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研修医のための薬の使い方

割引あり

はじめに

「薬の勉強したいけどよくわからない」「各分野の教科書を一から読むのはめんどくさいしお金がかかる」「”とりあえずこれだけ”の知識をサクッと学びたい」
研修医や非専門領域を学びたい専攻医の先生向けに、よく使う薬の使い方を総合内科医目線で解説しました。
あくまで非専門なので至らぬ点はありますが、研修医、非専門医ならこれくらい知っておけば十分です。

このnoteの内容

一般内科医が使う薬の使い方、位置付け、用法。また個人的な使い方、私見を含みます。初期研修医、非専門医に求められるレベルをちょっと超えるくらいの詳しさで書いてます。エビデンスにも多少は触れてますが、それよりも「じゃあどうするか」という実践的な部分を重視しています。「何を」「どれだけ」「何に気をつけて」投与するか、研修医に一番不足している「経験」を補う一助になれば幸いです。


輸液

・まずは輸液も「薬剤」であることを認識する。
・いろんな種類の輸液があるが、要するにNa濃度で分類している。Naの違いは浸透圧の違い。

輸液製剤のNa濃度とK濃度の違い

細胞外液と細胞内液
・体内の水分は細胞内液と細胞外液の2つに分かれ、そのうち細胞外液は間質液と血液に分かれる。細胞外液と細胞内液はNa濃度とK濃度が全然違う。

体内の水分の組成

・点滴は血管に投与するものなので、まずは基本的に血管内に分布する。その後、Na濃度が高いもの=高張液=細胞外液は血管内に残り、Na濃度が低いもの=等張液は細胞内に均等に分布する。
・水はNaと一緒に動く、ということをまず知る。そして日本語では「脱水」と呼ぶが、英語ではdehydraion=水分欠乏≒細胞内脱水とvolume depletion=Na欠乏による体液欠乏=血管内脱水に分かれる
・ざっくりいえば、volume depletionに対してはNa濃度が高い細胞外液の中でもっとも”生理的”な乳酸(or酢酸or重炭酸)リンゲル液を、dehydrationに対しては細胞内液、のうち5%ブドウ糖を投与すればいい。

リンゲル液の進化
結論、なんでもいい
・でもそれぞれの違いを知っていてなんでもいいというのと、知らずになんでもいいと言うのとでは違うので簡単に解説。

リンゲル液の進化の歴史
より血液の組成に近づけるためにアルカリ性のものを添加してきた歴史。まず乳酸。乳酸は肝臓で代謝されて重炭酸イオンになるが、重症肝不全の時は代謝しきれない乳酸が蓄積→乳酸アシドーシスになる。そこで今度は乳酸の代わりに酢酸を加える。酢酸は肝臓と筋肉で代謝されて重炭酸イオンになる。そしてとうとう初めから重炭酸イオンを加えることができるようになったのが重炭酸リンゲル。

・個人的にはまあ大差ないけどね、と思いつつ、重症例の蘇生にはビカーボン(重炭酸イオン)を使うようにしている。肝不全に対しては乳酸リンゲル以外を選ぶ意義はあると思う。
乳酸リンゲル液:ラクトリンゲル、ラクテック、ハルトマン、ソルラクト、ポタコールなど。製剤名の最後についているアルファベットは糖質の違い。ポタコールR、ソルラクトTMRはマルトース加乳酸リンゲル液で浸透圧がより血漿に近いらしい。
酢酸リンゲル液:ヴィーン、ソルアセト、ソリューゲンF、フィジオ140など。ソルアセト/ヴィーンFは糖質が入っていない→高血糖にも良い。フィジオ140はMgが入っていてより血漿の電解質組成に近い、糖が1%。
重炭酸リンゲル液:ビカネイト、ビカーボン。フィジオと同様にMgを含む。
・ここまで言っておいて最初に戻るが、これらの違いは臨床的には証明されていない。

1〜3号液

1-3号液の濃度

・生食とブドウ糖を1:●で配合したのが●号液。あまり使わないけど2号液、4号液もある。
・3号液はさらにカリウムを追加していて、2L投与すると1日に必要なNa、Kが維持できるので”維持液”と呼ばれる(とはいうものの維持液だけで維持できるとは言えない(後述))。
・1号液はNaが低くてかつカリウムが0なので、透析を含む腎不全患者、心不全患者(実際にはNa負荷はそこまで気にする必要はないが臨床では気にされがちな点も含めて)に使いやすく、「開始液」と呼ばれる。
・現実的には、透析患者や心不全患者には1号液を使い、経口摂取不可で点滴で水分補給をする場合に3号液が選ばれる。

5%ブドウ糖液
・「自由水」と呼ばれ、体の組成に応じて分布する(細胞内8:間質3:血管1)。
・使う場面としてはdehydration=高Na性の脱水のとき。
・●号液はdehydrationなのに部分的に生食を入れてしまうので中途半端。結局Na入れたいのか入れたくないのかどっち?となる。理想的には5%ブドウだけでいい。とはいうものの、実臨床ではそこまで割り切った処方はなかなか勇気がいる。

なぜ維持液では維持できないか
・人が1日に必要な電解質、水分量を計算すると、だいたいNa60mEq、K30mEq、水2000mLになる。︎
・「維持液」=3号液を2L入れるとNa70mEq、K40mEq、水2000mLが入るのでこれでいいんじゃね?と思いきやよくない。

