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【和訳】アリーチェ・ロルヴァケルのクライテリオン・コレクショントップ10

2018年12月にCriterionで公開された「Alice Rohrwacher's Top 10」を日本語に訳してみました。アリーチェ・ロルヴァケル監督が、クライテリオンが出している円盤から好きな11作品を選んでいます。

https://www.criterion.com/current/top-10-lists/349-alice-rohrwacher-s-top-10

1.『皆殺しの天使』(1962)
ルイス・ブニュエル
2.『ビリディアナ』(1961)
ルイス・ブニュエル
(1,2はリストの中では同率1位の扱いとなっています)
私にとってブニュエルの作品はとても大切なものです。なぜなら、彼の作品のおかげでどれだけ想像を使えるか、それでいながら現実にすごく近い状態でいられるかについて理解することができたからです。『皆殺しの天使』は非常にリアルです。これを聞けばブニュエルはあまり喜ばないかもしれません。彼はリアリズムで有名だったわけではありませんから。ただ、非現実的だとしても、作品の雰囲気の中で生きているような気持ちにさせてくれるような場所にはたくさん出会ったことがあります。社会に関するドキュメンタリーのようなのです。
『幸福なラザロ』を制作していたとき、ラザロは善い人なので、善い人になる方法について語る映画をいろいろ観ました。『ビリディアナ』もその一つでした。

3. 『ストロンボリ/神の土地』(1950)
ロベルト・ロッセリーニ
私にとってロッセリーニは巨匠です。ネオレアリスモという枠の中で語られがちですが、その枠に収まりきらない人物だと思います。彼の作品には素晴らしい脚本と見事な俳優陣が使われていたものの、活き活きとしていました。常に監督を驚かす何かがあることが感じられます。人生に対して心を開いていく様子が感じ取られるのです。『ストロンボリ/神の土地』は人間と自然の関係性を深堀りするため、私にはとても重要な作品です。非常にしっかりとした、伝統的な構造を持っていますが、それと同時に神秘を入り込ませる隙間もあります。

4.『勝手にしやがれ』(1960)
ジャン=リュック・ゴダール
映画のリストを作る上で、ゴダールは欠かせません。なぜなら、この芸術分野において、最高の実験者であったからです。彼は常に何か違うこと、先を行くものを探していて、それを止めることはありませんでした。『勝手にしやがれ』が私にとって大切であるのは、初めて驚かされ、感嘆した映画であるためです。15~16歳頃でしたが、それまでは商業映画しか観たことがなかったので、自分の世界を揺るがす大きな衝撃を受けました。初めて映画というもののイメージが広がり、頭の中で映画は様々な意味を持つものとなりました。砂糖は甘いだけと思っていた私が、何千もの味があることを発見したかのようでした。『勝手にしやがれ』は、映画とは実に多様な領域と語り方の可能性を開くものであり、大きな世界が広がっていることを教えてくれました。

5.『アラビアンナイト』(1974)
ピエル・パオロ・パゾリーニ
パゾリーニの全ての作品には毎回驚かされ、感嘆します。なぜなら、深い教養を持っている人が映画を通してその世界から離れることに成功したからです。ある世界を脱ぎ捨てて、裸の状態で世界に飛び込んだのと同じようなことです。この作品で彼は『千夜一夜物語』の最も深い意味、壮大な語りをパトス、心理的感情、センチメンタリズムといった要素を一切入れることなく、忠実に描きました。作品を駄目にし得たところを彼は成功したのです。余計なものは何も足さず、ただ作品に忠実に物語を撮ったのです。

6.『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)
アキ・カウリスマキ
感情表現に関連するよくある要素をあえて取り除くことで、観客に温かさと特別な感情を強く抱かせるアキ・カウリスマキが本当に好きです。彼は登場人物の持つ背景が一気に分かる一つのショットや動作で人間を捉えることに長けています。あまり真剣にならずにとても真剣になることができるのです。彼の作品で重要なのは、イメージの持つ強さを信じていて、足し続けることの必要性を感じていないことです。

7.『冬の旅』(1985)
アニエス・ヴァルダ
アニエス・ヴァルダは自分の表現を守ることに長けているので、尊敬している監督の一人です。皮肉というものは身につける必要があり、それをやってのける数少ない映画監督は私にとって巨匠なのです。自身の人生とはかけ離れている物語を扱っていても、彼女のすべての作品はネックレスのビーズのように輝き、彼女を装飾するものとなるのです。そして驚かされるのは、自分の視線と人生と深くつながっている物語を扱うときも普遍的であることです。

8.『こわれゆく女』(1974)
ジョン・カサヴェテス
カサヴェテスのキーワードを選ぶとすれば、それは「俳優の自由に加わる喜び」です。彼は俳優の持つ素晴らしさを最大限に活かしました。カサヴェテスの見事な手腕によって導かれた俳優たちは、それ自体の中に大きな自由がある構造へと観客を案内していきます。試合には選手がいてルールもあるのですが、試合の結果は選手の能力にかかっているのと同じです。

9.『沼地という名の町』(2001)
ルクレシア・マルテル
この作品を選んだのは、天才的な賢さを共有する感覚のためです。本当の才能に観客が参加することのできる方法について理解できるのです。めまいがします。このずば抜けた賢さは特定のイメージやディテールに表れていて、先を見ること、深く見ること、あるサインを追うことへの欲望を刺激します。私にとって彼女の作品でもう一つ重要なのは恐怖へのアプローチの仕方です。それまで持っていなかった新たな恐怖を感じさせる怖い映画は好きではないです。そのような映画は全く好きではありません。しかし、ルクレシアの映画はすでに持っている恐怖を表面化させ、そのような恐怖を見せることで、それを受け入れ、理解し、克服することができるのです。

10.『木靴の樹』(1978)
エルマンノ・オルミ
オルミは映画がどのように歴史を捉えることができるかを示してくれます。彼は素晴らしいやり方で歴史の重要な瞬間を活き活きとさせることで、歴史を見せることに成功するのです。『木靴の樹』はこれが最も顕著に表れています。愛と誠意と敬意をもって歴史を見ていて、すごく尊敬します。

11.『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(1990)
ジェーン・カンピオン
この映画を観るとき、語り、物語の完成に参加しているように感じます。誰かが「物語を共有したい」と言い、その語り口、色や俳優たちの演技を通して没入しているような感覚になるのです。その物語を聞いていると、水の中にいて流れに身を任せているような気分になれるくらいすごく楽しいのです。

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