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タイ・バンコク発 コロナ禍だからこそ、海外進出に向けてやっておきたいこと

先日2/20(土)、沖縄発信の国際音楽カンファレンス「Trans Asia Music Meeting 2021 (TAMM)」にてオンラインで講演しました。

「TAMM」は、沖縄とアジアの音楽ネットワーク構築と、沖縄から音楽を海外発信する試みを続けている国際音楽カンファレンスで、今回は「コロナ禍を音楽・カルチャーで生きるヒント」をテーマに開催されました。また、ショーケースフェスティバル「Music Lane Festival Okinawa 2021」も同時開催され、那覇市と沖縄市とアジアをオンライン+オフラインで繋いだ国際音楽フェスとなりました。

当日は「タイ・バンコク発 コロナ禍だからこそ、海外進出に向けてやっておきたいこと」と銘打ち約1時間ほど講演しました。海外進出を検討している音楽関係者(バンド、アーティスト含む)にとって、少しでもヒントになるような内容を盛り込めたら、と気合入れて作ったので、対象者は限られるものの、主催からの快諾のもと、公開したいと思います。
内容は、「自己紹介」「コロナ禍でのタイ音楽業界」「コロナ禍だからこそ、海外進出に向けてやっておきたいこと」の三本立てとなってまして、このうち「自己紹介」を除いた内容について公開します。

今までのTAMM参加歴

TAMMには今回含め3回参加しています。

初参加は2019年8月「Trans Asia Music Meeting 2019 -Summer Edition-」。初回だったので、タイの概況やタイインディーズ音楽の状況を紹介しつつ、バンコクから見たアジアの音楽シーンを解説し、「日本以外のアジアの国同士が繋がり始めている現状があり、日本がアジアの音楽の輪から取り残されていく危機感を感じている」って話をしました。


2回目は2020年2月「Trans Asia Music Meeting 2020」。日本の音楽業界がアジアに目を向け始め、実際に動きも活発になり始めていたこともあり、「とにかく進出してみる」の段階から、「目的意識を持って進出する」ということの重要性をお話ししました。


タイ・バンコク発 コロナ禍だからこそ、海外進出に向けてやっておきたいこと

こちらが、今回のTAMMにて講演した内容となります。

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大前提として、TAMMの目的が「沖縄とアジアの音楽ネットワーク構築と、沖縄から音楽を海外に発信する」というものなので、本講演を視聴いただいてる方は、海外進出に興味がある音楽業界の方という前提で話をします。

海外進出、というと、やはり、現地に赴いてライブをすることが、現地ファンにとってもバンドにとっても有意義なことかと思います。ライブだと人数に制限があるので、届く範囲は限られていますが、その分、濃密なので、深く届くかな、と感じています。

ただ、現在、海外ツアーなど、海を跨いでの行き来が難しい。さらに、いつまでこの状態が続くのかはわからない。
また、たとえ、ワクチンなり集団免疫なりで、行き来自体はできるようになったとしても、航空会社、特にLCCがバタバタ無くなってて、飛行機チケットが今までのように安く済ませることができなくなるかもしれないし、現地のライブベニューがそのときにも残っているかどうかわからない。
と、不安要素を挙げるときりがないのですが、まぁ、なにがあっても、どうせ諦めないんで、いつか、また気軽に行き来ができるようになるはず、という希望を持っています。

本日は、その行き来が容易にできるようになる日に向けて、今のうちから仕掛けておいた方がいいこと、というのをお話しします。その中で、海外進出・タイ進出において、皆さんにとってヒントとなるようなこと、少しでも役に立てそうなお話しができればと思っています。


コロナ禍でのタイ音楽業界

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本題の前に、コロナ禍でのタイ音楽業界について、共有したいと思います。

コロナ禍でのタイはどんなだったのか、ということと共に、タイの音楽業界はどうだったのか、というのを共有したいと思います。

タイは比較的コロナ対応がうまくいった国とされてますが、やはり、被害は甚大です。
タイの雇用者団体によれば、感染が拡大した去年3月から感染拡大収束までの失業者総数は、少なくとも650万人に達する見通しとのことで、タイの人口が約6900万人、労働人口は、総人口のだいたい半分強で3800万人くらいなので、だいたい就業者の20%弱ほどの人が失業する計算となります。

