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ヨハンナの傷心 2

その名も愚か者 2


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あれだけしつこかった雨が止み、嘘のように晴れた。晴れた空、そよぐ風。ハワイ航路にあこがれる。って古すぎ、誰かわかる人いる?

教会を出ていく愚か者の背に、陽の光が当たり、肩に小さな虹が乗った。

ふと、「こいつ本当に神様に愛されているんじゃないか」と思った。

いやいやいやいや、ないから。神様が愛しているのはこの私だから。おんな教皇の私だから。いやー、魔が差すところだったわ。からくもこらえた私。まだ修行足りてないな。

気が付いたら、愚か者の足元に白い犬がいた。体重12,3kg、中型犬、巻尾。

「その犬、どうしたの?」

「崖っぷちで見つけた。エサあげたらついてきちゃった。こいつも一緒に連れて行こうと思って。」

「犬連れ・・・もうなんでもありね。名前つけたの?」

「GODさん。」

「おいっ! またおそれおおいわ、GOD(神)さんて!」

「おいらがエサやると、DOGがおなかを見せてひっくりかえって喜んだんだ。だから、DOGひっくりかえしてGOD。」

「呼びにくくてかなんなあ。ゴーちゃんくらいにしとき!」

えせ関西弁が思わず出てまうほど奇天烈なネーミング。

まさかに今日すぐ旅に出られるわけもなく。愚か者には1週間後に教会に迎えに来るように言って、ブルーシュの町をぶらぶらしてきてもらうことにした。その間に、教皇庁に「調査旅行」の許可を申請し、私の留守の間を守る部下たちに引き継ぎをし、衣類やらなにやら旅支度をした。あー、忙しかった。


その1週間後がやってきた。あいつ、ちゃんと来るんだろうか。雨季にもかかわらず、この1週間晴れの日が続いた。あいつ、超晴れ男?

「ひゃっほおおーい!! ヨっハンナちゅわーん!! 迎えに来たよぉっ!! 旅だとう、青春!!」

教会2階の私の部屋に、ワラワラと侍従尼僧たちが入ってきた。

「ヨハンナ様、あの愚かしい者はいったい、何なのでしょう?」

「ヨハンナ様、お隠れになったほうがよろしいのでは?」

「け、警護の者を呼びましょう!」

あー、あれはその・・・

「ほら、リンゴの木かと思って苗木を植えて、実がなったらナシだった、みたいな・・・」

「ああ、キちが(ピー)」

私は、教皇猊下(げいか)の依頼であの愚かしい者を保護して、さるお方にお引渡しする役目を賜ったのだ、と言い訳した。

「おーい!! おいら待ちくびれた・・またくちびった・・・待ちくたびれたよ!! ヨハンナちゃーん!!」

「うるさいっ!!」

「わんわんわんっ!!」

「ゴーちゃんも来たのね。」

頭をなでると、巻尾をぶんぶん振った。

「ヨハンナちゃん、その恰好なに?」

「まさか尼僧の姿で旅できないでしょうが。私、武闘の心得あるから、軽装だけど騎士(ナイト)の恰好にするわ。道中物騒だから帯剣もしたいし。」

「・・・ニソー? ・・ブトー? ・・ドーチューブッソー?・・タイケン?」

「わかんなくていい。さあ、出かけましょう。」

かくして、愚者とワンコとえせ騎士の旅が始まった。

なんでも魔術師 1

太陽が降り注ぎ、澄んだ空気の中では、くすんだ石の壁や石畳みの道もキラキラ輝いて見える。露天商も出て、花や野菜やフルーツや、街に色を加えてる。街歩く人々も心なしかウキウキしているように思えた。「旅立ち」っていいな。GReeeeNじゃなくて、松山千春の方を思い出してしまうのは、けして私の年齢の問題ではなく、教養の問題です。

愚者ときたら、あいかわらずの赤い羽根付きのニット帽、朝顔柄のチュニックにブーツ。ちゃんと洗濯してるんだろうか。長い棒(ワンド)にくくりつけた鷲(ワシ)のアップリケがついた小袋。中に何が入ってるんだろう?

ゴーちゃん(白い犬)も楽し気についてくる。この1週間、ちゃんとエサもらえてたんだろうか? ん? 愚者も食えてたんかい?

ブルーシュの大通りを抜け、国境を抜けてめざすは大アルカナ帝国の帝都ロータニア。

大通りを抜けようとすると、人だかりがしていた。女子が多い? いや、女子だけ? キャーキャー黄色い声がする。

「キャー! ステキー!!」

「こっちむいてー!! マジシャンさまーー!!」

鼻歌を歌っていた愚者が振り向いて

「ヨハンナちゃん、面白そうだから、寄ってみよか。」

女子ばかりの人だかりは、「女子」のにおいがする。化粧なのか香水なのか、ふわりと存在を主張するあの匂い。おばちゃんたちの勢いある石鹸と汗のにおいも混じっている。

その中をかき分けて、女たちに囲まれたセンターの優男(やさおとこ)を見ることができた。

年のころは20歳前後。白いチュニックに、赤いローブを羽織っている。かなりのハンサムだ。

彼の前に机があり、その上に長い棒(ワンド)、聖杯(カップ)、金貨(ペンタクル)、長剣(ソード)が乗っている。

「さあさあお立ちあい! 面白いものをお見せするよ! わずか銅銭5枚だ!」

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