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『ヴァスト・オブ・ナイト』@アマプラ

かつてのトワイライト・ゾーンのスタイルを意図的に模倣した、B級アブダクション物の佳作。面白すぎて、途中で一服するのを余儀なくされた。まさに一夜の出来事なので、最初から最後まで画面は暗い。白黒が基調で、鈍くカラー映像が入り込む。

1950年代終わり頃、アメリカ南部の田舎町の体育館ではバスケットボールの試合が行なわれ、町民が総出で地元の高校の応援に駆けつけていた。16歳のフェイは電話交換手のバイトがあり、仕事場に行かねばならない。エベレットは地方ラジオの人気DJで、かれのスタジオはフェイの仕事場の比較的近くにある。かれはフェイを送ってゆく。

小さな町なので、皆んな顔見知りだ。駐車場で色んな人と他愛ない話をする。カセットレコーダーが売り出されたばかりで、エベレットはインタビューの録音を試みる。フェイは自分の声を録音して恥ずかしがる。そうだよ、昔はカセットレコーダーが超珍しかったんだよ!

その後ふたりは埒もないお喋りをしながら誰もいない夜道を延々と歩く。この件りがいかにも50年代末の南部の暮らしぶりを髣髴とさせる。夜道とはいえ、悪い人間は誰もいそうにない。

そもそも電話交換手という仕事を知る人自体、もうほとんどいないだろう。そんなフェイの元に次々と異様な電話がかかってくる。「空の上に何か大きなものが浮かんでいる」電話機からは聴いたこともない異音が流れてくる……いよいよ宇宙人の襲来か?と私どもは固唾を飲むが、なんせ舞台は50年代後半なので、エベレットはソ連の攻撃を疑う。

かれが自分のラジオ番組でそれを流したところ、退役した黒人の軍人ビリーから電話がかかってくる。「従軍していたころ、その音を聴いたことがある。軍はその巨大な何かにカバーをかけて隠匿していた」。さらに若いころ自分の子供を何者かに誘拐された老婦人の証言が……

小さなスタジオと小さな町が舞台なのに、徐々に真相が明らかになっていく過程は手に汗を握らせる。脚本が練り込まれ、隙がない。主役級の2人はもちろん、俳優たちの演技が素晴らしい。舞台劇を思わすような、完成度の高いSFスリラーだった。

地元での暮らしを満喫している者は皆んな体育館に詰めかけている。その息苦しい生活に不満を持つ者が外にいて、誰にも気づかれずに消えてゆく。本作では宇宙人の仕業とされるが、実際には自ら姿を消す者が少なからずいたに違いない。南部の田舎生活の不気味さを漂わせ、忘れがたい印象を残す。

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