シアーシャ・ローナンの世界を映す演技!『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
シアーシャ・ローナン主演、グレタ・ガーウィグ監督の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』がAmazonプライムに入りました!
この映画は俳優さんたちに超オススメなので、今回の「でびノート☆彡」はこの映画の演技の素晴らしさについて書きまくりたいと思いますw。
ああ、2020年代の若手の中でシアーシャ・ローナン以上の女優がいるでしょうか?
『若草物語』は南北戦争時代のアメリカを舞台に力強く生きるマーチ家の4姉妹の成長を描いた名作小説です。日本でも誰もが子供時代に一度は読んだことがあるか、アニメ版を見たことがあるんじゃないでしょうか。
シアーシャは4姉妹の次女ジョーを演じているんですが、今から150年も前に書かれた小説のキャラクターを、まるで今年書かれた人物であるがの如くに瑞々しく演じて、ガンガン物語を引っ張って行きます。
彼女の目に世界が映っているんですよ。彼女があまりに瑞々しく世界に反応しているので、見ている観客もまるで自分が体験したみたいに彼女のエモーションを理解してしまうんです。
観客はジョーにシンクロして物語を体験する。
シアーシャ・ローナンはジョーというキャラクター「勝気で文才溢れるボーイッシュな女の子」・・・みたいな動作やしゃべり方、説明的な芝居を一切しません。
冒頭のシーンでもシアーシャはただジョーと完全に一体化して新聞社の編集室に存在していて、ただジョーとして周囲の環境や状況や新聞社の編集者に対して刻一刻と敏感に反応しているだけです。・・・その人物としてそこに存在する・・・これってすべての俳優の夢の演技じゃないですかw!
新聞社で短編小説を買ってもらえたジョーが、ニューヨークの街を走り出すシーンで、ジョーと一緒に嬉しい気持ちでいっぱいになった人はボクだけじゃないと思います。そのとき観客はジョーと一緒にニューヨークを走っているんです。
だから映画後半で、ジョーに様々な辛い出来事や悲しい出来事が起きてゆくときも、観客はジョーと一緒に大きく心揺さぶられます。ジョーの孤独感を観客も一緒に体験し、そして小説を書くジョーのクリエイティブが爆発する感じ、そして本を印刷するジョーの高揚感に観客も高揚するのです。
世界に反応する・・・この演技法で演じている俳優も最近は多いのですが、ここまでしっかり観客を巻き込んでガンガン進んでゆけるのは正直シアーシャ・ローナンくらいなんじゃないのでしょうか。
この『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、大人時代と少女時代の2つの時制を細かく行ったり来たりしながら物語が進んでゆくのですが、それでも観客がほとんど混乱せずに見続けることができるのは、観客がジョーのエモーションに乗って物語を見れているからです。
これって物語を引っ張って行く主演俳優として最強なんですよね。
4姉妹それぞれのキャラが演技法と直結!
つい興奮してシアーシャ・ローナンの話ばかりしてしまいましたがw、この映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(タイトル長い!w)はまさにキャスティングの勝利!というくらい魅力的な、様々な演技法の俳優が、まさに適材適所でキャスティングされています。
たとえば社交界に憧れる4姉妹の長女メグ役は、表情を作って感情や思考をアピールする演技法で演じるエマ・ワトソン(『美女と野獣』)が。
心やさしく病弱な三女ベス役は、常に一歩引いた場所から全体を傍観するような遠い目で演じるエリザ・スカンレンが。
そしてわがままで愛され上手な四女エイミー役は、相手の懐にズカズカ入っていって相手を動かす演技法のフローレンス・ピュー(『ミッドサマー』)が。
4人ともキャラだけで演じられていないんですね。「そのキャラが人や世界とどうコミュニケーションするか」も込みで演じられている。
・・・なのでこの4姉妹が揃ってわーっと口論を始めると、コミュニケーションの仕方が全員バラバラなので大混乱が起こるんです(笑)。噛み合わない噛み合わない。兄弟や家族のコミュニケーションとして、すごくリアルなんですよねw。
これはグレタ・ガーウィグ監督のキャスティングの勝利、そして演出の勝利でしょう。前作『レディ・バード』もそうだったんですが、ガーウィグ監督は人と人とのコミュニケーションと関係性をリアルに演出して撮影してしまう第一人者だと言えるでしょう。
ローラ・ダーン!メリル・ストリープ!
