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偶然が運命になるには行動が大事です 9








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大樹:撮影見に行かなくていいの?

○○:はい。

大樹:それも経験だぞ?

○○:分かりますけど…
たぶん俺がいると飛鳥の邪魔になるので 苦笑





既に6話までの放送がされていた

ドラマは世間的にも上々の視聴率と評価で

齋藤飛鳥単体の評価だけを見ても鰻登りだった




トゥルルルル  トゥルルルル



大樹:…はい。




電話を取ったものの大樹さんは一言も発さず


相手の話しが終わったのか最後だけ





大樹:はいはい。
分かりましたよ、やりゃいいんでしょ!





そう言って電話を切る

大樹は手にあるスマホを机に叩きつけた



大樹:マジでウザ!
そんな話し電話済まそうとすんな!
菓子折りでも持って頭下げに来いよ。




大樹がここまで感情的になる姿を見るのははじめてだった





○○:……どうしたんですか?


○○が何かした訳ではないが大樹に睨まれる

大樹:特番が急に入る事になったから11話予定を10話にしろってさ。

○○:えっ!視聴率スゴい良かったのに!

大樹:マジあの糞プロデューサー仕事舐めてるよな…もう○テレの仕事受けるの辞めよ…

○○:どうするんですか?

大樹:まぁ…やるしかないでしょ…



こう簡単に大樹は言っているが11話前提の構成を1話減らすだけでも大問題



大樹:今6話の撮影中だよな?

○○:はい。



序盤に伏線や疑問を散りばめて後半に回収する
これが基本のドラマで後半に伏線を回収せずに終わらせることなどあり得ない



大樹:7話から少しづつ内容減らしていくしかないか…

○○:既に出来上がってる台本もですか?

大樹:仕方ないだろ…ハァ…ウザ…




大樹は急ピッチで7話目の台本を完成させ撮影には間に合った…が

8話目の台本に取り掛かるそんな時に事件は起きた




大樹:無理…

○○:何か手配しますか?

大樹:…どんな事しても無理〜!



大樹は沼にハマってしまったみたいだ





奈々:どうしたの?

○○:集中したいからって部屋追い出されちゃいました。

奈々:あらら…苦笑



奈々未さん曰わく似た症状は過去にもあったらしいがここまで酷いのははじめての事だという



○○:今までこんな時どうしてたんですか?

奈々:気分転換と諦めを兼ねて旅行して…

○○:諦め?それじゃ…(飛鳥が…)

奈々:大丈夫。大樹もちゃんとする…はず
前はなんとか間に合わせてたし 苦笑

○○:その言い方不安しかないんですけど…



そんな事を2人で話していると大樹が上から降りてきた



大樹:ちょっと相談がありまして…



奈々未と○○が話している数十分で何があったのか分からないが

髪はボサボサだった…が

なぜか顔は笑顔だった


大樹:今回マジで何も浮かばない…

○○:それでも…

大樹:俺の代わりに○○書いてよ〜

○○:は!?

奈々:いいねそれ!

○○:は〜!?

大樹:…俺に1話分の余裕をくれ!頼む

○○:頼むって…大樹さん名義の脚本なんですよ?

楽しみにしてる視聴者の人の為にも
絶対俺なんかが書いちゃダメでしょ…

大樹:それなら諦める!

○○:ダメです!

大樹:実際1つのドラマで別の人が台本書くなんてザラにあるんだからさ〜。

○○:ダメですって…なにより仮にここで書きますって言った所で例のプロデューサーさんに断られますよ。

大樹:確かにそうだ…じゃあ聞いてみるか〜。

○○:え!マジ?

大樹:マジ。



トゥルルルル トゥルルルル



○○:大樹さんのあれって本気で言ってます?

奈々:うん。笑




すると大樹の声が聞こえてきた




大樹:無理?
誰のせいでこうなったと思ってるんですか?

上に相談? 
じゃあ次の放送までに間に合わなくて良いってこっちは受け取っていいんですね?

ん?違う?

今決めてくださいよ。
一応あなたがこのドラマのトップなんですから。

それは保証します。

それも平気です一番弟子ですから。



○○:一番弟子…俺…お手伝い…

奈々:フフッ



その後も電話は続いたが




大樹:ゴーサインが出ました!!


パチパチパチ



○○:…………

奈々:○○良かったね。
脚本家デビューじゃん!

大樹:ね!ね!

○○:ね!じゃないですよ!

大樹:断るの?

○○:いや…大樹さんにはお世話になってますから助けたい気持ちはありますけど。

大樹:俺と会った時の約束その1を思い出して



その1……頼んだ事は優先してやる事…

○○:……ズル!!

大樹:ズルとか関係から〜!

○○:…ハァ……分かりました。
やりますよ!やらせてもらいますよ!

大樹:やった!

奈々:なんだかんだで断るかと思ったのに。

○○:断りたいですよ。

他の人が書いてる続きを書くとかはじめてですし
それが大樹さんの続きってだけでもプレッシャーですけど、台本ないと…飛鳥が困るので…


奈々:飛鳥の事好きだね〜笑

○○:そんなんじゃ///

大樹:俺の為が1番じゃないのはムカつくんですけど…

○○:後2日か…

大樹:無視!?








