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昼下がりの静止点



 雨上がりの午後、市内にある植物公園へ出かけた。山の小径はまだひんやりとした空気が立ち込めている。木漏れ日の柔らかな秋の光が降り注ぐ森の中では、海を越えて渡ってきたばかりの鳥たちも加わり、賑やかな歌声が響き渡る。

残暑が長引いた影響で、九州ではこの数日間でようやく木々が色づき始めた。見頃は今月下旬になるだろう。

今は、園内至る所で「ツワブキ」の黄色い花が咲いている。柔らかな午後の光に浮かび、足元を照らす明かりのように咲く姿は、のどかで繊細な日本の秋によく似合う。



 十月桜やホトトギス、ヨメナ、シコンノボタンなど、この季節ならではの質素な花たちも、冷たい海風に揺れながら、木陰にひっそり咲いている。

森を抜ける小道を登っていくと、風が吹くたび、ひらひらと枯れ葉が舞い落ちる。

いつ来ても誰もいない高台まで登れば、時計の針が今にも止まりそうな程の静けさを味わう。遠くの周防灘に行き交う貨物船も、ただ海上に浮かんで、安らいでいるように見える。



 何も動かず、何も変化しないところでは、たちどころに「時計」の存在価値は失われてしまう。

樹も草も虫たちも、きっと各々の内的リズムに従って生きているのだろう。それは人類より遥かに長い時間を生き抜いてきた生き物たちの智慧の賜物だ。



 彼らが、そして私たちが生きているこの豊かで美しい日本の自然。

その静寂に満ちた調和の波動は、日本の風土が持つ繊細さの現れでもある。温暖な気候、豊富な雨量、黒潮の流れ、また多くの火山帯に囲まれていることなど、この島国を取り巻く環境は、世界の中でも屈指の高波動状態を生み出す要素に満ちている。世界地図上でエネルギー状態を調べると、気圧配置図を見るように、確かに日本列島は他国よりも高波動であることが分かる。

それ故に、移ろいゆく日本の四季は、どの瞬間、どの角度を切り取っても、時の流れを超えた生命の営みの神秘を感じさせてくれるのだ。



 夏から秋、そして冬へ。

 夏の間に繰り広げられた成長への熱き情念を明け渡し、首を垂れるように刻々と朽ちてゆく植物たち。

その姿は、敗北でも逃避でも諦めでもない。惜別の気配すら残さない。
それは再び、母なる大地に憩うひと時を迎えた安堵の表れであり、春の訪れまで続く長い瞑想へ沈潜していく姿にも見える。

生き続けながら、尚且つ永遠に回帰を繰り返す自然界の神秘。

その流転の奥に秘められたものをじっと見つめれば、脳裏に浮かぶのは、遥か遠い昔の蜃気楼と思しき高天ヶ原の平安。

あともうしばらくの間はその静止画のような情景がそのまま続くだろう。

それは11月の、穏やかな昼下がりの静止点。




北九州市 日野江植物公園



































































































ゆめしろ草
WONG WING TSAN



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北九州市 県立中央公園





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燿
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