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蓮の花の中の宝珠
(文3700字)
花菖蒲と紫陽花の季節が終ろうとしている。さて次に咲くのは何だろうと待っていると、市内にある植物園の案内に、今が蓮華の開花時期とあったので、出かけてみた。
前夜からの強い雨にぐっしょり濡れた赤や白の蓮や睡蓮が、木陰でひっそり咲いていた。水滴が重いのか、うなだれているように見える花もある。
それにしても不思議な花だ。
この世のものとは思えない異次元の空気感が漂う。
思わずじっと見入ってしまう。
そして昔聴いたことのある、チベット仏教のマントラ(真言)を思い出す。
ॐ मणि पद्मे हूँ
(Om・Mani・Padme・Hum)
「オーム・マニ・パドメ・フム」。
これは、サンスクリット語で書かれたチベット仏教の代表的なマントラであり、「蓮の花の中の宝珠」と訳されることが多い。
実際に声に出してゆっくり唱えてみると、音がハートに拡がっていくような独特の心地よさが生まれる。
(※僧侶が詠唱する声を聴くと、「パドメ」ではなく「べメ」と発音しているように聴こえるが、ここではPadmeという文字に従ってパドメと表記したい。)
不思議に思うのは、このマントラが神仏に加護救済などを祈願するような言葉ではなく、ただ「蓮の花の中の宝珠」とだけ唱えることだ。
ここには、いったいどのような秘密が隠されているのだろう。
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チベット仏教を信仰している地域では、このマントラにしばしば出会う。僧侶が詠唱したり、寺院に掲げられたり、またマニ車と呼ばれる祈りの道具や岩に彫られているのを見かけることがある。
昔、20代の頃にネパールを旅した時、知り合った現地のネワール族の人から別れ際に、このマントラが彫られた銀の指輪を旅の「お守り」として頂いたことがある。人々の意識に深く浸透し、生活に根付いているものなのだろう。
現ダライ・ラマ14世はこの点について次のように述べている。
ほとんどが仏教徒であるチベット人は、慈悲の化身である観音菩薩のこの真言を唱えることによって、悪業から逃れ、徳を積み、苦しみの海から出て、悟りを開く助けになると信じている。
私たちの不浄な身体・言葉・思考を、完全に統一された秩序と知恵の教えの道に導くことにより、仏陀になれるということを意味している。
このマントラを唱えることで、苦しみから逃れ、仏陀への道が開かれるという。だが馴染みのない日本人にとっては、具体性に欠け、正直意味がよくわからない。
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このマントラを他の言語に訳すのは難しいようで、ネットで調べただけでも、多様な解釈が登場する。
「蓮の花の中の宝珠」という代表的な解釈は、中間にある「マニ」と「パドメ」を訳したものであり、最初にある「オーム」と、最後の「フム」はその訳の中に含まれていないのだ。
ますます不可思議に思えてくる。
「オーム・マニ・パドメ・フム」。
マニ(Mani):宝珠、宝石、或いはダイヤモンド。
パドメ(Padme):蓮の花。
これまで本で読んだり、聞いたりした情報によれば、最初の「オーム」は「音なき音の音」の意。「意識の高みに至った時に鳴り響いて聴こえてくるもの」とのこと。
人間の身体には3次元の世界に属するこの肉体の他に、「エネルギー身体」という目には見えない身体が同時に重なって、他に7つ存在すると言われている。
肉体から始まって、その外側にエーテル体、アストラル体、メンタル体、コーザル体、ブッディ体、アートマ体、モナド体と、1つ上がるごとにエネルギーは緻密になり、大きさも拡大していく。
エーテル体やアストラル体の状態は肉体に強い影響力がある。エネルギー身体に凸凹があれば、それを滑らかにすることで肉体の状態も整うということを、実際にヒーリングワークをしていた時に経験した。私にとってそれ以上はまったく未知の領域だ。
この「オーム」の音が聴こえてくる意識の高みというのは、メンタル体という6次元に対応する身体が覚醒したことを指し、その時に自然に聴こえてくる音らしい。
更に「オーム」には、「不滅なるもの」「光」「不変なるもの」などという意味もある。
つまり天上的なものを象徴する音ではないかと思われる。
余談だが、日本にある真言宗の真言にも、この「オーム」と同じサンスクリット語「om」を「オン」と表記し使われている。
千手観音
「オンバザラタラマキリクソワカ」
(om vajra-dharma hrīh オーン ヴァジュラ ダルマ フリーヒ)
薬師如来
「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」
(om huru huru candāli mātaṅgi svāhā
オーン フル フル チャンダーリ マータンギ スヴァーハー) 他多数
話を元に戻すと、「オーム」に対して、最後の「フム」には、正反対の「死を免れられぬもの」「暗闇」「変わっていくもの」などの意味がある。つまりこれは地上的なものを指していると思われる。
ここまでの話をまとめると、「天上」的なるエネルギーが、「蓮の花の中にある宝珠」によって、「地上」にもたらされる。その結果、浄化が起こり、病気や厄災・魔・悪などから守られ、やがて悟りへと導かれる、という解釈ができるのではないかと思う。
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しかし、天上のエネルギーを地上に降ろす為に、宝珠だけではなく、何故わざわざ蓮の花まで必要とするのだろう?