音楽業界も同様に厳しく、ドイツのとある調査会社の予測によると、タイの2020年の音楽イベント市場は前年比59%減の2,791万米ドル(約29億5,300万円)規模に落ち込む見通し。タイの大手音楽会社BECでは2020年第1四半期(1~3月)のコンサートやショーによる収入が前年同期比92.6%減の610万バーツ(約2,062万円)と壊滅的に落ち込んだとのことです。

音楽業界含め、各業界に甚大な被害を及ぼしていますが、実際の現場はどのようだったのか、共有していきます。


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まず、タイでのコロナ感染ですが、3月中旬くらいから拡大し始めまして、その後すぐに矢継ぎ早に対策がとられました。
3月下旬に非常事態宣言が出され、学校やエンタメ施設、マーケット、デパート、公園など、人が集まりやすい場所は軒並み閉鎖となりました。
4月入ってすぐに夜間外出禁止令が発令され6月中旬まで続きました。その後、続けざまに、アルコール販売が禁止され、国際線旅客機の乗り入れも禁止されました。

もちろん、大型コンサートやフェス、イベントは全部延期か中止となりました。
大きなコンサートで言いますと、Green Day、Baby Metal、One OK Rockなどの海外バンドのコンサートが延期になりましたし、タイ国内のフェスも延期になりました。5月中旬に予定されていたタイの野外フェスと、6月上旬に予定されていたフェスに日本のバンドをブッキングしていたのですが、これも流れてしまいました。

また、店内でのアルコールの提供が禁止されまして、生演奏を聴かせるバーやレストランなども営業停止となっていました。
タイでは、インディーズバンドが自分の曲を演奏できる場所がとても少ないのですが、そのうちの希少な場所の一つである「NOMA」という店も、この営業停止が響き、残念ながら閉店となってしまいました。


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6月にはいると、日本や他の国でも盛んになりましたが、タイでもオンラインライブが盛況となりました。

先陣を切ったのは、タイのインディーズ音楽ストリーミングサービス「Fungjai」が「At Home Festival」と題して、タイの若手人気バンド・アーティストを集めてオンラインフェスをおこないました。これは他のオンラインライブに先駆けて、夜間外出禁止令が出された4月におこなわれたものになるのですが、プラットフォームはYouTubeとFacebookでおこなわれました。タイのYouTubeにはSuperchat機能がないので、YouTube経由では投げ銭ができないのですが、タイ式の投げ銭として、ライブ配信中の画面にQRコードが表示されてて、それをスマホの銀行アプリで読み込むと振込画面が現れるので、任意の額を振り込んでサポート、という方法で投げ銭してました。最終的に集まった金額は約300,000バーツ(約1,000,000円)ほどで、サポートされた額は、全額、出演バンドに還元されるとのことでした。

その後も次々とオンラインライブやオンラインフェスが相次ぎまして、「フジロック」にも出演したことのある人気ロックバンドの「スロット・マシーン」がオンラインコンサートやったり、タイの独立系音楽レーベル「What The Duck」が、オンラインフェスを実施しました。
「What The Duck」のオンラインフェスについては、かなり話題になりまして、チケットは499バーツで約3000人が視聴したということで、150万バーツ、約500万円強の売り上げだったようです。仕組みが面白くて、「Zoom」を使ってのライブ配信だったのですが、右下の写真のように、スクリーンをずらっと600以上配置した専用スタジオ作りまして、演奏側はまるでオーディエンスの前でライブやっている感覚になれますし、オーディエンス側もアーティストを間近で楽しめたりと、凝った演出のオンラインフェスでした。

他にも、国民的人気のポップスターStamp Apiwatが毎日のようにインスタライブやったり、多くのバンドがYouTubeやFacebookやInstagramなどをプラットフォームとしてライブ配信して、オーディエンスを楽しませていました。


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感染拡大当初の厳格な対応が功を奏したのか、5月下旬くらいからは国内感染者が連続0人の日が続き、規制も徐々に緩和され、6月中旬くらいからは日常も戻り始め、7月からはイベントも開催できるようになってきました。

ただ、開催にあたっては制限もありまして、マスク着用・検温・アルコール消毒は必須ですし、当初は「基本着席形式」で、隣との感覚を空ける、など、制限がありました。

そんななかで、7月中旬から4週連続でタイの人気バンドを集めたイベントが開催されました。Gym and SwimやTELEx TELEXs、INSPIRATIVE、Moving and Cutなどの人気バンドがブッキングされています。
「基本着席形式」という制限をユーモラスに解釈したイベント「I'm fine, thank you, sit down please」が着席形式で開催されました。


