地球上には、どんだけの数のティラノサウルスがいたと思う?科学の面白さを知る英文記事に出会った件
これまで、地球上にどれだけの数のティラノサウルスが生息していたと思う?
ほとんどの人が、「そんなこと、わかるわけないじゃん」って思うに違いない。近くに子供ちゃんがいればこの質問をしてみて欲しい。想像力豊かで頭の柔らかい子供たちは、多分、奇想天外な答えをしてくれると思う。そういう発想力をもつことが、科学の発展や発見の第一歩だ。
さて、私はというと、福井県の恐竜博物館を堪能した経験こそあれ、恐竜のこと(ましてや数なんて)は、深く考えたことなかった。が、ちょっと真剣に、どうしたらソレが分かるか、その可能性を考えてみた。
化石から食べ物を推測し、その食べ物が存在した量から換算?が、しかし、そもそも食べ物なんてわかるんかい?すでにわかってるんかな?わかってるとして、存在した量はどうやって知るよ?……と、次々と壁にぶち当たる。(もう一回恐竜博物館行かなあかん?)
しかし、こういった一見無駄そうなことをうだうだ考えることって、科学の根源なんだなと思わせるちょっと素敵な記事に今回出会った。
How many Tyrannosaurus rex walked the Earth?
「地球上にいたティラノサウルスの数は何頭?」
これまでに地球上に存在したティラノサウルスを数える方法を述べた学術論文を解説した記事だ。
恐竜ティラノサウルスは、英語ではTyrannosaurus rex、略してT-Rexって呼ばれている。なぜrexがついているのかは後で説明するとして、冒頭からの命題の答はこうだ。「これまで、地球上には25億頭のT-Rexが存在した」らしい。最近、科学者のチームがそんな論文を発表したのだそうだが、一体どうやって数えたのか。それが非常に興味深い記事だった。
学術誌「Science」で発表された元の論文はこちら。
科学者でない素人が、こういった学術論文(しかも英語)を理解するには根気がいるが、前述の記事は、論文の要旨をかみ砕いて解説しているので理解しやすい。
これを私が、さらに日本語にかみ砕いてみようと思う。
数字に至る考え方と算出方法
要旨は、「地球上には、約240万年の間に計25億頭のティラノサウルス・レックス(T-Rex)が存在していたことになり、その間、常時2万頭の個体が生息していた」とのことで、論文には、その数字に至った考え方の根拠と算出方法が解説されている。
まず、人口(人=T-Rexと読み替えて下さい)を推定するため、研究チームは、T-Rexに関するこれまでの研究データに、「人口密度と動物の体格の関連性」という生態学的な原理を組み合わせた。
化石にみる骨の成長パターンから、T-Rexの交尾は15歳前後から始まると推定されるらしい(早熟)。また、記録により、T-Rexが何歳程度まで生きられるのかという確率もわかっているそうで、この2つの数字から、T-Rexが世代交代するは、おおよそ19年周期と推定された。種として存在していた期間は、120万から360万年と判明しているらしいので、これらの情報から、T-Rexは、6万6,000〜18万8,000世代にわたって存在した・・・という計算になる。
ダムスの法則
こうして化石に潜む記録から、世代交代の「回転率」は算出できたが、もし一世代ごとの個体数を推定できれば、これまでどれだけの数のT-Rexが存在していたかがわかるということになる。
生態学では、体重と人口密度の関係を示す「ダムスの法則」というものがあるそうだ。例えば、1平方マイルの草原では、ゾウよりも体の小さなウサギの方が数多く生息できる。代謝量も関係していて、より多くのエネルギーを消費する動物はより多くのスペースを必要とする。なるほど。
推定されるT-Rexの体重や代謝を「ダムスの法則」に充てると、約100km²に1頭のT-Rexが生息していたと推定されることになるらしい。これは、ワシントンD.C.に2頭いるくらい。
(う~んわかりにくい。大阪市、さいたま市や水戸市がD.C.と同じくらい。まだわかりにくいか~。東京23区が627.6 km²なので、東京23区内に6頭でどうでしょう?)
この人口密度と生息可能だった面積から換算すると、1世代あたり20,000頭の個体がいたと推定されるのだ。
なぜ個体数が重要なのか?
平均的な個体数がわかれば、T-Rexの化石化率を計算できる。これは、6600万年後の現代にまで骨が残り、今の我々がそれを発見する確率。答えは、約8,000万分の1。ってことで、、博物館に展示されている個体標本は、8,000万頭のT-Rexの成体のうちの一頭なんだということです。
(福井に展示されているのは本物か???)
この数字が示すのは、現在ある化石の記録がいかに未完全であるかということ。つまり、希少な種がまだどれだけ存在し得るかを、研究者が知る手掛かりにもなるのだ。
今回試みられたこの手法は、T-Rexの化石化率を算出するだけでなく、他の絶滅種の人口規模を算出するのにも利用できるそうだ。
それでもまだ途中
絶滅した動物の推定値については、常にある程度の不確実性を含んでいる。(やっぱりね)T-Rexの人口密度の推定値は、7km²に1頭から1,724km²に1頭というアバウトすぎる範囲。皮肉にもこの不確実性の最大の原因は、計算の根拠である「ダムスの法則」が持つ弱点にあるといえる。考慮すべきバリエーションが膨大過ぎるのだ。例えば、北極ギツネとタスマニアデビルの体格は似ているが、タスマニアデビルの人口密度は6倍もあるらしい。
しかし反面、現存動物の研究が進めば、T-Rexの推定値がより絞られるという朗報ともとれる。
また、他の絶滅した恐竜の化石化率もわかっていない。ある種の化石がたくさんあるということは、T-Rexよりもたくさん生息していたのか、それとも単に化石の回収率が高いだけなのか。謎は多い。(その分夢があるってことで……)
今後の展開
今回の研究は、T-Rexの生物学や生態学に関する他の隠された事実を発見するきっかけになる可能性がある。
例えば、オオカミとヘラジカの捕食者と被食者の関係のように、トリケラトプスの生態に合わせて、T-Rexの個体数が上下に変動していたかどうかを知ることができるかもしれないのだ。しかし、他のほとんどの恐竜については、豊富なデータがまだまだないというのが現状のようだ。
この手法は、他の絶滅した動物にも適用できるだろうけれど、まだまだ研究は途上ということ。(やっぱ夢あるな)
いかがだろう。
こういう考え方はできないか?
こう仮定するとどうだろう?
こういう、考えを巡らせ組み立てていくことが、科学的な探求心をくすぐるのだ。
そういう機会を理科の時間なんかに、もっと与えて欲しかったなと、つくづく思う。まあ今からでも遅くはない。
あ、そうそう、T-Rexという呼び名だが、rex はラテン語で「王」の意味があるらしい。本当にティラノサウルスが恐竜の王だったのかどうかは、これまた想像力を働かせる良い素材だ。
「ジュラシックパーク」を久々に観てみようかな……