嵐の中で | Netflix
スペイン映画が生んだ鬼才オリオル・パウロ監督の佳作。信頼するユーチューバーのお勧めで、見ることにした。
最初は幸せな家族モノのようで鬱陶しい。それとスペインの役者に顔なじみがなく、ストーリー展開に混乱させられる。誰が主役なのか分からない。2時間をゆうに超える作品で、最初はもたつくが中盤からは一気呵成である。
嵐の夜に電波の混線が生じ、テレビにベルリンの壁崩壊の直前のニュースが映る。画面の向こうにはギターの練習を録画する少年がいる。かれがその直後、道路に飛び出しクルマに轢かれて死ぬことを知った主人公のベラ・ロイ(アドリアーナ・ウガルテ)は「家から出ないで!」と叫び続け、その命を救ったあと気を失ってしまう。
はたと目覚めると過去の改変が起きていて、別の世界の住人になっていた。看護婦だったはずなのに、ここでは一流の脳外科医として難しい手術をさせられそうになる。パニックに陥り、病院を飛び出す。この世界の自分は夫も子供もいない。孤立無援である。話を真剣に聴いてくれる、若い刑事レイラ(チノ・ダリン)の助けを借り、自分の家族を取り戻そうとベラは奮闘をはじめる。
かつて少年が暮らしていた家は、いまはべラの一家が暮らす家で、少年はその隣家の2階で殺人事件が起こるのを目撃し、それを止めようと外に飛び出さすにおれなかったのである。その晩、隣家で本当は何が起こったのか。それがすべての鍵になる。その謎を解き明かすのが本作の骨子で、本格的な犯罪サスペンスとタイムワープを組み合わせたのが新機軸である。SFと呼べるほどの込み入った理屈はない。
思い返せば、このイケメン刑事が妙に親切だった。タイムワープ物はしょせん辻褄が合わないので、最後は誰かが尤もらしく経緯を説明する必要がある。本作でその役目を果たすのがこの人。
最後にあっと言わせるどんでん返しが待っている。というか自分としては、かれの自宅が3階以上もある至極立派なアパートで、スペインの刑事はこんなに高給取りなのかね?と余計なことが気になった。
再びやってきた嵐の夜にベラはジャンプし、かつての世界線に戻ることができる。そこで過去の隣家の犯罪を暴き、事件を解決する。別の世界線の彼女の運命はどうなったの?と気にはなるけど、全体としてじつによく計算された作品だった。
この手のタイムワープ&ループ物が近年やたら増えているような気がする。本作では事件をベルリンの壁の崩壊とからめていて、それがドラマに一種の説得力を醸し出している。実際のところ、あれ以来人類史の時間軸が変容してしまったのかも知れないね。主人と奴隷の闘争を軸とする歴史は終わりを告げ、その好き放題な編集が可能になったのだ。そんなことを思わされた。