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また、店内でのアルコール提供ができるようになり、小さな店でのライブイベントなども戻ってきました。
こちらはSpeakerboxという、バンコク都心にあるキャパ100人くらいのこじんまりしたライブバーで、インディーズが自分の曲を演奏できる数少ないライブバーなのですが、お店の定休日以外はほぼ毎日のようにイベントが開催されていました。
左下の写真がイベントスケジュールとなっています。イベント数で言うと、コロナ以前と同じかそれ以上のイベント数となってました。

ただ、当時は「営業時間は午前0時まで」とか「基本着席形式」とか「テーブルの間隔は2m以上」ということで、お店では通常の半分以下のキャパでしか営業できない状況でした。


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こちらは、タイのコロナ第1波が収束後、初の大型フェスです。
音楽系ラジオ局の「Cat Radio」が主催する「Cat Tshirt Festival」という音楽とTシャツのコラボフェスなのですが、のべ約3万人を動員しました。


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タイは11月から2月までが冬(寒季)となり、気温が比較的穏やかで、雨も降らないので、野外フェスが乱立するフェスシーズンとなります。
去年はコロナだったので開催が危ぶまれましたが、タイを代表する大型フェスの「CAT EXPO」と「Big Mountain Music Festival」は両方とも開催されまして、両方ともチケットソールドアウトになっています。

こちらは先ほども出ました音楽系ラジオ局の「Cat Radio」が主催する「CAT EXPO」の様子です。
バンコク近郊の使われていない遊園地を借り切って、土日の2日間開催、5ステージ100バンド以上が出演します。


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こちらはタイの総合エンタメ会社のGMMが仕掛ける大型野外フェス「Big Mountain Music Festival」です。
こちらはバンコクから車で3時間くらいのカオヤイという地域の広大な土地を使ったフェスで、こちらも土日の2日間開催されます。こちらもチケットソールドアウトでした。

あと、もう一つ、興味深いフェスで「Maho Rasop Festival」という音楽フェスがありまして、こちらは海外アクトがメインのフェスなのですが、やはり去年は海外のバンドを招聘するのが難しく、開催ができませんでした。
ちなみに、CAT EXPOもBig Mountainも、毎年海外からのバンドが出演していたのですが、去年は海外組の出演はありませんでした。


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と、このように、7月から12月中旬までは、イベントもフェスも良い感じで開催できていたのですが、12月中旬くらいから、タイでも第2波が到来しています。
その影響もあり、年末年始のイベントやニューイヤーイベントは、全国的に軒並み中止となりました。
左側の写真は、タイ語で「カウントダウンイベントは中止」と書かれています。
カウントダウンイベントのなかでも、バンコク中心部にあるCentral Worldというデパートでのカウントダウンが盛大に盛り上がって有名なのですが、去年から今年にかけてはテレビでの生中継とライブストリーミングのみになりました。右上の写真が去年から今年の模様です。右下の写真は以前のカウントダウンパーティーの模様なのですが、対比のために載せています。デパート前の道、8車線ほどを歩行者天国にして、巨大な野外会場として使っていました。今年は、右上の写真のように、普通に車道として使っています。

現在、第2波も徐々に収まりを見せてますが、第1波のときと同じように、バーは閉鎖を余儀なくされていますし、店内での飲酒を禁止したり、閉店時間を早めたり、県をまたいだ移動を一部禁止したり、と、制限がおこなわれています。それに伴って、イベントの中止・延期が散見されるといった状況です。
海外からの渡航も、少しずつ緩和されてきてはいて、旅行目的の入国も可能になっているのですが、タイ入国後には14日間の指定施設での強制隔離が必要になっています。
ここら辺の処置が緩和されない限りは、タイへのツアーや、タイからのツアーは、まだ現実的ではない状態です。

※講演日2/20(土)の数日後、2/23(火)に規制が緩和されまして、バー営業可、店内での飲酒も可となりました。これに伴い、早速、音楽イベントもボコボコと企画され始めています。


コロナ禍だからこそ、海外進出に向けてやっておきたいこと

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と、ここまでが、コロナ禍でのタイとタイ音楽業界の話でした。
ここからが本題となります。


