玉城町・東京・宇宙をつないだ『玉城町子ども宇宙プロジェクト』。実現に導いたのは、DHUの学生が作った魔法の本だった。
2021年度、三重県玉城町はデジタルハリウッド大学(DHU)の協力のもと「玉城町子ども宇宙プロジェクト」を実施しました。
東京と三重を結んで遠隔での授業を行い、子どもたちの作品をモザイクアートにして国際宇宙ステーションに運ぶ。その様子を内容をまとめて一冊の電子ブックとして公開するーーという、1年がかりの大規模プロジェクトでした。
統括プロデューサーを務めたのは、「インタラクティブ電子ブック(電子書籍)」を研究・開発する徳永修先生。インタラクティブ電子ブックとは、文章のほかに映像や音声を掲載したり、読者がボタンなどで表示内容を切り替えたりできる電子出版物のこと。読書体験をより印象的にするリッチコンテンツを作れることがその魅力です。
DHUで担当する「電子出版ゼミ」でも、自身のこうしたノウハウを教えている徳永先生。「玉城町との関係も、学生たちが作ったインタラクティブ電子ブックから始まった」と言います。
このnoteでは、玉城町と関係が始まるきっかけとなった学生の活躍、こども宇宙プロジェクトを実施したねらい、インタラクティブ電子ブックの可能性を伺いました。
地方創生を目指した玉城町との関係
——はじめに、DHUと玉城町のご関係を教えてください。
2020年12月、玉城町とDHUは地方創生を目的とした包括連携協定を結びました。この協定には、玉城町とDHUのほか楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)、株式会社アマナが参加しており、さまざまなブランディング・コンテンツ制作プロジェクトを進めています。
包括連携協定を結ぶきっかけとなったのは、「三重玉城ナビ」という、電子ブック型のガイドアプリ制作でした。
僕がインタラクティブ電子ブックを専門としていることから楽天さんからご相談いただき、DHUの有志学生4名と一緒に制作を行いました。アプリの制作は楽天さん、コンテンツ制作はDHU側が担当しました。
コンテンツは「公式ガイドパート」と「学生パート」に分かれ、学生パートの制作で僕が行ったことはプロジェクト進行のサポートだけ。表紙のアートワークからロゴ、グラフィックデザイン、中の写真、動画からテキストコンテンツまですべて在学生が作りました。
とくにこだわったのは、コンテンツ品質の高さと企画のユニークさ。学生と一緒に玉城町に取材にいって、現地でよく作られている料理を町の人と一緒に作ったり、町の人が話す方言を収録してアプリで聞けるようにしたり、子どもたちとワークショップを行ってその映像を見られるようにしたりしました。
プロジェクトに参加した4名の学生からは、以下のような声をもらえました。経験と技術を得たことで、学生のその後の表現に影響があったようで嬉しく思います。
小さな町とDHUの取り組みが、宇宙へ
——この電子ブックが好評だったことから、包括連携協定へとつながり、実施されたのが「玉城町子ども宇宙プロジェクト」ですね。このプロジェクト」では、どのようなことを行ったのでしょうか?
玉城町子ども宇宙プロジェクトで行った内容は主に3つです。
宇宙とITにふれあう未来じゅぎょう
国際宇宙ステーションでのモザイクアート公開
電子ブックの作成
「宇宙とITにふれあう未来じゅぎょう」は、コロナ禍での効果的な授業スタイルの構築を目的に、子どもたちのITスキルと調べ学習の能力向上を念頭に置いて実施したもの。玉城町の教室と東京のDHUをオンラインでつなぎ、宇宙とITをテーマにした授業・ワークショップをリモートでおこないました。
次に行ったのが、「国際宇宙ステーションでのモザイクアート公開」。子どもたちの作品や玉城町の写真を使ってモザイクアートを製作し、それをロケットで打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)に運びました。ISS内で宇宙飛行士にモザイクアートを公開していただいたあと、地球の子どもたちのもとへ返しました。
プロジェクトの締めとして行ったのが、インタラクティブ電子ブックの制作です。子どもたちの作品やロケット打ち上げの様子、国際宇宙ステーションの映像を収録した、インタラクティブブックを制作しました。
「災害やパンデミックに備える、未来のためのICT教育」に向けて
——玉城町子ども宇宙プロジェクトを実施したねらいを教えてください。
一言でいえば、これからの教育手法について考えるためです。
GIGAスクール構想というのがあります。2019年12月に文部科学省が発表した教育改革案で、「子どもたち一人ひとりに最適化された教育・ICT教育の実現」を目指すものです。具体的には、義務教育の小中学生に一人一台情報端末=PCやタブレットを支給し、授業で活用するなどの取り組みが行われています。
2021年7月末時点の調査では、全国のほとんどの自治体が令和3年度内に端末の整備を完了できるという見込みだった一方で、最近ではICT技術を教育に十分に活かせていないという声も聞きます。
玉城町では早い段階で端末が導入され、子どもたちがタブレットをスムーズに使いこなせるレベルに先生方の指導も進んでいました。今回はその成果をもっと先に進められるよう、宇宙や宇宙ステーションという最先端の「調べ学習」のテーマを提示しました。ICTを活用したアクティブラーニングを通じて、これまでとは違う方向にも子どもたちの興味を広げられればと思いました。
宇宙から見れば地球は一つだということがよく分かるはず。だから一人ひとりが地球人の代表だと感じてもらって、宇宙人に向けて自分の興味関心事である、「自分の好きな〇〇」を発信する作品を作ってもらったんです。
もうひとつ考えていたのが、遠隔授業のモデルケースを作ること。新型コロナウイルスの影響で、学校教育にはリモート対応が求められました。また、これからのことを考えたときにも、自然災害への対策としてのリモート環境の整備を行わなければなりません。実際に、東日本大震災でもインフラが寸断され登校が難しくなり、多くの子どもたちが学習の機会を奪われました。
これらの事態への対策として、学びを止めないためにも遠隔授業に慣れておく必要がある。だから今回のプロジェクトでは、東京から玉城町の小学生にリモートで授業を行う形にしました。
子ども宇宙プロジェクトが話題を呼び、次のプロジェクトへ。
——プロジェクトに対する反応や反響はいかがでしたか?