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撮影場所は騒然としていた


「台本まだ出来てないって」


飛鳥:え!?



いつもなら少しは家で練習出来ていたが

監督やプロデューサーから1話減らすと言う話しを聞いてからそれどころではなくなっていた

もちろん飛鳥も自分の演技に不安を抱えていた

でも今の飛鳥の不安は…


飛鳥:大樹さん平気なのかな…
○○は家にすら帰ってこないし…



するとダンボールを一箱抱えたスタッフが現場にダッシュで駆け込んできた



「台本届きました!」


「やっとか…」


「ギリギリだな…」



「じゃあ1時間後から撮影始めるのでそれまでにセリフ入れてもらいます」





俳優陣は控え室で届いたばかりの台本を読んでいた


皆それぞれが演技とセリフに熱を入れていたが

1人その台本が涙で読めない人物がいた











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大役を仰せつかったその瞬間から○○の頭はフル回転していた

今まで大樹が作った台本を隅から隅まで再度読み直し

大樹がドラマを書くにあたって事前に書いていた構成ノートをはじめて見せて貰った




大樹:活用できそう?

○○:このノート本当にスゴいですね…

大樹:そう?

○○:この通りに世に出せないのは勿体ないです。

大樹:…まぁ仕方ない。

○○:これ見たら確かにあの糞プロデューサー呪いたくなりますね。

大樹:俺、呪いたいまで言ってたかな…ボソ




そして残りの1日

○○は一睡もせずに台本を書き上げた





○○:………どうでしょうか

大樹:……う〜ん。

○○:不服な所は直してもらって構いません。

大樹:…………○○って自分で書いたモノに自信持ってないの?

○○:…………

大樹:確かになんか物足りないのは事実。
でもさ…それ以上に大事なものあると思うんだよ。

○○:はい…

大樹:という事で旅行…

○○:それはダメ!
納期今日なんですよ!?

大樹:そんなのどうでもいいよ。
あんなのあっちが勝手に決めた日なんだから。

○○:それは分かってますよ…それでも…

大樹:それでも間に合わせるのがプロだって?


チッチッチッ


目の前で人差し指を左右に揺らしている

大樹は自分が書かなくてよくなった途端から
元気を取り戻していた


○○:(この人…今なら書けんじゃない?)

大樹:妥協して駄作を出すくらないなら。
一昨日の俺ぐらいに頭抱えて絞り出すぐらいしてでも良いもの作らないと。

俺の場合、絞っても出てこなかっけど 笑

○○:………



そして納期の日は過ぎた


○○:…ヴァ…ハハハッ……ハァ…




大樹:部屋行ったら…○○が壊れてた 苦笑

奈々:私もそれ見た 笑




部屋で唸ってる1人を放置してこの夫婦は優雅に朝ご飯を食べていた




奈々:大樹さ…本当は書けるでしょ。

大樹:ゴホッ……黙秘します!

奈々:それもう認めてるのと同じだから。

大樹:まぁ…困ってたのは本当だよ?

奈々:でも書けなかった訳じゃないでしょ。

大樹:書けなかった事、俺一度もないじゃん。 

奈々:知ってる。

大樹:書けないって言ったのは○○を納得させるってよりプロデューサーに頷かせる為の嘘だから。

それに今の○○なら書けると思うんだよ。
自分も”相手”も納得させるモノが。

奈々:勘?

大樹:それもあるけど…○○が変わったからだよ。








頭の中は自分の考えたストーリーでごちゃごちゃになり


それが文字となって宙に浮かんで見える



何も浮かばない訳じゃない



浮かんで沈み浮かんで沈む




○○:もう無理〜!


いつの間にか口からは大樹と同じ事を言っていた




ガチャ




??:うるさい!

○○:!!

そこには俺のせいで迷惑を被っている筈の飛鳥の姿が



○○:なんで…

飛鳥:なんでとかそんなのどうでもいい。

○○:…こっちは心配しなくていいから
飛鳥は撮影戻れよ。

飛鳥:なにカッコつけてんの?笑
私の事心配してる暇アンタにあるの?

○○:………

飛鳥:ハァ…本当に○○は分かってないよね。
今が人生最後のチャンスかもしれないんだよ?

そんな時に何?
自分の過去のせいで納得するモノが書けませんでした?

ふざけないでよ!

私も大樹さんも奈々未も安易にアンタの面倒見てる訳じゃない!


確かに過去は変わらないけど人はそこから何かを学ぶ。


でももしそこから


学べないなら


背負えないなら


捨てちゃえ。





○○:…………ハッ!


目を見開くと部屋のドアは閉まったままで


目の前に誰もいなかった


○○は意識を失っていた間に幻想をみていた




コンコン  


奈々:入るよ〜



ガチャ



○○:…奈々未…さん…?

奈々:壊れた次は記憶まで失った?苦笑

○○:…いや。

奈々:大樹が自分で自分の姿を見るようで嫌って言ったから代わりに来たけど…書けそう?

○○:はい…自信があるの書けそうです。

奈々:!




飛鳥の姿で○○自身の奥底に眠っていた

自分への文句を言われた事で吹っ切れていた




この日○○は
未完の天才から本当の天才になった

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