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「海外進出に向けてやっておきたいこと」ですが、結論から話します。
「進出ターゲット国に対し、今のうちに認知度を上げ、エンゲージメントを強めておく」です。

ちょっとマーケティングとかプロモーションといった感じの話になります。
行き来できない今のうちに、アクセル踏んでプロモやりましょう、って話でして、プロモをしっかりやりましょう、って話は、あまり目新しい提言ではないのですが、日本とタイとはプロモツールだったり接触メディアだったり、異なる点もあるので、そういった相違点だったり、あとは、実例を交えたオススメ施策だったり、そういったことを中心に話せればと思います。

なぜ、「進出ターゲット国に対し、今のうちに認知度を上げ、エンゲージメントを強めておく」なのか、というと、ボクがいうまでもなく、音楽産業の収益構造は変化していて、フィジカルの販売からライブ・グッズ販売、最近ではストリーミングサービスからの収益という方向に売り上げをシフトしてきていました。そういった状況の中、コロナのため、ライブを開催することができない状況になりました。ライブ・ツアーをやるにしても、今は日本国内でも移動が難しいし、海外にはまだまだ目途も経っていない状況かと思います。そこにきて、インターネット・エンタテックの発達もあり、例えば、今日リリースした新曲が、瞬く間に世界中で聴けるようになっています。YouTubeにアップしたMVを視聴してもらうのも、ストリーミングサービスにアップした曲を聴いてもらうのも、日本の1億2000万人だけを相手にするより、アジアの45億人、世界の75億人を相手にしたほうが当然母数は多くなるので、視聴回数は増えるはずです。
ただ、いきなり全世界に打って出れればいいのですが、お金とか人員とかリソースの問題で、そう簡単にはいかないかと思います。

なので、まずは、進出を予定している国にターゲットを絞り、移動が制限されている今だからこそ、今のうちに認知度を上げるためのプロモ施策をおこない、まずは知ってもらいましょう、と。そして、いつか現地でのライブやツアーが実現した際に集客に見込みがつけられるようになったり、ファンになってもらって音源を何度もリピートして聴いてもらえるよう、エンゲージメントを強めておければなお良しですね、ということです。

現在、ここら辺の要素が重なっている時代なので、海外へのアプローチをおこなう良いタイミングだと思っています。
ここでは、タイにおいての認知向上・エンゲージメント強化について、ヒントとなるような話を出来ればな、と思っています。


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まずは、実感値、なのですが、今までのdessin the worldの活動を、ざっくりまとめてみました。
活動自体は2009年から始めているのですが、本格的に日本とタイの行き来をサポートするようになった2013年頃からの活動歴になります。これ以外にも、細かく色んなことやってはいるのですが、主だったものをカウントしています。

年々、件数は増えてまして、2016年は前王様の崩御があり、様々なイベントがストップとなったため件数が減りましたが、それ以降も増えています。特に2019年くらいからは、日本の音楽業界でもアジアが注目され始めたこともあり、件数がグッと増えました。

プロジェクト内容としては、ツアーやリリースのコーディネーターといったプロジェクトが多く、なので、2020年は相当減るのかな、と思っていたのですが、件数はほぼ変わらず、プロジェクト内容が変化しました。
特に、Media、ここではインタビューだったり情報発信だったりですが、こちらが増えました。タイ国内のインタビューもありましたが、タイの状況を知りたい、といったような日本からのインタビューのほうが多く、タイも注目され始めているんだな、と感じました。
また、Support案件、これは、日本で音源をリリースしたいのでレーベルを探してほしい、とか、タイのアーティストを紹介して欲しい、とか、そういうのですね。
さらに、2019年からはPromotion案件がちょこちょこ入ってくるようになり、2020年も依頼されることが増えてきました。これは、日本からタイという方向がほぼ全てです。新曲リリースしたのでタイの音楽関係者やメディアにPRを送って欲しい、というような依頼を受けることが多くなりました。

このように、実際にSupport案件やPromotion案件などが増えていまして、「現在、行き来ができないからこそ、コロナ後のために、今、なにをしておくべきか?」という視点でのプロジェクトが増えた印象を受けています。


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では、そのプロモをおこなううえで、まずは知っておかなくてはいけないこと、として、タイではどういうメディアに接触しているか、です。
こちらは、「We Are Social」という、イギリスのグローバルエージェンシーのデータになります。

