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チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』の目が離せなくなる演技!

チャイルディッシュ・ガンビーノをご存知でしょうか?

今年の5月に発表した新曲のMVが、そのショッキングな内容がバズってビルボード初登場1位を獲得したラッパーなんですが。

このMVがやはり凄い。内容もすごいんだけど、とにかくキュートで、曲もダンスも最高で、映画『バードマン』的な長回しの撮影も大胆かつ緻密で最高なんですが、なによりも演技がビックリするくらい最高なので紹介させてください。

ではご覧ください、チャイルディッシュ・ガンビーノで『This Is America』。

どうでした? ビックリしましたよね?

このMVがいかに凄い映像作品かは、ネット上でホント物凄い数の人が評論とか分析を書いているので彼らにお任せするとして、ここでは人物の演技について注目してゆきましょう。

彼、ガンビーノ、魅力的でしたよね?彼から目を離せなくなりませんでした?

そうなんです。YouTubeにこの曲を初めて見た人達のリアクションを撮影したものが幾つかアップされてるんですが、最初の発砲からみんな彼から目が離せなくなってるんです。男性も女性も若者も中年も、みんな大なり小なりショックを受けているのですが、なら目を背ければいいのに逆に目が離せなくなってしまっている姿が動画に映っています。

これ、なぜなんでしょう?

彼から目が離せなくなりませんでしたか? ボクも初見の時そうなりました。そして100回以上見た今でもそうです(笑) 冒頭から順に解説してゆきましょう。

冒頭、ギターの素敵な演奏と共にガンビーノの直立した後姿が見えてきます。不穏ですw。死の匂いが漂ってくるのですが…太鼓のリズムに合わせて彼が首を動かす動作で、観客はちょっと安心します。そして彼が全身をくねらせてリズムを楽しみ始めると先程のYouTubeリアクション動画の人達も笑みがこぼれて、彼と一緒に身体を動かし始めます。 彼の変な表情やキュートなダンスで笑ったり、音楽の喜びが盛り上がってきたところで・・・1度目の発砲です。

発砲してから彼の態度が急にシリアスになります。ボーヤみたいな若い黒人に拳銃を渡し「This Is America」・・・ここで観客はわからなくなります。このMVをどんなスタンスで見たらいいのか?

で、ガンビーノの表情を食い入るように見始めます。すると2小節ほどシリアスだった彼がまたダンスを笑顔でゴキゲンに踊り始めます。そしてラップする言葉に合わせてどんどん表情が変わってゆきます・・・この演技がとんでもなくリアルなんです。あ、現実に銃で他人を撃つような人間ってこんな感じかも・・・って感じてしまうんですよ。でラップしてる言葉が「This Is America」ですからね。

演技の表現として凄すぎる。

彼の存在自体が「This Is America」を体現してるんですよ。

そもそも拳銃で人を撃ったりする描写ってもっと派手で陰惨なのがヒップホップのMVやら犯罪映画やらには溢れていて、でもそれらってもうショッキングには見えないじゃないですか。 なのにこのMVがこんなにも観た我々にショックを与えるのはなぜなのでしょうか?

それは彼ガンビーノの演じる人物がステレオタイプなキャラクターでなく、もっと複雑な精神構造を持つ人物を演じているからなんです。なので

つい観客は、現実世界でこういう人物に遭遇してしまった時と同じ反応をしてしまいます・・・「目を離してはいけない!彼がどういう人間か見極めねば!」

彼を必死に見ているうちに・・・彼のラップとダンスに楽しまされてしまって、だんだん彼に好感をもってしまうんですね。。。

これ怖ろしいですねー。 現実でもたまにある構造ですねー、カルト教団とか。ひー。

時にはシリアスに、時にはユーモラスにラップしながら踊りだした彼は、男女5人の学生ダンサーたちが画面に入ってくると、さらに上機嫌で踊り始めます。でも彼らとちょっと距離が離れてくると彼らに冷ややかな視線を送るようになり、内向的な葛藤の演技に入ってゆきます。躁鬱の演技と言ってもいいでしょう。自信満々になったり、強迫観念に苛まれたり。それらの変化は周囲で起きていることや彼自身がラップしている内容に影響を受け・・・そしてまた学生ダンサーたちが近づいてくると上機嫌でダンスを踊り始めます。

あれ? これって我々そのものじゃないですか。

実はとんでもなくリアルなんですよ、この演技。

現代人の多面性をものすごく短い時間で強烈に表現しているんです。

ではこの超現代的でリアルな演技はどんな演技法で演じられているのでしょうか?

そもそもこんなに表情や行動がコロコロ変わる人物の役づくりってどうするんでしょうか? 考えてみましょう。この役は「のし上がって成功した黒人。オレは成功したのになんでこんなにイライラするんだろう?楽しいことがあってもすぐ鬱になる」です。

感情の浮き沈みの激しい魅力的な人物。

まず「気持ち」を作ってはこの役は演じられません。感情がコロコロ変わるからです。

そして「キャラクター」も作って演じてません。このMVの彼は非常に魅力的な人物なのですが、この演技には80~90年代風のキャラクター演技の絶対必要要素である「一貫性」がありません。

**それぞれの瞬間では別人か!っていうくらい 

一貫性のない行動をいろいろしているように見えて、でも結果としてその多重人格の集合体として「立体的なひとりの人物像」がホログラム的に見えてくるという・・・そんな演技法 です。**

ここまで考えて、とある映画に、このMVの彼にそっくりの演技がある事に気づきました。

それはヒース・レジャーが演じた映画『ダークナイト』のジョーカーです。

ジョーカーは映画『ダークナイト』冒頭、街角に不自然に佇む後ろ姿で登場します・・・彼が何者なのか、どんな性格なのか、一切説明されません。

そして彼は銀行で仮面を脱いで正体を現すのですが、表情を見てもやはり彼が何者なのかさっぱり分かりません。コロコロ表情が変わるからです。

そしてマフィアのアジトにジョーカーは変な笑い声と共に現れます。「マジックはいかが?この鉛筆を消して見せましょう」と鉛筆を取り出しておどけ、屈強な黒人が彼をつまみ出そうとすると・・・ダーン! 黒人の頭に鉛筆を突き刺します。

「はい、消えましたー」 マフィアも観客も震え上がります。

その後もコロコロと表情が変わってゆくのでジョーカーの真意は観客にもバットマン達にも測りかねます。彼自身がどんな人間なのかも、どれぐらい恐ろしいやつなのかも。

キャラも感情も一切演技によって説明されない。なので余計にわれわれは彼の表情にひきつけられ、目が離せなくなるのです。

・・・これ演技法、一緒ですね。

というわけで、いや~凄いわこのラッパー、俳優やった方がいいんじゃない?チャイルディッシュ・ガンビーノ?何者なの? と思ってちょっと調べたら・・・やっぱり俳優も別名でやってました(笑)。

しかも映画『ハン・ソロ』でランド・カルリジアンを演じてた・・・え?あいつかあっ!!!

ドナルド・グローヴァ―って・・・そうか、つまりハリウッド俳優が変名でラッパーもやってるって感じなのね。

なんだよ~。そりゃ最新の演技やりこなす人もいるよね。合点がゆきました(笑)

『ハン・ソロ』ちゃんと観なきゃだわ!

小林でび

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