「就活の時から変だった」面接官の編集長が驚愕したワケ…“新人編集者”が語る強烈エピソード
出版社・ダイヤモンド社の新入社員4人は、4月からnoteで『ひよっこ編集見聞録』を連載してくれていました。そして、この10月についに編集部に配属され、書籍編集者として本格的な一歩を踏み出しています! そのことを記念して、4人のインタビュー記事をお届けします。その最終回となる第4回は、第一編集部に配属された秋岡敬子(ゆきこ)さんが締めくくってくれます。
――編集部への配属おめでとうございます! まずは簡単な自己紹介をお願いできますか。
宮崎県出身で、青山学院大学を卒業しました。統計学を専攻していましたが、全然勉強していなくて残念ながら記憶がありません。
大学時代に頑張ったことといえば、お笑いコンビ「ジャルジャル」のために全国を駆け回ったことと、呼ばれた飲み会には全部顔を出すことです(笑)。
――短いながらも強烈な自己紹介をありがとうございます…! そんな秋岡さんが書籍の編集者を目指そうと思った理由について教えてもらえないでしょうか。
はっきりと言葉にできる理由が思いつかなくて、強いて挙げるとしたら「なんとなく楽しそうだと思ったから」というのが最大のポイントです。
その次にあるのが、「私の人生において本が与えた影響が大きかった」って思ったんですよね。そういう本が2冊あります。
1冊目が『ママ ほんとうにあったおはなし』です。小学校1年生のときに読みました。この本は、インドネシアの津波でママを亡くしたカバの赤ちゃんが、保護されて新しいママを見つけるまでの実話を基にした絵本です。
私は小学生になるまで「人が死ぬ」ってことを知らなかったんですよ。そんなある日に母親からこの本をもらいました。カバの親子が生き別れになるんですが、これを読んだときに突然理解できたんです。「人が死ぬってこういうことか!」と。
でも、それからめちゃくちゃ怖くなって、絵本を読んだその日は布団にくるまってずっと泣いていました。
その後、父親が遊びで折ってくれた折り紙を、捨ててあったゴミ箱の奥から引っ張り出して、大学に進学して上京するまで肌身離さず保管していました。
――どうしてそんなことを……?
「私の父親はなにも悪いことをしていないのに、いつか死ななきゃいけないから、父親が触れたものを手放したらダメだ」と思った記憶があります。いま振り返ると、父親が捨てたゴミを保管するなんて「すごいことをやっているな」と思いますが、それくらい強烈な体験だったんです。
高校生になっても死への恐怖は続いていて、「このまま寝たら、私は2度と目覚めないんじゃないか」と考えて眠れない日がありました。それで「絶対に死にたくない」「永遠に生きていたいな」って思ったときに、本に自分の名前を残したいって思ったのかもしれません。
――秋岡さんに強い影響を与えたもう1冊の本は、どんな本なんですか?
『りっぱな犬になる方法』という本です。小学4年生くらいのときに読んで、これにもめちゃくちゃ衝撃を受けました!
「ちゃんとした犬になる方法について、犬が教えてくれる」という内容で、これを読んで自分も犬になれると信じていたんです。ウケ狙いとかではなくて大マジメに「いつか絶対犬になるぞ」と思っていました。
高校2年生になると進路希望の調査票を書くじゃないですか? 当時、進路のことをなにも考えていなくて、あの紙に「犬」って書いて出してしまって……。いま考えると本当にヤバいなと思うんですけど、それくらい本が与えた影響は私にとって大きかったなと思います。
それで、大学3年生のときに「就職活動をしなきゃ」となりますよね。どんな仕事をしたいかって考えたときに「編集者ってなんか面白そうだし、私が永遠に生きるためにはやっぱり本を作って自分の名前を残すしかないのかな」って思ったんだろうなって。頭の中を頑張って言語化すると、そういう感じなのかなぁ……。
――自己紹介を上回る強烈なエピソードが盛りだくさんでした(笑)。「自分の名前を本に残したい」と思ったときに、「自分で本を書こう」とは思わなかったんですか?