タイの人々は、1日のうち約9時間インターネットを利用。テレビ視聴は3時間半。24時間のうち睡眠を7時間、起きている時間を17時間とすると、起きている時間の実に半分以上をインターネットに費やしていることになります。またそのうちの約3時間をSNSが占め、ストリーミング型の音楽配信サービスの利用は1時間半ほど。対して日本はどの項目もタイより少ないです。

こちらのデータの通り、タイ人が一番長く接触しているメディアはインターネットである、と言えるかと思います。
広告媒体としても、ネット広告は予算の融通が利きますし、音楽と親和性の高い媒体ですし、とりわけSNSについては継続的にフォロワーとコンタクトできるという特徴があるので、エンゲージメント強化に期待ができます。しかも、基本的には無償で利用できます。
いきなり大きな予算を割いて海外向けにプロモできる会社は限られていると思いますし、DIYで活動しているバンドは予算自体確保するのが難しいかと思うので、タイに進出をするレーベル・企業・バンドには、少額でも実施可能なネット広告・SNS運用をお勧めしています。


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ネット利用率ですが、タイは人口の約70%、日本は93%です。ただ、SNS利用率になると、タイは人口の約79%、日本は約74%です。SNS利用率をインターネット人口対比で見てみると、タイは110%超え、日本は約80%です。
タイが100%超えているのは、一人がSNSアカウントを複数所有していることを意味していると考えることができます。
タイはSNS大国と言われることが多々あるのですが、先程のSNS利用時間の多さからも、実際にSNSに触れる機会が多いことが裏付けられます。


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では、どのSNSがよく利用されているのか、というと、こちらです。

ここが日本と大きく異なる部分になるのですが、タイでよく利用されているSNSはFacebookです。続いてInstagramとなります。日本ではSNSはTwitterが多くて、そのあと、Instagram、Facebookの順です。
動画プラットフォームはYouTube、チャットツールはLINEが主でして、ここは日本と同じです。
SNS利用者としては、タイは10代後半~40代前半が最大ボリュームゾーンで、40代後半以降になると少なくなります。
この調査では、ツールごとの年齢分布が記載されていないのですが、以前調べた限りですと、Instagramの利用者層は若年層が多かったです。なので、ツールごとの年齢分布は日本と近しいのかと思っています。

音楽ジャンルによってターゲットとなる年齢層は異なると思いますが、だいたいは、このボリュームゾーンに収まるのではないかと思うので、タイ国内において「Facebook」「Instagram」「Youtube」を活用したプロモーション活動は必須だと言えます。実際に、タイ国内のバンドやアーティストも、この3つについては基本的には持っていて、あとはストリーミングサービスもほぼどのバンドも登録しています。なかには、LINE公式アカウントをファンクラブ的に運用しているアーティストもいます。

言うまでもないかもしれませんが、海外進出を目指すのであれば、YouTubeやストリーミングサービスは登録が必須です。海を越えて手軽に音楽を届けられるとても便利で効率的な媒体です。
ただ、登録しただけ、音源をアップしただけだと、大海原に小石を投げいれただけのようなものなので、そこからどうやって広めるのか、知ってもらうのか、っていうので、マーケ・プロモの話に繋がっていきます。


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これらのデータを踏まえて、タイでのプロモを考える際は、こんな感じのモデルを考えればいいかと思います。
なんか、もう、音楽の話じゃなく、この講演で細かいプロモ施策の話をしても本題からずれるので、超ザックリです。

まず認知度向上。「知らない」を「知っている」状態にしましょう。
ここは先ほど説明しましたFBやInstagramで広告打ったり、現地の音楽系メディアだったりラジオ局だったりを探してPR送って記事書いてもらったりオンエアしてもらったり、プレイリストに入れてもらえるよう交渉したり、なるべく楽曲やMVに触れてもらえる機会を増やすような活動をしていきましょう、ってとこですね。ここら辺は、自分でもやってやれないことはないですが、その道のプロの手助けが必要かもしれません。

そうすることで、まず、「知らない」から「知っている」という状態に持っていき、さらに、タッチポイントを多面化することで何度も触れてもらう機会を作り、何度も触れているうちに気になるようになってもらい、SNSフォローをしてもらえるまで、持っていければと思います。
タイの方は比較的気軽にフォローしてくれるので、上記のような方法だけでもフォローしてもらえると思いますし、「フォローしたら●●プレゼント」みたいなキャンペーン張れば、フォロワー獲得が容易になります。

