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211日目(読書の秋)

卯月妙子の新刊「鬱くしき人々のうた 実録・閉鎖病棟」を一昨日買ってきて、昨日読んだ。


冒頭の注意書きに

【※本作は「マンガ・エロティクス2003」に「実録閉鎖病棟」として序章のみ掲載後、執筆中断されていた作品を、新たな構想のもと全編描きおろしたものです。『人間仮免中』(イースト・プレス)で描かれた時期以前の、著者の原点となる主に20代での精神病院、閉鎖病棟への度重なる入院体験を綴ったものです。】

と書かれている。
2003年はまだ僕もエロティクスを毎号買っていた頃だと思うが、残念ながらその序章の記憶が全くない。
その年から絶筆と言っていいほどの状態から苦節18年を経て完成したのが本書だ。
「鬱くしき人々のうた 実録・閉鎖病棟」が出るまでに「人間仮免中」「人間仮免中つづき」といった世間の耳目を集めた作品を出してはいるが、あいも変わらずタイトロープを渡るような人生を歩んでいるようだ。

できることなら体験したくはないが、生きていれば誰しもがなり得る病としての精神病。さらにどうにか入ることは勘弁願いたい精神病院に集う人々のエピソードが時に激しく、時に哀しく、時に可笑しく、そしてどうにかして生き抜こうともがいている様が短いセンテンスでサクサクと描かれている。
入院中に差し入れしてもらった漫画があの作品とあの作品とか、絶筆に至るまでの苦悩から引き起こす2ちゃんでの炎上であるとか、濃厚な患者との関わりとか、ドスンとしながらも笑える。
ラストは唐突に訪れるのだが今でも卯月妙子は生きて本書を描き上げたという事実が不安定だが静かな再起を感じさせる。

帯分をマキシマムザホルモンの亮君が書いていて「はて?」と思ったけど、自分は知らなかったが「鬱くしき人々のうた」はホルモンの曲だそうで、大学生の息子シゲルが「母さんの歌だよ」と教えてくれてそれ以来卯月妙子のメインテーマとなったことが、あとがきに書かれていてウルっときてしまった。

人間仮免中に感銘を受けた人はもちろん、知られざる世界(社会)を知れる本でもあるので興味のある方は是非。

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