ここでいう SHAME とは何なのかな
SHAME -シェイム その3
逃れられない過去。隠したい恥(シェイム)。セックスを隠れみのに男がひた隠しにする本当のシェイムとは。
改めて予告編を観て、「ええっ」と思いましたよ。タイトルは「恥」。主人公は何を恥じているのか、作中では何も描かれていない。描かれていないことを考えよ、という映画なのか。作中のシーンを伏線として、観たものはそれぞれの頭の中でストーリーを組み立てろっていうこと…?
物語である以上、主人公ふたり(兄と妹)の間に何かがあったと考えるのが順当として、「恥」となるレベルのことはどんなことなのか。禁忌(タブー)に触れることなんでしょうかね。セックス中毒と恋愛依存症という、ともに他者を強く求める傾向のふたりであれば、インセストという可能性も考えられるか。兄のベッドに妹が潜り込んでくるシーンもあったし。
故郷であるアイルランドで暮らしていたころ(ブランドンは18歳でアメリカに来たと語っていたはず)、子どもには過酷な環境(虐待とか、親の死みたいな)にあったため、互いを支え合ううちタブーを犯してしまったとか?
カトリックが多いアイルランドでは、ティーンの出産が多いという話を聞いたことがあるな。兄との深い関係によって妹は10代で妊娠・出産し、ふたりを離すべきと周囲の大人が判断。こんな事情から兄はアメリカに渡ることになったんだったりしてね。当時負った傷は大き過ぎて、今も癒えていない。で、ふたりとも兄妹愛以上の愛を、その後ももち続けていたとしたら。
インセスト、もしくはそれに近いものがあったとすると、いろいろなことに説明がつくような気がしてくる。セックス中毒の兄は、日常と地続きの場所にセックスをおくことができない。行きずりとか、プロ相手とか、自分を知らない相手と1回だけならセックスを楽しめるけど、いわゆる「愛情」を土台にした建設的な関係は無理そう。このことを本人はあまり自覚していないかもしれず、職場の気になる女性をデートに誘ったりもする。結果は、推して知るべし。妹との関係のこじれが、影響してるんじゃないか。
過度な結びつきを相手に求め、うるさがられることを繰り返している様子の妹もまた、兄と同様に安定した関係とは無縁だろう。好きになった相手とうまくゆかなくなるたびに、自傷行為を繰り返してきたらしい妹(シシー)の手首はそうとう痛々しい。この兄妹は、自分を痛めつけるようなサイクルの中に、自らを閉じ込めている。やめればいいのにやめないのは、なぜなのか。
都会で暮らす性に放縦な若い男女(兄妹)を描いているように見せて、痛々しくも不運な(かどうかははっきり分からないけど)過去を考えよというひねりのきいた設定が、各国芸術賞多数受賞という映画としての成功をもたらしたのかもしれないな。混沌としたエピソードの積み重ねの中から観る者がストーリーを紡ぎ出すっていう、現実に似たつくりの作品のようにも思えました。