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【二次創作小説】いろいろ
※いくたはなさんの『龍と虎』に登場するこのふたり、「直江綱」(左)と「宇佐美満」(右)のお話です
※百合百合しい内容となっていますので、苦手な方は回れ右で
宇佐美さんと直江ちゃん pic.twitter.com/bbTME3TynE
— いくたはな🖋漫画家 (@suitondiary) August 12, 2021
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「んっ……」
唇と唇が触れ合うだけの、青い口吻。
まだ数えるほどしかしていないとはいえ、とうに片手の指では足りぬくらいの回数を重ねてはいる。
それなのに、いまだ直江は頬を朱に染めては、唇が離れるとすぐに顔をそらしてしまう。
――もっと、その恥じらう顔を見ていたいというのに!
わたしの中で、誰かが叫ぶ。
誰でもない。それは自分自身で押し殺した、もうひとりのわたしだ。
児戯のような接吻ひとつで酒精に酔ったように頬を赤らめているこの目の前の大切なひとを、めちゃくちゃにしてしまいたいと思う。
思って、しまう。
――ぜんぜん足りない。もっとめちゃくちゃに、愛したい。
そんな自分が暴れ出しそうになるのをぐっと抑え込みながら、わたしは直江の頬を手を伸ばした。
「……っ」
熱い。
ほんとうに酔っているかのように、頬が火照っている。
――どうせ酔うのなら、わたしに酔えばいいのに。
「まるで茹で蛸のようだな」
「……どうせ、色気のない女ですから」
気を紛らせようとしたわたしの軽口に拗ねたように唇を尖らせて、直江がわたしを睨みつける。
初めて見る直江の表情に、そんな姿すら愛おしくて胸の奥がずくんと疼いた。
「わたしにとっては、そなたほどそそる女はおらんのだがな」
なんとか平静を装いながら、わたしは言葉を紡ぎ出す。
「またそんな戯言を……」
口ではそう言いながらも、嬉しさを隠しきれない様子の瞳で直江がわたしを見上げた。
――この瞳が、悦びに濡れる様を見たい。
胸の奥で、再び昏い炎が灯る。
「どうすれば、本気だと信じてもらえるのかの」
「……だって、まだわたしの名前も呼んでくださらないし」
「綱、と呼んでも構わぬのか」
わたしが名を呼ぶと、直江のカラダがぴくんと小さく跳ねた。
「この名を口にすることすら、愛おしいな」
「……ぁぅ」
――嘘だ。本当は、名を呼ぶくらいでは足りない。
「名を呼ぶくらいでは、まだ足りぬのか?」
自分の中の燻りから目を背けるように、わたしは直江に同じ言葉を投げかける。
「だって……ぅー……えぃっ」
しばし唸っていた直江だったが、やがて意を決したように、私の体にぎゅぅっと抱きついてきた。
その小さなカラダが持つ熱が、背筋を伝って私の全身に拡がっていくのを感じて、わたしは言葉を失う。
「わたしだって、その……もっと、いろいろしたいんですよぅ!」
そんなわたしに気付くことなく、直江は背中に回した腕に力を込めながら続けた。
「く、口吻するたびに、あれこれ考えてしまって……わたしばっかり恥ずかしい思いをするのは、なんかズルいです」
……ということは、あれか。あれなのか。
恥じらっていたのには違いないが、直江はあれやこれやされたいと妄想していた自分を恥じていた……と、いうことか?
――それは、可愛すぎるだろう!
そう思い至ったところで、わたしの中で何かが弾けた。
「わたしはこんななのに、宇佐美殿はいつも優しくしてくださるから、ぁっ……?」
最初は、いつものように。
しかしそこから先はいつもよりも長く、深く。
口吻をかわす。
「んくっ……ぷぁっ!」
離れた唇から唇へと、名残惜しそうに透明な糸を引く様がやけに艶めかしく、
「ぇっ、え? ぅ、うさみどの……ぁむっ」
すぐにもう一度。
今度はさらに深く、深く、直江の唇を貪った。
と、カクンと直江の腰が落ち、その拍子に唇が離れる。
荒い吐息と濡れた瞳でこちらを見上げる直江のカラダを壊してしまわないよう抱きしめながら、わたしはゆっくりと体重をかけていく。
「んっ……っさみ、どの……っ」
「……悪く思わんでくれ、綱よ」
自分のカラダの下で、混乱と期待の入り混じったような瞳でわたしを見上げている直江。
その姿に情けなくも声が掠れてしまったが、そんなことはもう互いに気にならなくなっていた。
「綱が思っていたよりきっと、わたしは“いろいろ”したいと思っておるぞ」
――なにせ、数百年分の“いろいろ”なのでな。
そう呟くもう一人の自分がふっと溶けていくのを感じたが、わたしの頭の中は腕の中にいる直江から伝わる熱と「これからどうしてくれようか」という考えで、すぐにいっぱいいっぱいになっていくのだった。
‹了›
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久しぶりのガチな二次創作で、大変楽しかったです!
しばらく書いてなかったのに急に「書こう!」と思ったきっかけは、いくたはなさんのnoteでした。
そりゃもう、これ見たら書かざるを得ないよね! という感じでした。
気になった方は、迷わず読みに行ってください。
「虎子と龍」「柿崎と山本」でも書きたいぜっ。