『イカゲーム』韓国人俳優たちの演じ方。
Netflixドラマ『イカゲーム』面白かったですねー!
いや〜毎回ラストの「え〜?この後どうなっちゃうの〜?」っていう引きがあまりに上手くてw、全9話すべてをついつい2日で見てしまいました。
俳優も素晴らしかった。このドラマ、なんとNetflix史上最大のヒット作になったそうで、それって彼ら韓国人俳優たちの芝居が世界中の人々の心を動かした、つまりエンタメの世界水準に届いた!ってことですよね。
日本のネットでは日本の漫画とか映画が元ネタじゃん!とかいろいろ言われたりしますが、ではなぜその元ネタは世界の壁が越えられずに、『イカゲーム』はそこを越えることができたのか?・・・「演技」がまったく違うんですよねー。
今回はそのあたりを掘り下げてみましょう。
セリフでなく演技で物語が語られている。
ボクが『イカゲーム』で最初に引き込まれたのは、第1話の地下鉄ホームでメンコをやって10万ウォンを争うシーンで、ここで「このドラマは面白いぞ!」と確信しましたね。
主人公ギフンは、もともと大きな企業に勤めていたものの、脱サラに失敗して借金まみれになって、離婚もされて子供と離れ離れになって、現在は運転代行のバイトで腐ってる男です。
そんなギフンはある夜地下鉄のホームで見知らぬスーツの男に「メンコの勝負をしませんか?私に勝ったら10万ウォン(約1万円)あげますよ」と持ちかけられます。ここでの札束を見せつけられたギフンは喉から手が出るほど欲しいのに、偉そうな態度で「いいけど、もしウソだったらブッ殺してやるからな」とか言う感じ、ギフンの心理の裏表が同時に全部見えちゃう芝居をしてるんですよねー、うまい。
特に「あなたが先攻で」と言われた時のリアクション(笑)、あ〜人ってこうなるよねえみたいにパクッとエサに食いついちゃう姿には笑いました。
・・・でまあ、ギフンはあっという間にメンコ勝負に負けてしまいますw。彼は10万ウォンなんか持ってないのでその代わりにビンタを1回されるんですが、ギフンはそこで燃え上がってしまって、何度も再試合を挑んで・・・何度も何度もビンタされるんですw。
これ、どーしてギフンだけが何度も負けるのか・・・ギフンは理解できてないんですよ。彼はたまたま負けた・・・運だと思ってる。でも違うんです。スーツの男とギフンの間には圧倒的な「メンコの技術」の差があって、メンタルのコントロール能力にも圧倒的な差がある。そう、ギフンはスーツの男に勝てる条件がいっこも整ってないんです。なのに相手の見た目がサラリーマン風だからって「次は一発逆転できるはず!」とか思っちゃうギフンだからこそ、脱サラして始めた事業も失敗するし、奥さんにも見限られて離婚されちゃうし、どんなギャンブルをやっても勝てないし、イカゲームの船にも自分から乗ってしまうのです。
そう、このメンコの勝負ではギフンの人生がなぜ負け続きなのかの全てが見事に語られていて・・・それが彼のほぼ無言の芝居で演じられているのです。
いや〜見応えがある。
実はこれと同じようなことが語られるシーンが映画『カイジ』にもあるんですが、これが全て黒幕・利根川のセリフで語られてるんですよね。
『カイジ』で言葉で説明されていることが、『イカゲーム』では芝居で演じられている、しかもスリリングなバトルシーンとして。
どちらの方が世界中の人に通じるかといったら、それは一目瞭然ですよね。
『カイジ』は論理、『イカゲーム』は心理。
そう、『イカゲーム』の芝居を説明するのに『カイジ』の芝居と比較するのがすごくわかりやすいんです。
例えば『カイジ』では「わかったぞ!」「違う!騙された!」など【思考の流れ】でバトルシーンが進行してゆくんですが、『イカゲーム』では「恨み」とか「怖れ」とか「助けたい!」など【情感の流れ】でバトルシーンが進行してゆきます。
いや『イカゲーム』でも裏のルールを解き明かされるとか、そういうスリリングな展開もあるんですよ。あるんですが、それはゲームの合間合間にササッとセリフで早口で説明してしまって、いざゲームが始まるともう焦点は「その裏のルールがわかったことによってみんなの心理がどのように変化してゆくのか」一点になるんですね。