うわー(汗)。この映画の演技について書きたいことがありすぎて全然書ききれないんですが、あとこの映画の俳優の演技の見どころを3つだけ。
まず4姉妹のお母さん役をローラ・ダーン(『ワイルド・アット・ハート』『マリッジ・ストーリー』)が演じています。すごいです(笑)。お母さん、きっと若い頃はいろいろあったんだろうなー的な、すごい深みを作品に与えていますw。
そして偏屈で金持ちな4姉妹の叔母さん役をメリル・ストリープが演じています。叔母さんが『プラダを着た悪魔』ですよ?・・・超怖いです(笑)。
でもメリル・ストリープのシーンはどれもこれも素晴らしかったんですよねー。とにかく悪態しかついていないんですけど・・・それでも愛おしい人物なんですよ。
このテの偏屈老人はよく「表面的には悪態ついてるけど、内心は優しいマーチ叔母さん」という裏表のパターンで演じられることが多いです、捨て猫に餌をやる殺し屋みたいな(笑)。でもメリル・ストリープの演技はそんなんじゃないんですよ。裏も表もなく四六時中悪態ついてるし、でも同時に彼女なりに4姉妹の将来を心配していたり愛していたりする・・・もう渾然一体となっているんですよね。
こんな魅力的な演技ができる女優さんって世界に何人いるんだろう・・・日本では樹木希林さんがそういう演技を得意としていました。
樹木さんもメリル・ストリープも偏屈さや意地悪さや愛情深さを演じているわけじゃないんですよね。ただ「その人物の人生観」を演じているんです。だからそこにはいいも悪いもないんですよ。
そう、この映画には「いわゆる悪者の演技」をする俳優が一人も出てこないんです。人と人との激しいぶつかり合いや争いはあるんですけど、そこには「善/悪」や「無垢/邪悪」の線引きは無くて、人生観の違いによるコミュニケーション不全があるだけなんですよね。
世界を俳優の演技によって構築する。
これは俳優たちの役作りの勝利です。だって「悪役」を演じる方が全然簡単なことですからね。そうではなく「その立場立場なりの最善を演じたら、それがたまたま主人公の最善と真っ向からぶつかる結果になった」という超リアルな構造で俳優たちは火花を散らして演じています。
その最たるものが新聞社の編集者のシーンです。
編集者はジョーが書いた小説に無茶な要望を出してきます。「刺激的に。道徳はいらない」とか「ラストには女性の主人公は結婚すること。もしくは死ぬこと。そうでない小説は売れない。」とか。
でもたぶんこの編集者はダメ編集者なわけではなく、こういう小説が素晴らしいのだ!南北戦争で疲れたみなの心を癒すのはこういう小説なのだ!という信念を持って仕事をしているある意味優秀な人物なんですよね。
だからジョーなりの信念と、編集者なりの信念が火花を散らす冒頭のシーン、そしてラスト近くのシーンは見ものです。そしてそこでのジョーの戦い方の変化が、ジョー自身の成長を物語っていて、これがまた素晴らしいんですよ。そして勝負は勝ち負けではなく「正しい関係性への仕切り直し」で終わる。
すべての人物が等しく大なり小なり他人の気持ちがわからなくて、すべての人物が等しくそれなりに誠実で、すべての人物が等しく愛おしい人物として演じられているのです。
そして・・・それこそが我々の住んでいるこの世界なんですから。
さてとんでもない長文になってしまいましたが(笑)、シアーシャ・ローナンとグレタ・ガーウィグ監督が作ったこの『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』という映画、女性には特に、そして男性にもオススメです。ボクは3回泣きました。
ステイホームのお盆休みのお供に、ぜひ☆
小林でび <でびノート☆彡>
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?