「混ぜるなキケン!」日本手話と中国手話が頭の中で大混乱!
中国人のろう者たちとの交流
コロナ前の数年間 中国にいた私は、中国語ができないおかげで(?)中国人のろう者とはあっという間に友達になれた。
「イメージ言語」としては日本手話のバックグラウンドがあったので、音声で勉強する中国語より断然早いスピードで中国手話を習得できたからだ。
最初のうちは日本手話しか使えなかった私も、中国人のろう者たちとの交流によって
徐々に中国手話を習得し、彼らとのコミュニケーションがある程度楽しめるようになった。
彼らは彼らで私の日本手話を見て意味を推察し、中国手話の表現を教えてくれる。
もちろん辞書を片手に単語を見せながら教えてもらうこともあったが、辞書などには載っていない特有の概念を伝える手話もやはり数多い。
日本手話にはない発想もあり、なかなか簡単にはいかなかったのだが
国籍に関わらずろう者たちは初めて見た外国の手話でもなんとなく意味がわかるようで中国でもろう者たちの方が辛抱強く私に教えてくれた。
私が日本人で中国手話ができるということで、日本好きのろう者の女の子たちからは日本の女子高生の「生足」は真実なのか、など面白いことを次々と聞かれた。
確かに中国では“体を冷やすな”とみんな子供の時から刷り込まれていて、若い女の子たちの足元は分厚い肌色のタイツのせいで全然ファッショナブルじゃないのだ。
だからこのろう者の彼女にとって日本の女子高生が制服のスカート丈を短くし、生足にルーズソックスを履いているということがどうしても信じられなかったらしい。
また、あるろう者が「この人日本人だよ」と私を友達に紹介すると、「絶対ウソだ」と信じてくれないろう者の人もいた。
なんでそんなウソをつかなきゃならないのか、と突っ込みたくなったのだが彼はなかなか信じてくれない。日本語で話しても聞こえないし、日本語を書いて見せても「これが正しいかなんて分からない」と言われて、最後は「まぁ、中国人に見えるほど溶け込めていると言うことか」と自分で納得したのだった。
当時はもちろん中国語も一生懸命勉強していたのだが、ろう者たちと過ごす時間の方が私にはストレスや緊張がなく本当に楽しかった。だから音声言語のほうはいまだにさっぱりである。
そんなわけで私の脳はろう者を目の前にすると中国語の単語が浮かび、自然と手が動き、中国手話が出てくるようになっていた。
「あの悪い人が…」???いや、「あの女の人が…」???あ、ちょっと待ってなんの話?
そこで、見出し画像の手話の話である。
コロナでとりあえず帰国することにした私はしばらくして日本で規制も緩和された頃、久しぶりに日本のろう者たちとも会う機会が増えていった。
ところが私の脳内では「手話」と「中国語」のシナプス回路が完全に出来上がっており手話で話そうとすると中国手話しか出てこないのだ。
最初はキョトンとしていたろう者の友人たちもクスクス笑い出し、こりゃダメだ、といったふうである。
逆に友人たちの日本手話が全て中国手話に見えて私の頭の中は大混乱である。
最後には友人の方が中国手話のいくつかの単語をあっという間に覚えてしまい、たった数時間の短い再会のひとときの間に、ふざけながら中国手話で返事をしてれるようにさえなった。
見出しの画像通り、日本で「男」「女」を表す手話も中国では「良い」「悪い」となってしまう。
日本手話で女性に話しかける時、相手を指差して「あなた」、そして「女」と小指を立ててからそれを主語にして相手に話すのだが、これを中国人の女性のろう者にやったものだから「私は悪人じゃない!」とやり返されたのだった💦
「あなた」「悪い」という意味になっていたことを後で知ったのだが、しばらくは日本手話の癖が抜けず同じことをやらかすので、その度に相手を怒らせ謝ってばかりいた。
時間を約束する時も注意が必要だった。日本手話の「10」と中国手話の「9」が同じだからだ。手話も同じで口型まで同じなので危うく約束の時間に会えないところであった。「10 じゅう」と「九 jiu ジウ」…見事に丸かぶりだ。
この状態は外国語を二つ以上勉強した人と同じ状態なのかもしれない。音声にしろ手話にしろ第二言語と第三言語は混ざりがちであると私は思っている。
ただ一つの外国語に取り組んだ場合、母語との混乱は起こりにくい。しかし第二、第三…となると途端に混乱し始める。
私にとって日本手話と中国手話はまさにそれである。
なので日本のろう者が中国手話を覚えても恐らくきちんと切り替えられるのではないだろうか。
とはいえ個人の能力によるところも多い。3、4ヶ国語できる人だっているんだから。
そういえば“言語マニア”の日本人のろう者にあったことがある。彼は完全なる“デフファミリー”の一員でご両親も彼自身もろう者なのだが、日本語の能力も完璧で、夜 難しい文献を読みながら一人ちびりちびりとやるのが至福の時間なのだとか。
彼はもちろん手話も堪能で国際手話、中国手話もサラッとやってのけたりする。
こんな人がいるものか…と心底驚いた。
中国のコロナ事情が落ち着いたらまた向こうへ行こうと思っている。
そうするとまた私の脳はあの「大混乱」を引き起こすのだろう。