だから謎が解ければ解けるほどじつは先が読めなくなってゆく。論理的ではない、アッと驚くような人間の行動が次々と出てくるからです。
『イカゲーム』では物語が論理ゲームではなく、心理ゲームで演じられているんです。
韓国俳優の「限定しない」役作り。
ようするに『カイジ』に比べて、『イカゲーム』はストーリーテリングの多くの部分をセリフや仕掛けではなく、演技で表現しているんですね。なぜそんなことができるのか。それは韓国のエンタメ映画に出演している俳優たちの演技がここ10年くらいで飛躍的に進歩していて、もしかしたら日本のエンタメ映画に出演している俳優たちの演技を追い越してしまっているからかもしれません。
「演技とは何か?」の定義自体が日本と韓国とでは違っているんですね。だから日本で上手い俳優と、韓国で上手い俳優では演技が全然違うことになっている。
日本では喋り方を特徴的にしたり、動作を特徴的にしたり、怒りっぽい・怖がり・楽観的・理性的など・・・ようするに「人物の行動を限定することでキャラクター性を確立」しようとする方式が一般的です。
これが韓国ではキャラクター性を確立しようとする時に「限定」によってキャラを立てるのは超脇役だけなんですよね。主要な人物はもっと別な方法でキャラクター性を確立します。
それは「相手によってどう態度が変わる人物なのか」「状況によってどう態度が変わる人物なのか」でキャラクター性を確立する方法です。
なので日本のキャラはどんな状況でもどんな相手を目の前にしてもキャラがブレないんですが、韓国のキャラは相手や状況によって感情や行動がどんどん変わってゆくんです。『梨泰院クラス』とかもそうでしたね。
だから先ほどのメンコのシーンでも、ギフンは状況によって喜怒哀楽すべての方向に感情が動きまくり、行動も発する言葉もそのニュアンスもコロコロと変わってゆきましたよね。それって我々リアルな人間と同じじゃないですか。リアルと同じ・・・つまり生々しい芝居なわけで、それを上手い俳優が演じると超魅力的なキャラクターになるんです。
『イカゲーム』のあのよく怒鳴る女w、ハン・ミニョも強烈なキャラクターでしたが、彼女の行動や態度も相手や状況に反応してコロコロ変わりまくってましたよね。威嚇したり、媚びたり、リーダーシップを発揮しようとしたり・・・キャラクターの行動を「限定」しないで「どう変わるか」で人物像を表現しています。
キャラクターの掴みかた、表現の手法が日韓でまったく違っているんです。そして韓国のその役作りのやり方はハリウッドの最新の方法と多くの共通点が見られます・・・まさに世界水準を狙っているわけですね。
韓国俳優にあこがれる日本の若者たち。
韓国の俳優さんは、例えばソン・ガンホさんとかもデビュー当時と『殺人の追憶』『グエムル』の頃と今では演技法が全く変わってますからね。あんなにベテランで皆に尊敬されまくっている俳優でもまだまだ新しい時代にあった芝居を研究しているんです。
『イカゲーム』の主演俳優イ・ジョンジェさんも『イカゲーム』では今までのヒット作とは違った芝居にチャレンジしたと語っています。過去の栄光に安住せずに常に新しい演技を学ぶ・・・そういうスタンスだからこそエンターテイメントの最前線に長いこと立ち続けることができるのでしょうね。
ボクは若い俳優さんの演技レッスンなどをしてたりするんですが、最近彼ら彼女らから「韓国の俳優みたいになりたい」という言葉を聞くことがすごく多くなりました。
最近の普通の若者に好きな俳優・タレントを聞いた時も、韓国の俳優・タレントの名前が出てくることが正直多いです。彼ら日本の若者たちが韓国の俳優のどんな部分にどんな魅力を感じて憧れているのか・・・我々はもっと韓国の俳優たちを研究して、理解すべきなのかもしれませんね。
小林でび <でびノート☆彡>
【追伸】
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(追記:18日19日ともおかげさまで満席になりました。ありがとうございます。今後の申し込みはキャンセル待ちになります。よろしくです☆)