そして、エンゲージメント強化。ここの主戦場はオフィシャルのSNSページです。
FBやInstagramをフォローしてもらい、定期的に更新します。これはタイに限りませんが、フォローしてもらうことが大事で、向こうからわざわざ情報を見に来るという手間をかけることなく、こちらから情報を発信すれば触れてもらえる状態にしておく、というのが重要です。
ポストは、タイ語でできればベストですが、せめて英語で。ちなみに、Google翻訳は、日本語・タイ語の翻訳となると精度がかなり悪いので、あまりお勧めしません。

こうしてSNSをフォローしてもらい、継続的に触れる機会ができると、エンゲージメントが強まることが期待できます。
エンゲージを強めていくうちに、ここでいうファン化という状態になるかと思いまして、そうなるとライブを見たい、とか、グッズが欲しい、とかになったりするかと思います。
生の演奏を見たい、フィジカルなものを手元に置いておきたい、というファンという状態になっていれば、いつか実際にタイでライブをやることになった際の集客や、会場でのグッズ販売も期待できます。
行き来ができない現在でも、グッズについては越境ECで販売という可能性もありますし、ライブについては無料有料に限らずオンラインライブを視聴してもらえる可能性があります。

この認知度向上からエンゲージメント強化に至るまでに、色んな手法があるので、全部自分たちでやるのは大変です。なので、この中で、特に、仕掛けておいた方がいいんじゃないかな、というオススメの施策を、認知度向上とエンゲージメント強化、それぞれ1つずつご紹介できればと思います。

まずは、エンゲージメント強化の段階。
これはもうSNS運用を地道にフル活用するのが、結果として効果的で効率的です。なので、ポスト内容を工夫したり、キャンペーン打ってみたり、ライブやグッズとの連動企画を実施したりと、フォロワーが喜ぶことを考えて継続的に実行していくのがポイントになります。

実際に、とある日本のバンドがタイツアーに来た際に、そのバンドのFacebookページの運用をサポートしていたことがあります。ポストするコンテンツとアートワーク、あとはキャンペーン企画をしまして、2ヶ月弱の運用期間でフォロワー数が6倍以上になりました。FB広告も使ったので、認知度向上をしつつエンゲージメント強化をおこなった、という感じではあるのですが、ここで得られたフォロワーは、もちろん私のサポート後にも有効に活用できます。新曲のMVが完成した際には、FBにアップすれば、特に意識することなくタイのファンにも届きますし、次回のタイツアーが決まった際には、このタイのファンにライブ情報を容易に届けることができるようになります。

そして、認知度向上の段階でのオススメ施策です。
主力のコンテンツとしては、やはり、楽曲・MVになりますが、ここで「タイのアーティストとのコラボ」を仕掛けると、当地での認知度向上がぐっと楽になります。


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こちら、タイアーティストとのコラボの実例となります。以前からちょこちょこコラボコンテンツはありましたが、特に去年、コロナ禍のなかで、加速した感はあります。

こちらは2020年にリリースされたコラボ曲です。

人気タイ人シンガー「Max Jenmana」 X LUCKY TAPES 高橋海・AAAMYYY

Max Jenmanaは、YouTube再生2.5億回記録のヒット曲を持つSSWで、日本デビュー作『555!』でコラボ。AAAMYYYとはMVで共演も。
実は、去年の秋口に日本ツアーが決まってて、場所も対バンも決まって告知もされていたのですが、コロナのため実現せずでした。行き来ができるようになってから、再度ツアーを組むのかと思われます。


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こちらも2020年にリリースされたコラボ曲です。

タイの国民的人気ポップスター「Stamp Apiwat」 X SKY-HI

その後、Stampは「a-nation online 2020」に出演しています。


タイ若手サイケソウル「Supergoods」 X TOSHIKI HAYASHI(%C)

TOSHIKI HAYASHI(%C)はDJ/BEAT MAKERで、去年、『Synchronizing』という、海外の女性シンガーとコラボして3ヶ月連続で楽曲をリリースする、というプロジェクトを立ち上げてまして、第一弾は韓国のOuiOui (ウィウィ) 、第三弾は台湾の9m88(ジョウエムバーバー)、で第二弾がタイのSupergoodsでした。


