ、ウエタケヨーコ、いわさきみずき・イラスト)
◎絶滅したどうぶつたちが、自分たちの「すごい」を語る、シリーズ最新作!
100万年の進化の歴史がざっくり学べて、読み聞かせに最適な絵本が登場! 2022年7月20日発売!
『わけあって絶滅したけど、すごいんです。世界一たのしい進化の歴史』(サトウマサノリ・著/今泉忠明、丸山貴史・監修)
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※この記事は、ダイヤモンド書籍オンライン(2022年8月16日)にて公開された記事の転載です。