陽だまりワラビー
(文1200字 写真26枚)
この施設では、カンガルー(Eastern grey kangaroo)、ワラビー(Yellow-footed Rock-wallaby)、そしてネズミカンガルーの3種約250頭が飼育されている。
有袋類の自然飼育では国内有数の規模とのこと。放し飼いにされた一部のカンガルーと触れあうこともできる。
カンガルーは広い平坦な敷地、ワラビーの敷地は広い岩山のような地形となっている。自然界には程遠い環境だが、窮屈な所に押し込められているという感じでもなく、思い切り自由に走り回ることができる。
カンガルーは間近で見ると結構体が大きく威圧感がある。ひと回り小型のワラビーは性格も穏やかそうで、すぐ近くにいてもそれを感じることはない。
ワラビーはおとなのオスでもカンガルーの袋から出てきたばかりの赤ちゃんほどの大きさしかないらしい。
ここにいるのは和名シマオイワワラビーと呼ばれ、世界中でもここでしか飼育されていない。オーストラリアのごく一部の山地のがけや岩場に生息し、警戒心の強さから野生のものはほとんど見かけることがないとも言われる。
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このワラビーの岩山では様々な人間模様ならぬワラビー模様を覗くことができる。
群れをつくって寛いでいるようなグループもいれば、その一方で単独であちこち元気に走り回っている仔がいる。中には敷地から飛び出し、外の世界を冒険している好奇心旺盛な仔もいる。
このワラビーの敷地と人が往来する小道との境にはネットが張られているが、下半分が大きく開いている。出ようと思えばいつでも脱走できる状態になっているのだが、ほとんど出ようとはしないようだ。
またすぐ近くにいる者にワラビーパンチを出して「あっちへ行け」などとやっている者もいれば、近くにいる仔にやさしく接している者もいる。
そうかと思えば気に入ったメスのそばにぴったり寄り添い、何度もパンチを食らいながらも諦めずにずっと追いかけまわしているオスがいたり。そのすぐ横では楽しそうにイチャイチャしているカップルの姿があったりと、何とも微笑ましい光景があちこちで繰り広げられている。
特に目を引いたのは、お腹の袋にわが子を抱いた母親が、子に直射日光の熱がなるべく当たらないようにするためなのか、常に自分の背中に日が当たるような立ち位置にいる姿。子どもは直射日光が当たるとすぐに袋の中にすっぽり潜り込むのを見たので、おそらくそういうことなのだろうと思う。
生まれ故郷とはかけ離れた環境にあっても、こうした彼らの生活を垣間見ることができるのは興味深い。それは彼らの内なる資質から溢れ出てくるものだからだろう。
人間の目から見ると、不自由と言えば不自由。
ここの方が安心安全と言えばそれもまた然り。
しかしどのような環境に置かれても、彼らの愛情豊かで穏やかな資質は決して色褪せることはないだろうと思う。