月に産まれたかった
昔々、幽霊が珍しかった頃には霊が視える体質を証明するのが難しかったそうです。今では考えられないことですよね。
昔の人に尋ねたら、どう答えてもらえたでしょうか。
「幽霊に満たされた空間では、霊が視える人にはどのように見えると思います?そこでは霊に触れる人は動きに不自由するでしょうか?」
今やその答えは明らかですね。霊が視えるだけの人は、幽霊で満たされた空間で何も視ることはできません。隙間なく詰まった幽霊に邪魔されて、部屋の壁の模様や親の顔、太陽の光すら見えません。
霊に触れられる人はもっと悲惨です。産まれた途端、満ちた幽霊で呼吸器が詰まり息もできないのです。そして、多くはそのまま亡くなります。……私のように、この山で産まれたのでなければ。私は恵まれている方でしょうね。
一点だけを除いて、私の目に見える世界は他の人と変わらなかったからです。山から見下ろした足元に、満ちて溢れた幽霊の海が波打っている事以外は。
私は恐らく、一生この山を下りられません。それは少し不便で悲しいことかもしれませんが、仕方ないと思っています。
生きている限り、世界はまだ上にも広がっているのですから、いつかは空を旅したいですね。
私はいつも、見上げる月を羨ましく思っています。あの星では、まだ一人の人間も亡くなったことが無いそうですから。
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