勇者たちの戦場(吹替版)
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映画の歴史と戦争の歴史はほぼリンクする。戦争のほうがはるかに古いように思えるかもしれないが、現代におけるように国家規模の総動員戦が始まったのは20世紀の第1次大戦からである。それは「映像の世紀」の始まりでもあった。
20世紀の世界戦争では、庶民を日常から無理やり引き剥がし、戦場に送り込んだ。生まれつきの兵士などいない。戦場での人殺しの体験はおのずと心的外傷となる。ベトナム、アフガニスタン、イラクへと自国兵士を次々に送り込んできたアメリカにとって、この問題は深刻だ。
古くは「ジョニーは戦場に行った」、近年では「ランボー」(?)と、帰還兵の PTSD を扱った映画はとても多い。本作はこの主題に真っ向から切り結んでいる。やっとイラク駐留から帰れると浮かれていた若い米兵たちが、基地から離れた施設へ食糧を届けに出かける。最後のミッションである。楽勝のはずだった。
ところがイラク人の待ち伏せに遭い、戦場は地獄と化す。戦闘シーンは冒頭の20分程度。それから後は、帰国した兵士たちが平和な日常にとまどい、戦場での心的外傷に苦しみ、やがて立ち直って行く過程を濃密に描く。立ち直れず死ぬ者も出る。戦場に還って行く者もいる。
アフガニスタンからアメリカが撤退した、まさに今見るべき映画だという気がしたが、製作年代を確認すると2006年で、もう15年も前の作品である。アフガン戦争は長すぎたと、つくづく思わざるを得ない。
イラク出兵はアメリカの正義だと見なされていたし、自分らの苦闘が無益だったとは思いたくない。が、戦場での体験は過酷すぎ、心身ともに傷ついた帰還兵たちは、みずからの懊悩を誰かに語り、共感してもらいたいと秘かに願っている。でも、その相手がいない。
以前に付き合っていた相手とは上手く行かない。家族にも解ってもらえそうにない。集団カウンセリングを受けに行っても、カウンセラーは無能で、同席するのはベトナム帰還兵のじい様だったり。
帰国した日常のなかで、各人が解ってもらえる相手を探す。あるいは家族との絆を結び直して行く。その過程で、堅くもつれた心の糸がしだいにほぐれて行く。最も言いにくいこと、秘められた過去を他者に打ち明ける。それが実際にはいかに難事であるかを仔細に描く。
爆撃を受ける戦場で、ほとんど誰ひとりまともに救えなかった。外科医(サミュエル・L・ジャクソン)は酒浸りになり、カウンセラー相手にその苦悩を訴える。「時として人生には、その人を助けられないと悟る瞬間があります。胸が張り裂けそうで、おのれを恥じる。職を全うできなかったと」
戦場だから仕方なかったと慰めようとする相手を押しとどめ、そんなことは重々解っていると声を荒げる。問題はそんなことじゃない。相手の名前すら知らない、そんな死にゆく者を前にして自分は何も感じなかった。感じることさえできなかった…… この《恥》の感覚が彼を苦しめる。
本作のサミュエル・L・ジャクソンはまさに名演で、こんなに上手い役者と思ったことがなかった。てか、アベンジャーズのシールドの長官役では、演技力どうこうじゃない。ウィキを見ていると、驚くべき多様な役柄を演じている。ヘンな顔だが、現代の名優中の名優だ。
結局のところ家族の絆を結び直した者、新しい恋人を見つけた者は救われるが、お相手を見つけられなかった者は悲惨な運命をたどる。あるいは戦場に還って行くしかない。これでは本当のところでは解決になっていない。本作の限界である。
ハリウッド映画らしいバランス感覚を見せ、一方的にブッシュ政権への批判に堕してはいない。アメリカの正義を擁護することも忘れない。イラク出兵は間違いだったとしても、ほかに何ができたか。とりわけ1人の庶民でしかない立場の者には。
サミュエル・L・ジャクソンにかぎったことではなく、役者がみんな良い。ジェシカ・ビールが、こんなに感じの良い女優さんだったとは。なんかゲテモノのように思ってたけど。新しい恋人とベッドインするシーンはほろほろ涙が出るほど感動的だった。
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