中二病と思っていた幼馴染、マジの英雄でした(1)
あらすじ
私の仲良しの幼馴染だった伊吹は、10歳の頃に引っ越してしまった。
それから4年が過ぎ、隣に引っ越してくることになった。
再会を喜ぶも束の間、いつからか伊吹は重度の中二病患者(なにやら死闘を異世界で繰り広げていた英雄設定らしい)に。
しかし、それは本当の事らしくて……!?
プチコメディ現代ローファンタジー、開幕!
私の幼馴染は、中二病そのものだ。
小さい頃は一緒によくゲームやアニメに触れて遊んでいただけに、その影響がもろに出ているのだろう。
某ロボットでいうところのゲッ〇ー線を浴びて、変異したように、某特撮でいうなら変身や紅い玉と融合したように、彼はいつからか変わってしまったらしい――。
彼は10歳になる頃、そして私が11歳のころ親の転勤によって引っ越してしまっていた。
もう会えないのかもしれない。
そんな思いがどうしてもあって、夜なべして作ったミサンガを送ったのを覚えてる。
いつか、会えますようにって。
「もしもまた会えたら、一緒に遊ぼうね」
夕暮れ時、携帯ゲーム機の通信をするのに使ってた公園で抱きしめ合ったっけ。
あれから、三年後の今では隣のアパートに越してきたこともあって、また昔みたいに遊べるかと期待していたのだが――。
「あまり僕に触れないでくれよ。右腕には鬼魔神ブジンが、左腕には原初ノ魔王バリアル、この身には天陸海の女神の加護が備わっている……君が触れて無事で済むようなモノじゃあないんだ」
今では、コレである。
学校に登校する際、幼馴染のよしみで一緒に肩が触れただけでこう返している――そう、立派な中二病の罹患者になっていたのだ。
それも重度な物で、両親も心配するような言動も多くなっているらしく、鏡の前で手のひらを見せつけるような仕草をしてみたり、極めつけはその髪色だ。
艶やかだった黒髪は、今では太陽に照らされたまま通り過ぎていくような白髪に染まっているし、赤茶色のだった目も、片目は眼帯に塞がれてしまっている。
いつからか、見ない間に変わってしまったものだ。
別に、人として良くも悪くも変化が来るのはおかしくないと思っているし、どうだっていい。
けれど、昔のアイツがまるきり居なくなってしまったみたいで、寂しかった。
どうせ頭の中でしか思えないし、言ってもやらないけれど。
けど。
「ふぁあ……」
「眠いのか、まぁ仕方ないよ。ほら、よだれ出てる」
欠伸を必死に抑えていたつもりが、よだれが出てきていたらしい。
それを見ていた伊吹はティッシュを差し出してくれた。
こういう優しさを見ると、やっぱり雰囲気だけは変わらない。
そう思うと、猶更寂しくなるけれど。
ポケットティッシュから一枚を抜き取って、軽くよだれを拭きとった時。
「! 待て……この感覚。“奴”か! 馬鹿な、奴はとっくに滅ぼしたというのに!」
「え?」
「破滅の帝王……あいつが完全復活すれば、デルタガーン国の二の舞では済まない! ごめんよさやか」
伊吹がそう言うと、カバンをこちらに持たせてガードレールを飛び越え、どこかへと走り去っていった。
朝礼をすっぽかす気だろう。
伊吹は昔運動神経が悪かったし、かけっこだとか体を激しく動かすような遊びでは、いつも哀れな程の負けっぷりを披露していた。
しかし、どこから鍛えたのか、今ではガードレールを飛び越え、もう遠くで小さくなって、トラックと並走すらしている。
陸上選手にでもなるつもりだろうか――でもだからといって学校をさぼるな!
「おーい伊吹ー! 待てって! おーい! 轢かれても知らないよー!?」
三分の一心配、三分の一に脅し、三分の一鞄を肩に持たせられた腹いせに、道路に向かって叫ぶ。
もう彼には聞こえていないのだろうけど、それでも叫ばずには居られなかった。