君らに好かれても嬉しくない
夏真っ盛り。
バテ気味の人間を尻目に、「やあ」と登場するのが虫たちだ。
私は虫が大の苦手で、小さかろうが益虫だろうが、出ると騒ぐ騒ぐ。
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幼少期、祖父母の家が川の近くにあったので、夏になるとコバエが家にやってきた。
名前を連呼したくないので、ここからは彼ら(彼女ら?)と呼ばせてもらおう。
彼らは醤油差しが大好きで、お寿司パーティーをしようものなら、喜び勇んで飛んでくる。
酢飯のにおいも好きなのか、見張っていないとすぐに寄ってきてしまう。
私は彼らが止まった部分のシャリを食べることに躊躇した。
それを見た祖父が
「おじーちゃんはね、戦争に行ってたから、このくらい、なーんてことないんだよ」と大らかに笑って食べてくれたこともあったな。
うん、気持ちの問題なんだよね。
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呼んでないんだから放っておいてくれればいいのに、私は彼らにとことん好かれているような気がしてならない。
カフェでランチしているときも、私にばかり寄ってくる。手のひらでしっしっと払ってもお構いなしだ。
他にも食べてるお客さんはいるのに、なぜ……。
片想いの猛アタックにも程がある。
ウォーキングをしているときも、彼らはついてくる。
最寄駅から家までの帰り道でのこと。
頬にかすかな違和感があったが、まあいいかと歩みを進めて帰宅した。
あとあと鏡を見てみたら、小さな糸ぼこりのよに、ぺちゃんこになった彼が付いていた。
勝手に人の顔に突進して、そこでお亡くなりになるのはやめてほしい。
もしかして、私が臭いせいなのでは?と心配になったのだけれど、家族にも異臭がないことを確認したし、シャワー後すぐ外出したときも同じようなことが起きたのだ。
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原因は日焼け止めにあるんじゃないか。
日焼けすると皮膚が赤くなってしまう体質なので、春夏は日焼け止めが欠かせない。たぶん相当な量を塗っている。
日焼け止め特有の薬品臭が、どうやら彼らを刺激してしまうようだ。
ウォーキングのとき、私は効果を上げるべく歩くペースを意識的に速くしている。
人のいないところでは爆速だ。
だとすると、
「わー、いいにおいー」と飛んできた彼を顔面で轢いてしまっていたのは私、ということに。
そう思うと、なんか、ごめん……という気にもなるのだった。
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虫除け効果のある日焼け止めもあるらしいが、どれも独特なにおいがありそうで、なかなか手が出せない。
今使っている日焼け止めはカラーコントロール効果があり、石鹸で落としやすいところが気に入っているので、手放しがたくもある。
数匹寄ってきて、もうどうにもならん!となったときは、そういった商品も手段として検討してみたい。
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