私は飽きっぽい性格なので、本を1冊書き上げるなんて絶対無理だと最初から諦めていました(苦笑)。だったら編集者なんじゃないかと。
こんな感じで、なんだかよくわからないことを話していたら就活では落ちまくったんですが、ダイヤモンド社だけはなぜか面白がって採用してくれました。三浦さん(秋岡さんが配属された第1編集部の編集長)が面接官だったんですが、「面接のときから変な子だった」と言われて、かなりショックでしたけど。
――編集長や編集畑の局長・役員は「変わった人」が好きですよね! そんな秋岡さんが、先ほど紹介してくれた2冊以外で影響を受けたコンテンツってなにかありますか? あれ以上のものはないかもしれませんが……。
あの2冊とはまた全く別の意味で影響を受けたものがあります。「銀河ヒッチハイク・ガイド」という映画です。もともと小説なんですが、先に映画を見ました。
これ、「おバカSFの金字塔」って呼ばれていて、すごく面白いんですよ! 本当にいい映画って、必ずしもなにかの賞を取るものじゃなくて、すり切れるぐらいDVDを再生したくなるものなんだなって思いました。「人生に意味はない」ってことを肯定してくれる映画なんです。
これが私の中ではとても大きくて。なんでかっていうと、中高生くらいの頃の私はすごい尖っていたんです(笑)。新約聖書を夢中になって読んだり、The Kinksというイギリスのバンドばかり聴いたりしていて、気付けば「あれ、なんか同世代の人たちと話が合わないぞ……」みたいな。
「人生とはなにか」ということが高校生のときのテーマで、ずっと考えていたんですけど、自分一人で考えるにはちょっと話が大き過ぎて難しい。なので、誰かに答えを出してもらいたいなって思って、本とか映画とか音楽とかにすがって、いろいろ見聞きしたんですけど、どれもしっくりこない。なんなら成功した大人の格言みたいなものに、すごくイラついていたんですよ。自分から答えを求めに行っているのに……。
そんなときにこの映画に出合ったんですけど、この映画って本当にバカバカしいんですよ、ずっと(笑)。地球は冒頭で爆発してしまうし、「地球上の生命体の中で人間の賢さは3番目で、実はイルカの方が賢いんです」みたいな、よくわからない話が続くんですね。
その中で「人間とはなにか」「生きるとはなにか」みたいな哲学的な問いを目の前にして、ぶっ飛んだ登場人物たちが、「冴えない人間でも、頭が悪くても、全力でふざけて、必死にいまを生きていたらそれでいいじゃないか」っていうメッセージを伝えてくれるんです。
そんな映画を見て「人間は生きる意味がなくちゃ生きていけない生き物なのか? いや、そうじゃないぞ!」みたいな感じで突然、腑に落ちちゃったんですよ。そうしたら急に、これまで悩んでいたことに納得して解決しちゃって。それからもうほぼなにも悩まなくなるっていうぐらい人生のターニングポイントになった映画です。
――腑に落ちた後は「尖り」が取れたってことでしょうか?
ネジが取れちゃっただけなのかもしれないですけど(笑)。悩むよりも「楽しい」って笑い飛ばしていた方がなんかいけそうな気がするぞ、と思って。
――さっき言っていた「死ぬのが怖い」みたいなものもなくなったんですか?
それよりも、「永遠に生きていたい」「とにかく生きるぞ!」みたいな感じになった気がします。 思春期だっただけかもしれないですが、でも田舎で暮らしていると考えること以外することってないんですよね。
――その映画のおかげでいまの秋岡さんが形作られたんですね! では最後に、秋岡さんが編集者として目標にしたい書籍を挙げてもらえないでしょうか。
ダイヤモンド社の本で3冊あります。ジャンルや内容が全然バラバラなんですが、『メイクがなんとなく変なので友達の美容部員にコツを全部聞いてみた』と『ルポ 超高級老人ホーム』、そして『DIE WITH ZERO』です。
「好きこそものの上手なれ」ってことわざがあるじゃないですか。私、あれが本当に苦手で……。
というのも、私は同世代の人よりたくさん習い事をやっていて、週7くらい通っていたんです。「吹き矢」なんかも習っていました(笑)。でも、全部向いていなくて全然上手にならなかったんです。物事をはじめるときに好きにならなきゃいけないとか、なにかをやめるときに理由がいるとか、そういう雰囲気がずっと苦手でした。「別に『下手の横好き』でもいいじゃん」って思っていたんですよね。
読書に関しても同じように思うんです。読み終わった後に深い解釈ができなくても、なにも覚えていなくても、それでいいんじゃないかなって私は思うんですよ。 「読んでみたい」って思って読者が手に取ってくれたら、そのことに意味があるんじゃないかなぁと。
私は面倒くさがり屋だし勉強は嫌いだし、でも面白いものはものすごく好きです。だから、私みたいな人でも「読みたい」「面白そう」って思える本を作りたいなって考えています。そう考えたときに、この3冊は自分の理想なんですよね。
『メイクがなんとなく変なので…』は、私みたいに面倒くさがりで本を読めない人の味方だと思ったから選びました。
『ルポ 超高級老人ホーム』は、ジャンルも「超高級老人ホーム」というテーマも面白いじゃないですか。「入居金3億円超え 超富裕層の『終の棲家』は桃源郷か姥捨て山か」っていう帯コピーもいいし、「ノンフィクションの本を作ってみたい!」って思いました。
『DIE WITH ZERO』は表1(表紙)を見ただけで、本を読まない人でも手に取らざるを得ない感じがするっていうか、これだけで面白いって思わせる力があります。私も「表1だけで本を手に取らせたいな」って思うんですよね。
あと、教養の棚に置けそうなマンガを作るっていうのも実は狙っています。まだ種岡さん(秋岡さんの直属の副編集長)には言っていないんですけど、ジワジワ攻めていこうと思っています(笑)。
――秋岡さんがどんな本を作っていくのか、楽しみにしています。今日はありがとうございました!
今回の新人編集者4人のインタビュー最終回をもって、今度こそ『ひよっこ編集見聞録』は最終回となりそうです。いままでスキやフォローで応援してくださったみなさま、本当にありがとうございました!
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