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分類その8「ハードボイルド」

ハードボイルド文学を語るには、私はあまりにも造詣が浅すぎる。この分野を語る人は多いので、あまり半可通な事を言って恥を掻きたくない(笑)。
だいたい、この言葉は元の意味から乖離して来た長い歴史を持っている。
アーネスト・ヘミングウェイ「殺し屋」が書かれたのは1927年。ダシール・ハメット「マルタの鷹」が1929年だから、ハードボイルド(固茹での卵のように無味乾燥な表現)的文体という文学の問題と、ブラック・マスクのような大衆文学の流行とを同じ次元で語るのは馬鹿げているのかも知れない。

私立探偵が事件を追うスタイルはチャンドラーが台頭する頃には既に確立されていたものと思われる。
日本に於いては、大藪春彦氏のせいで拳銃バイオレンスものみたいに扱われて来たが、80年代になってハヤカワ文庫からロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズが広く読まれるようになり、ようやくミステリの仲間入りを果たせたような感がある。

それでもミステリとハードボイルドの間には、いまだに大きな溝があり、その大きな理由は、頭脳を武器とするミステリの探偵とは対象的に、ハードボイルド探偵はもっぱら腕っぷしが武器だという点が挙げられる。
勿論、推理もするのだが、頭が良いというよりも、頭が切れる男が、ハードボイルド探偵なのだ。

この分野の作家にも2種類居て、活劇が好きなタイプとミステリが好きなタイプでは大きく書くものが違う。

マイク・ハマーはとにかく頭を使わない。動くものはとりあえず撃ってみるタイプの男だ。危機回避能力は低いが運はずば抜けて良い。

話は変わるが、最近テレビ神奈川で松田優作主演「探偵物語」の再放送がやっていて楽しく観ている。
第12話「誘拐」で工藤ちゃんが「日本のハードボイルドの夜明けはいつ来るんでしょうかね、オダカノブミツさん」と言うのを聞いて、このオダカノブミツとは誰ぞやと検索をかけたところ、何と原作があることが判明した。

毎週見ていて大笑いするのは、このドラマのシナリオの調子の良さだ。かなり乱暴でアバウトな設定なのに、ちょっと沁み沁みさせたりする。
これがハードボイルドの真骨頂なのじゃないかと思ったりもする。

マーロウは偉大なインタヴュアーなんだ。脅したり、すかしたり、殴られたりして、自分の聞きたいことを聞きだし、それで終わり。事件なんてちっとも解決しやしないよ。いわば、チャンドラーの小説はインタヴュー小説なんだ。

矢作俊彦

事件を未然に防ぐ事ができないのは本格ミステリの名探偵も同じだが、ハードボイルド探偵は確かに、事件の本質に迫って行きはするものの、立ち止まって思索する事はない。立ち止まる間もなく、次から次へと彼を取り巻く状況が変化するからだ。そして事件の核心に辿り着いた時、読者に解説するまでもなく、事件の全容が収束しているというのが、このジャンルの作風と言える。
探偵は大広間に容疑者全員を集める必要もなければ、真相を順を追って説明する必要もない。それは一瞬にして読者の知るところとなるからだ。
時には信頼していた誰かの裏切りの登場シーンかも知れないし、時には残されたルージュの伝言かも知れない。スマートでくどくない。

物語としては十分に本格ミステリに成り得る内容なのにも関わらず、体裁がハードボイルドであるがゆえに、ミステリとしての評価が正当に行われていない作品も多いように思う。
偏見を捨てて、読み直してみると新しい発見の多い分野である。


2023.3.23


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間 良 ―Ryo Hazama
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