クサイ豚骨ラーメンを科学する。part 2.渡辺樹庵氏との出会い。
私が高田馬場に出店して2022年の時点で約8年(現在の場所は4年目)
実は8年前から何度もお客様として来店する渡なべの店主、樹庵氏に面識こそないものの自店のラーメンを提供し、幾度となくTwitterにて取り上げて頂いていた過去がある。
覚えているだけでも5回。
今となっては大好きな尊敬する大先輩なので笑い話ではあるがTwitterに書かれていた内容は辛辣な内容であった。
そのTwitterの内容を表面的に捉えてしまうと
気を悪くしたり激昂したりする人も中にはいるかもしれない。
私も怒りはしないものの、あまり良い気分では無かった。
しかし、人と成りも知らずに毛嫌いするのはよろしくないので
私は一旦、現状を受け入れた。
しつこいようだが今は大好きな先輩の一人である。
そんなある日(2021年10月3日)
樹庵氏のTwitterに投稿された
クサイ豚骨ラーメンを作りたい旨のつぶやきに対して
私は思い切って種スープの提供を申し出た。
今思えばこの一歩が大きな一歩になったと思っている。
敵に塩を贈るスタイル!だとも揶揄されたが
私は以外と気持ち的にもフラットで人の役に立てるなら。
という気持ちで申し出たに過ぎない。
結果的にその申し出は「種をもらってはロジックも分からない」と
丁重にお断りされた。
理由が実に的を得ており、そういう事であれば一度会って話が出来ないかという事で、樹庵氏と私の共通の知人で日本ラーメンファンクラブの運営で丼コレクターの「ばぶさん」※もちろんあだ名である。を介してラーメン店主という同志として初めて挨拶を交わし、クサイ豚骨ラーメンについての質問を受けた。
今でも覚えているが
樹庵さんは私なんかよりもずっと長くラーメン業界に貢献されている方で、大先輩である。
なのにも関わらず私のような若造が話す豚骨談義を
まるで少年のような眼差しで嬉しそうに聞いてくれた。
樹庵氏の純粋に探究心を満たしたい気持ちに応えたいが
現状、応えられない自分の未熟さを痛感した。
数日経ってから樹庵氏より
「YouTubeに出て話をしてくれないか」というお誘いを頂いたので快諾。
ここから樹庵氏と私の「クサイ豚骨ラーメンを作りたい!」という研究が始まった。
Q.博多ラーメンは何故臭いのか。
この問いが簡単そうで実は難解であった。
私は当時、樹庵氏に
博多ラーメンのスープの材料には豚骨は豚骨でも頭の骨を用いることが主流である為、「頭の骨を使って呼び戻しの製法で繰り返し炊く事で徐々にクサイスープが出来るんですよ!」と自信満々に答えたが、樹庵氏は「いや、それは知ってるんですよ。肝心なのは何故、頭の骨を使うと臭くなるのか?なんです。」
そう言われた私は何も説明出来なかった。
ただ、イメージだけはあって
スープの中に菌のようなモノが存在して増殖する事で発酵し特有の発酵臭が出てくるんだろうと思っていた。
少し時を遡り
樹庵氏に出会う前。
2021年の2月ごろから流行っていた音声のSNS「クラブハウス」で知り合った重要人物。
広島生まれで熊本の大学を出てキュウリの遺伝子の学者になりポーランドに渡ったが今はラーメン店の店主をしている「コーヘイ博士」と出会う。
彼は私よりも少し若いが学者さんなだけあって、いい意味で「ど変態」だった。
定性的な物事が気持ち悪かったり、ロジックが分からないと調べ尽くす性格らしい。
コーヘイ博士はポーランドには無い発酵タイプの博多ラーメンが恋しくて仕方がないらしく、ある日ポーランドに渡るエージェントを高田馬場の私のお店に派遣した。
なんとエージェントの彼は私のお店から種スープ受け取り、凍らせて飛行機の機内へ手荷物で持ち込みポーランドにいるコーヘイ博士へ無事に手渡したのだ。
変態さはそれで止まらず。
なんとその種スープをポーランドで培養し増やしてストックまでしているらしい。
そんなコーヘイ博士も私の尊敬する店主の一人です。
コーヘイ博士の紹介はそんなところですが
実は樹庵氏と出会う前にコーヘイ博士と博多ラーメンの匂いについて話をしたことが何度もある。
彼は「あの匂いは菌由来のパターンと菌由来ではないパターンとの二パターンが考えられる」と当時発言していた。
・菌由来の場合は耐熱性のある菌がいて動物性タンパク質を分解しアミノ酸を生成して更に発酵している可能性。
・菌由来でない場合はイソ吉草酸という臭気成分が関係しているだろうという話であった。※イソ吉草酸については後に説明する。
コーヘイ博士は大方、菌由来で合っているだろうと
ポーランドの知り合いのラボへ種スープを菌検査に出してくれた。
結論から言うと未だに結果は出ていないらしいが
このアクションも私にとって大きな影響となった。
話を樹庵氏との研究へ戻す。
菌のイメージは昔からあった。
コーヘイ博士の話も頭の片隅にあった。
そこで私も
樹庵氏へ「ポーランドの結果を待つにしても
日本でも菌検査に出してみましょう」と提案した。
2022年11月24日
深夜0時過ぎ
神奈川県にある食品微生物センターに出していた菌検査の結果が速報で届く。
大腸菌、大腸菌群、クロストリジウム属金、酵母は陰性!
食中毒菌に該当するものは検出されず!
好気性芽胞形成菌!2000cfu/gが検出で陽性!
※好気性芽胞形成菌は一般生菌の扱いなのでこのシートでは他の菌が未検出なので一般生菌数イコール好気性芽胞形成菌数だと思ってよい。
なんと一発で耐熱性の菌の存在を当てることができた!
深夜だったが樹庵氏にすぐ連絡して二人で喜び合ったのを今でも覚えている。とにかく嬉しかった。
もちろん、ばぶさんやコーヘイ博士にも連絡した。
いい歳した大人がみんなはしゃいでいた。
それくらい嬉しい発見だった。
しかし、この喜びは束の間。
ここからどんどん多方面へと話が展開していくことになる。
part 2はここまで。
part 3へつづく。
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