森の囁きは聴こえず
北九州市の中央部、小倉北区から戸畑区、八幡東区にまたがる丘陵地帯に、街中とは思えないほどの深い森が広がっている。
それらは「到津の森」「中央公園」「金比羅山」「高見の森」そして「美術の森」の5ヶ所の森がひと続きとなっている。いずれも遊歩道で繋がっており、すべてを一通り歩くと2時間以上かかる。
「到津の森」には動物園と遊具施設。
「中央公園」はきちんと整備された公園らしい公園。
「金比羅山」は頂上に神社がある標高125メートルの小高い丘で、らせん状の歩道もしくは350段ほどの階段で登ることができる。
「高見の森」は森らしい雑木林。
「美術の森」は市立美術館の背後に広がるエリアだ。
この美術館はいつも何らかのイベントで賑わっているが、「美術の森」だけは5つのエリアの中で最も人気がない。今までに数十回歩いているが、いつ行っても他には誰一人として歩いている姿を見かけたことがない。
不人気の理由は、森の中の小道がほとんど整備されておらず、またアップダウンのきつい階段が多く、歩き辛いから。またいつ何時イノシシが現れてもおかしくないような不気味な静けさもある。しかしながら、個人的にはこの森が何処よりも美しいと感じている。
これまでにも幾度となくこの森の写真を投稿してきたが、いつ来ても、市街地の中心部にあって周囲を住宅地で囲まれながら、郊外の山地にいるような豊かな森の風景を満喫できる。
鬱蒼とした森の所々に、突然姿を現す巨木。
空高くに枝葉を伸ばした樹々が立ち並び、仲良さそうに風に揺れる。
ひんやりとした清々しい大気。
街の騒音がまったく届かない静寂。
ほとんど整備されていない原始林のような雰囲気。
倒木や枯れ木もそのまま放置され、空いた空間には新しい若木が育っており、生と死の流転という命の循環プロセスを間近に垣間見ることができる。
先日「宮地嶽神社に桜咲く」という記事で「森の樹々たち同士は地中で、様々な言語を使いコミュニケーションを取っているということが最近の生態学研究で明らかになった。」という話題を引用したが、そのことを知ってからは、この森を歩くことが俄然興味深いものになった。
https://note.com/devaagni2000/n/nf33e5718998f
樹々たちは地中の菌根によって、コンピュータネットワークのようなものを形成し会話をしている。
人の手が加わっていない森が、いかに樹々たちにとってのオアシスであるかということが何となく分かるような気がしてくる。
混沌としているように見えるのは地上に命が混在する必然の結果だが、調和は命に内在するものから自発的に体現されたものだと思う。
聴こえてきそうな囁きは聴こえず、ただ風の音と鳥たちの鳴き声だけが静まり返った森に響き渡る。
彼らはいったいそこでどんな会話をしているのだろう。
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