1日に必要な水分量
維持液でヒトは維持できるか

・3号液を1日2L入れ続けるとだいたい数日で低Naになる。必要量を補っているのになぜ?
・一つの理解は血中より低いNa濃度の輸液で希釈された、というもの。これが分かり易ければこれでOK。もう一つの説を知りたければ以下。

「入院患者みなSIADH」理論。入院して絶食の状態は、体に結構なストレスがかかった状態。SIADHとは、ADHが”不適切に”分泌されてしまう病態。ADHは抗利尿の効果もあるが、末梢血管を締めて血圧を上げる効果もある。入院して絶食状態になるような患者の場合、そこそこストレスがかかっていてADHの分泌は亢進している。これはNaのコントロールにおいては”不適切”ではあるけど、血圧維持のためには”適切”な反応。つまり、入院するような患者では多かれ少なかれSIADHなのである。結果として、In/Out的にはちょうどいい量のNaを補充していても、水の再吸収が亢進する分低Naになってしまう、ということ。逆にいうと、必要量+αでNaを補充しないと濃度としては下がってきてしまうよ。といこと。

結局どうすればいいの?

・血管内脱水(急性期はほぼこれ)であればリンゲル液、細胞内脱水(高Na性の脱水)の時は5%ブドウ糖液を選択する。
これだけでいい。本当はね。

リンゲル液と5%ブドウ糖の分布

・細胞内液のうち5%ブドウ糖を選ぶ理由は”意図が明確だから”。細胞内液に入れたいならNaは0でよくない?Na入れたいならリンゲルでよくない?となる。
・実臨床では、維持期には3号液を2000mL/日投与する先生が多い。ただこれは厳密には間違っていて、低Naを助長するので勧められていない。
・リンゲルであれ5%ブドウ糖であれ、数日なら良いが、そのまま5-7日くらい経つと大抵Kが下がってくるので、KCL製剤やアスパラKを混注したり、内服Kを追加したりして補正する。もしくは点滴を離脱する。

極論を3行で
とりあえず乳酸リンゲル。高Naなら5%ブドウ糖。透析なら1号液、K下がってくるなら1日の半分3号液にしてもいい。

高カロリー輸液

・高カロリー輸液はとりあえずこれだけ知っておけばOK。

高カロリー輸液の成分

・ヒトが生きていくために必要なものを追加してきた歴史。カロリー、電解質、アミノ酸、脂肪、ビタミン、微量元素。
・腎不全なら最後に「RF」とついているものを選ぶ。カリウムフリー。
・短期間であれば不十分でもいいやという臨床医と、とにかく適正な栄養投与量にしたい栄養士や栄養管理チームとのギャップがある。

IVHとTPN
経静脈栄養を語る上でTPNとIVHの言葉について少しだけ。
どちらも「中心静脈栄養」の意味で使われがちだが微妙に違う。TPNはtotal parenteral nutrition=完全静脈栄養であり、消化管を使わず静脈から必要な栄養を補おう、そのためには”結果的に”中心静脈から入れることになるよね、ということ。一方IVHはIntravenous Hyperalimentation=経静脈高カロリー輸液で、急性期のカロリー不足は異化亢進などをきたしてよくないので「高いカロリーを入れようね」というニュアンスがある。
現在は急性期はむしろ高カロリーを避け、必要カロリーの7-8割程度の少なめカロリーの方がいいとされている。その影響もあって現在はTPNと呼ぶ方が一般的。

抗菌薬

・以前Twitterでもあげて、過去のnoteでも紹介したこの表をとりあえず参考にしてください。

βラクタム系

βラクタム系抗菌薬

・抗菌薬のメインはβラクタム系。
・βラクタム系の発展の歴史はGNRへの効果獲得の歴史。
・GNRは大腸菌、クレブシエラ、(プロテウス(表では省略))”SPACE”(Serratia、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Acinetobacter、Citrobacter、Enterobacter。院内感染で問題になる、耐性強めの菌。緑膿菌は特別厄介なので
別枠にしてます)の順で耐性が強くなる。

ペニシリン系
・連鎖球菌に効くペニシリンG→ちょっと広げたアンピシリ→βラクタマーゼを配合してGNRに活性を獲得したアンピシリン/スルバクタム。アンピシリン、アンピシリン/スルバクタムは内服があるので便利。AMPC、AMPC/CVA。
・きっちりカバーしたい時は内服抗菌薬はAMPC/CVA一択。
・耐緑膿菌ペニシリンのピペラシリン→βラクタマーゼを配合してGNRに活性を獲得したタゾバクタム/ピペラシリン。

セフェム系
・世代の進行はGNRへの活性拡大。その代わりGPCへの活性が低下していく。
腸球菌には全て無効。これ大事。
・第三世代以降は髄液移行性がある。
・大抵腎排泄で腎機能に応じた減量が必要。例外:セフトリアキソンは胆汁排泄、しかも1日1回で使いやすい。
・セフタジジムは緑膿菌活性獲得。
・”SPACE”の菌は培養結果で「S」が出たとしても第3世代以降のセフェムを使うこと。

カルバペネム系
・現状GNR対策で最広スペクトラムがメロぺネム。最後の切り札。

結局どうすればいいの?
・Empiricに使うならセフトリアキソンを基準に考える。腎機能関係ない、1日1回、髄液移行性、たいていの市中感染の起炎菌をカバー、と使いやすさ◎。
・嫌気性カバー必要ならABPC/SBT、CMZ。
・緑膿菌カバー必要ならTAZ/PIPC、CFPM。
・両方必要かつ外すと死ぬならMEPM。
・皮膚感染系ならブドウ球菌が多いのでCEZ。
・その他は培養結果を見て選択。

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