まず、子どもたちは授業中大盛りあがりでした。子どもの作品はいいものですよね。大人が持っている固定観念を超えて、作品を作ってくれる。驚かせてくれる。
ロケット打ち上げの瞬間は固唾を飲んで見守りました。NASAのYouTubeチャンネルに張り付いて無事飛んだのを関係者に連絡して、「よかった!」と喜び合いました。ロケットの打ち上げなんて、普段はあまり見ないんじゃないですか? そういう意味でもいいきっかけを提供できたんじゃないかなと思います。
そして、プロジェクト内容をまとめたインタラクティブ電子ブックを作成したところ、結構反響がありました。今回、NASAとのコーディネートをやってくれたパートナー会社(国際総合企画株式会社)は、他のいくつかの自治体でも国際宇宙ステーションでのモザイクアート公開プロジェクトを進めているのですが、そこから話が伝わって、制作を希望する自治体が出てきました。
こうした動きには、宇宙や宇宙ステーションというテーマが夢を掻き立てたことはもちろんですが、それを直感的に訴求できるインタラクティブ電子ブックが秘めた可能性が示されていると思っています。
自治体のリッチコンテンツによる情報発信は、企業と協力して、アプリをリリースする事例が一般的だと思います。しかし、アプリはリリース後のメンテンスが大変で、コンテンツが更新されなかったり、予算の関係で作っては閉鎖されていくことも多くあります。
こうした事情を考慮して、今回は「固定型EPUB(イーパブ)形式」という国際標準のオープンフォーマット(注:知的財産権など法的な制限なしに自由に利用できるフォーマット)を採用しました。これなら、アプリのメンテナンスの必要はなく、未来永劫ずっと残せる。それでいてアプリのように、写真や映像、データ、地図情報などのリッチコンテンツも掲載できる。
僕はインタラクティブ電子ブックのこういった可能性を広く伝えていきたいと考え、ずっと活動してきました。今回の玉城町とのプロジェクトもインタラクティブ電子ブックから始まった。僕と一緒にインタラクティブ電子ブックを作った学生はいま大学を卒業し、さまざまな場所で活躍している。電子出版というひとつの専門領域が、今後、別の領域につながっていく未来が来るに違いありません。
インタラクティブ電子ブックは魔法の本。その技を盗んでいってほしい。
——今後、徳永教授がDHUでやっていきたいことを教えてください。
玉城町とのプロジェクトのように、学生と何か大きなプロジェクトを動かすことは、この先もずっと続けていきたいと考えています。
「インタラクティブ電子ブック」は、電子書籍の表現を大きく広げるものだと思っています。いまは文章中心や紙のレイアウトを真似たものが主流の電子書籍ですが、本当はもっといろんなことができるから。文章と同じ場所に、音楽も動画も同居させることができる。狭い1ページの中に、多くの情報をストレスなく配置できる。その手法を極めれば、映画『ハリーポッター』で描かれていたような動く新聞、すなわち魔法の書籍が実現できます。
僕は、そのようなものをずっと作ろうとしてきた。だから今度は「魔法の本」の作り方を伝えていきたんです。それには口で説明するより、一緒に作る中で技を盗んでもらう必要がある。だから、僕は今後も学生といろんなプロジェクトを行っていきたい。DHUには、近未来的な制作テーマに意欲を持つ学生も多いので、僕もわくわくしています。
最後にもう一言。じつはインタラクティブ電子ブックの概念は、2010年のiPad発売時に示されていました。文章と動画と音声が共存し、読者の操作で表示内容が切り替わるリッチコンテンツのアイデアはその時点で実現されていたんです。
そのiPadの発表から10年以上経った現在に、僕らは生きています。電子ブックのインタラクティブ表現は一般企業のPRコンテンツなどに使われるようになりましたが、エンターテインメントやジャーナリズムの分野ではまだ事例が多くありません。豊かな訴求力があるにもかかわらず、自治体がオープンフォーマットで広報コンテンツに利用したのは、おそらく玉城町が日本で最初の事例です。
iPadの生みの親であるスティーブ・ジョブズがあのとき思い描いていた電子出版の未来を、僕らはどうやって受け継いでいくべきでしょうか? みなさんとはそれを一緒に考えていきたいと思います。
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DHUには企画からライティング、グラフィックデザインのノウハウまで、これからの出版・電子出版全般を学べる学習環境があります。デジタル技術と自身の専門領域を組み合わせて教育研究活動を行っている教授・学生も多く在籍しています。
出版・電子出版に関わるプロジェクトマネジメント、編集、デジタル技術に興味がある方は、オープンキャンパスや説明会にぜひご参加ください!
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