このことに関して、さらに踏み込んだ洞察があるのを見つけた。
このマントラについて、我が瞑想の師オショウ(1931-1990)による次のような講話が残されていた。今まで述べた解釈よりも、さらに深遠なものを伝えている。
ダイヤモンドは最も固い。
最も男性的だ。
蓮の花は最も柔らかく、繊細なものだ。
蓮の花は女性的なるものを表象している。
女性的なるものは、あらゆる者の中心にある。
ダイヤモンドは周辺にあって、
ガードするため、保護するためにある。
しかし女性的なるものは、中心に、守護の要らないまさに中核にある。
その中心において人は愛の中に解放され、信頼することができる。
そこでは信頼することは簡単だ。
取り決められるのでも、作られるものでもなく、ただ単純に、努力することなく、そこに在る。
このマントラは二つを、
最も高い「オーム」と最も低い「フム」を結び付ける。
最も固いダイヤモンドと、最も柔らかい蓮の花を結び付ける。
その統合されたものが、マントラの中に在る。
その言葉の音から神聖な炎が湧き出てくる。
普通の火ではない。
燃えに燃え尽くす神聖な炎だ。
何一つ背後に残すことなく、しかも人はそこから再び生まれることができる。
それは「不死鳥」の神話と同じ神秘だ。
死に至るまで身を焼き、そしてその死から何度も何度も永遠に生き返る鳥。
このマントラは単なる神話ではない。
〈真理〉の一部がマントラを通じて与えられている。
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蓮や睡蓮などの蓮華の花を見ていると、花の中心へと引き込まれるような求心力を感じる。
このマントラを生み出した古代チベットの神秘家たちは、この柔らかいエネルギーに満ちた蓮の花を見つめ、瞑想することによって、その中に宝石のような強固なエネルギーが結実している様をありありと感じ取ったのかもしれない。
「最も固いダイヤモンドと、最も柔らかい蓮の花を結び付ける。」
それはつまり、それぞれを表象する内なる男性性と女性性を結び付け、両者のバランスをとり、その統合が実現するとも解釈できる。
そうして、はじめて天上から神聖なエネルギーが降りて、
「不死鳥神話と同じ神秘」が起こり、
「その言葉の音から神聖な炎が湧き出てくる。」
つまりこのマントラは、加護救済などを求める人間の想いから出た言葉ではなく、この音によって古きものを焼き尽くし、新たなるものを生み出すことができるという、深い洞察と理解から導き出されたものではないかと思われる。
あたかも母親の子宮内で卵子と精子が出会い、そこで卵子と精子という形はその瞬間消滅=破壊されるが、天から降りてきた魂が宿り、新しい命がそこから誕生=創造されるプロセスが始まるということにとてもよく似ている。
「存在」の普遍的な真理である死と再生、破壊と創造のプロセスを促進させる「音=神聖な炎」が、内なる静寂の中から生まれるという神秘。
それは今も尚、人間の内に潜在的可能性として存在している。
「このマントラは単なる神話ではない。
〈真理〉の一部がマントラを通じて与えられている。」
現ダライ・ラマ14世が述べた「悪業から逃れ、徳を積み、苦しみの海から出て、悟りを開く助けになる。私たちの不浄な身体・言葉・思考を、完全に統一された秩序と知恵の教えの道に導くことができる。」という言葉がここで現実味を帯びたものとなる。
「オーム・マニ・パドメ・フム」。
内なる男性性と女性性の統合。
天と地をつなぐ物語。
それがこのマントラの、最も中心的なエッセンスであり、美しさの秘密ではないかと思う。
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北九州市立 白野江植物公園
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ॐ मणिपद्मे हूँ
Om Mani Padme Hum (Cosmic)
Imee Ooi
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