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1年で20冊。急増した「フランス人」関連本とマーケティング

先日「9割本」の出版数推移を調べてまとめたところ、思った以上に多くの方に読んでもらえたようです。

他の流行タイトルの本についてもリクエストを受けたので調べてみました。

今回調べたのは、「フランス人は~」に始まるタイトルの本(以下、「フランス人本」)です。

ブームのきっかけになった「フランス人は10着しか服を持たない」は、2014年に第1作が出版され、出版社のサイトによるとシリーズの発行部数は100万部を超えたそうです。

この「フランス人は10着しか服を持たない」というタイトルは、飾りたてないのにおしゃれなイメージに重ねて、近年人気のミニマリストを想起させる思い切った断定をしています。

「決めつけタイトル」とも言われる本書ですが、仮にほとんど同じキーワードを使いつつも「10着しか服を持たないフランス人の暮らし」のようなタイトルだったとしたら、どこか他人事感が漂ってしまいます。
服の保有数という卑近な事柄について具体的な数字を断定調で示されることで、つい自分との比較を行ってしまい、さらに大きすぎる主語にツッコミを入れつつ「だからどうなのか?」と次に続く内容を考えてしまうのがこのタイトルの仕掛けなのかもしれません。

やはり急増していた「フランス人本」と関連本

「フランス人本」の出版数推移を調べたところ、やはり2014年の第1作出版の後、類似タイトルも増加していました。

「フランス人は~」で始まる言い切り型のタイトルは、2014年以降に増加して計22冊が出版されています。

フランス人は_出版数推移-凡例付き

これだけであれば明らかに増加はしているものの、思ったよりも少ないと感じるかもしれません。
しかし、「9割本」よりもパターンが多いのが「フランス人本」です。検索キーワードを「フランス人は」から「フランス人」に広げてみた結果がこちら。(1995年~2020年)

フランス人本_グラフ_27176_image001

「10着しか~」が出版された2014年と、ピークの2016年を比較すると、出版数は約3倍に増加しています。「フランス人は~」の完全なテンプレではなくても、フランス人に注目した「フランス人」関連本がわずか2年で急増したのは間違いなかったようです。

ちなみに国会図書館オンラインでさかのぼれる、「フランス人」をタイトルに含む一番古い書籍は1927年の出版です。フランス文化への関心の高さを反映して、「フランス人」をタイトルに含む書籍は毎年のように出版されてきているのですが、2015年以降の増加は約90年の間でも異様な盛り上がりになっています。

出版数推移_1927-2020

「9割本」とは異なる出版事情

次に「フランス人本」の出版社と著者を見てみます。
「10着しか~」が発売された2014年以降に出版された「フランス人本」の著者一覧はこちら!

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コミック化などの共著も含めると、本家(?)である「10着しか~」のジェニファー・L・スコットが、コミックなども含めると8冊と最多。「フランス人は年をとるほど美しい」のドラ・トーザンが3冊で次に続きます。

出版社のほうはというと、なんと大和書房がほぼ一強

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「フランス人は~」に限定しない、「フランス人」関連本でみても大和書房が明らかに多くのタイトルを出版しています。
(表ではTOP8社だけにしていますが、全部で47社が「フランス人」関連本を出しています。さすがに多いですね。)

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こうしてみると、大和書房が仕掛けて積極的に「フランス人」ブームを作ったようにも思えてきます。

「フランス人は10着しか服を持たない」の著者は、2008年からライフスタイルブログ「The Daily Connoisseur」を執筆しており、その人気を背景にテーマごとにまとめられた本作は15か国で出版されているそうです。

大和書房は2014年以前は「フランス人」関連本を出していません。「10着は~」の出版後、ヒットを受けて機を逃さず「フランス人」をテーマにしたエッセイを掘り起こして出版していったようにも見えます。

海外で人気を博した作品シリーズを日本に紹介するにあたって、エッジの効いたタイトルをつけたのはもちろん、近しいテーマを次々に出版してブームを演出、牽引してきたのだとしたら、見事なマーケティングだと思います。(売上についてはデータがないので店頭や出版数だけでの印象です。)

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フランス以外への流行りの拡大はあったのか?

これだけ「フランス人」が持ち上げられたら、ドイツやイギリスにもついでにスポットライトが当たったりしないのか・・・?ということで、ブームの波及が起きていないかを調べてみました。

しらべてみたのは、フランスとはエスニックジョークで良く比較されるドイツ、イギリス、イタリアとアメリカ、日本と地理的・歴史的に関係の深い中国・韓国です。
それぞれ「xx人は~」のタイトルになっているもの(=お国柄断定タイトル本。以下「エスニック本」)だけピックアップしています。

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2014年からの「フランス人本」の増加はやはり圧倒的です。2015年には中国を中心にエスニック本が増えてはいるようなのですが、お国柄や文化を紹介して考え方にならうようなスタイルの本は、「フランス人」以外のバリエーションは広がらなかったようです。

1998年にもエスニック本の出版が盛んだったようなのですが、これは長野五輪の開催の影響だったのかもしれません。

2020年、東京オリンピックがなにごともなく開催されていれば、新たなエスニック本が出版されていたのでしょうか。あるいは2021年にむけて各社であらためてエスニック本の仕込みが進んでいたりするのでしょうか...。

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