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【よっぱのたわごと】125-3

【愛染と弁天】③

煩悩即菩提

「儂は明王で、一番人に近い。お主は天部で、儂らの上じゃ。その上は菩薩、その上は仏。どんどん煩悩やら執着は無くなるの。

人に近いからの、儂は、人がこの制限たっぷりの世でどのように楽に、楽しく生くるかを考えておるのじゃ。

肉体という重しを背負うた魂は、肉体の要請である煩悩と向き合うように設計されておる。

人はなかなか急には菩薩やほとけにはなり難いからの。煩悩やら執着をなかなか捨てにくいものだて。」

「あんた、誰にもの言ってんのよ。あんたも言ったとおり、あたいは、『天部』、平たく言えば神よ、カ・ミ!! あんたのウ・エ!

人間に向かって言ってんじゃないの?

御託はもういいわ。あたいは人間なんか目じゃないわよ。」

「おや? そうかの。

先程、おのこが毎日毎分毎秒、押し寄せると申しておらなかったかの?

そのおのこらが全く見向きもしなくなったら、どうであろうかの?」

「・・・

はっ!! ちがーう!!

おのこらは、あたいが呼んでんじゃないの。あたいのまばゆい光に寄ってくる、虫みたいなもんよ。

罪があるとすれば、あたいの美しさよ!

オホホホホ」

「・・・ふーむ。凄まじき自己肯定感じゃの。

それはたしかに、おのこから崇められたいという欲とは違うかもしれぬ。」

「それで、人に近いあんたは、人に煩悩をどう扱えと言うわけ? 消滅はするなっちゅうんでしょ?」

「そうさの、日々の可愛い煩悩の言うことを聞こう、叶えなされということかの。

その日、その日で己が身体の言うこと、腹の言うことを感じ、可能な限り叶えてやることじゃ。

違和感あることはやらない。ワクワクすることはともかく始める。こちらを利用しようとするような輩の要請は蹴る。ともかく助けたいと思う人は出来る範囲で助ける。

食べたいものを食べる。あとでカロリー調整必要と思うならそうしたらよろしい。寝たい時には寝る。仕事あるなら、前日夜に早く寝たらよろしい。

ともかく。今日できることは何かを考え、今日一日をともかく楽しむことじゃ。未来は、今日の連続じゃわ。」

「なーんだ、拍子抜けだわ。全然フツーのことじゃない!

宗教っぽくないわ。学問でもないわ。」

「・・そんなん、大衆が果たして求めていることかの、その宗教やら学問やら政治やら。」

「あッーーー!!!知らないわよー!!

〇〇教とか大学持ってる信仰宗教とか、共産なんとかなのに語学とか古典とか謳ってる擬似団体に狙われるかもよ!」

「常識が宗教やら主義主張の目の敵になるとはの。世も末じゃ。」

「そうだわ! あんた、あたいに会いに来たんでしょ?!

聴いていきなさいよ。あたいの音楽!

ジャジャーン!!」

「ん? それはクラシックギターかの?
琵琶はどうした?」

「いまどき琵琶なんか誰もきかないでしょ。

あたいは、水辺に住んでるからさ、エレキは危ないわけさ。漏電アイアンメイデーンってね。

アコギにしても、弦が金属やん? すぐ錆びちゃうやん?

そしたらナイロン弦のクラシックになっちゃったのよね。」

「そしたら琵琶でも良かった気もするが・・・。」

「いいのいいの、いくわよっ! イェイ!!」

「ちょちょちょっと待たれい!

お主の音楽は、たしか、ジャ〇アンの歌、しず〇ちゃんのバイオリン、高嶋ち〇との怒鳴り声位、ひど・・・インパクトあるものであったはず。

す、すまぬ。ここいらでおいとま申す。」

「はぁ? 遠慮しっこなしよ!

美貌の天女、弁天様が奏でるグィタァーなのよ!歌もはさむわよっ!

これで帰るなんて、あんた何もの?!」

・・・

この世のものとも思えぬ、よく言えばコンテンポラリーな、アバンギャルドなナイロン弦の叫びと、幾何学というか高等数学というか非人間的というかの歌声が合わさり、三途の川の清流がざわざわと波打って騒々しい中・・・

「弁天殿は、名誉欲をまだ手離しておらぬのでは」という疑惑を抱きつつ、耳を塞いで三途の川をとぼとぼと離れる愛染であった。


#愛染 #弁天 #掌編 #小説



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