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こちらも2020年にリリースされたコラボ曲です。

兄妹シンセポップユニット「Plastic Plastic」 X SHE IS SUMMER

「Plastic Plastic」がSHE IS SUMMER(SIS)の楽曲を作曲したり、 「Plastic Plastic」の曲にSISがコラボしたりと、相互コラボが実現しています。

「Plastic Plastic」作曲のSISの楽曲はタイでも話題となり、メディアでも取り上げられました。
「Plastic Plastic」の曲にSISがコラボした曲はさらに多くのメディアでも取り上げられ、「Cat Radio」の週間1位も獲得。特にこの「Cat Radio」で1位を獲得したことは快挙じゃないかな、と思っています。
「Plastic Plastic」の曲にSISがコラボした、ということで、SISの曲ではないものの知名度向上には一役買っていると思われますし、もちろん、1位になるということは、このラジオ局で相当回数オンエアされているはずなので、SISという名前が何度もラジオ内で言及されたことになります。

また、Cat Radioは、先ほどありました3万人規模の大型フェスを年に2~3回主催しているので、そこへの出演の芽もあります。タイにもすでに一定数のファンがいる状態なので、来タイしてライブするのに良い状態が整っているんじゃないかな、と思っていたのですが。。。
なんとSISとしての活動は今年4月で完結ということで、タイでの知名度が出てきたのに、残念ながら、来タイライブは叶わぬままとなりそうです。


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こちらは2020年以前にリリースされたコラボ曲です。

タイの国民的人気ポップスター「Stamp Apiwat」 X Five New Old

お互いの楽曲でコラボしたり、お互いの国でのツアーをサポートし合ったり、ライブにゲスト出演したり、と、深いリレーションシップを築いています。Stampはその後「Summer Sonic 2019」出演したり朝の情報番組「スッキリ」に出演したりしています。


タイHIP HOP界の兄貴分「F.Hero」 X BABYMETAL

BABYMETALの横浜アリーナでのライブではF.HEROがサプライズで登場。


タイのヤングスター「Phum Viphurit」 X STUTS

Phumはその後、2018年のWWW企画「In&Out」出演、「Summer Sonic 2019」出演。

あとは、タイのメタルコアバンド「Annalynn」の曲に日本のハードコアバンド「Crystal Lake」がコラボして、その後、新木場STUDIO COAST(現USEN STUDIO COAST)でおこなわれたCrystal Lake主催「TRUE NORTH FESTIVAL」にAnnalynnがお招きされて出演しています。


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2021年も引き続き、コラボが連発しています。

タイのドリームポップバンド「Folk9」 X  Luby Sparks

こちらは制作は全てオンライン。MVにはLuby SparksボーカルのErikaが出演しています。
こちらも、後々のLuby Sparksのタイ公演、folk9の日本公演を狙っているんじゃないかな、と思いますし、そうあって欲しいです。


タイの国民的人気ポップスター「Stamp Apiwat」 X chelmico

またまた出ましたStampさん、今年も精力的に日本のアーティストと絡んでます。つい先日、chelmicoとコラボ曲をリリースしました。
日本で色んな媒体でリリース情報がでているので、Stampさんの日本向けの露出も増えていますし、反対に、タイでもリリース情報が出ていたり、Stampさんが自身のSNSでリリース情報を発信しているので、chelmicoのタイでの露出にも大いに貢献しています。ちなみに、StampさんのSNSフォロワーですが、FB 43万人、IG 73万人、そしてTwitter317万人のフォロワーがいるので、拡散力がだいぶ強いです。
しかも、これはSpotify Japanにはなりますが、公式プレイリスト『Dance Pop:Japan』のトップカバーになったりしています。


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あとは、コラボとはちょっとニュアンスが異なるんですが、相川七瀬さんの曲のリミックスをタイのユースカルチャーを牽引するラッパー/プロデューサーが手掛けたりしてます。


あと、これは2020年からスタートした、ちょっと変わったコラボコンテンツ例なのですが、日本の南無阿部陀仏というバンドが、タイのフェスに出演予定だったのにコロナで流れてしまい、せっかく知り合ったから、ということで、タイの大学生やミュージシャンとの異文化交流番組をYouTubeで定期的にやってました。こちらも、いつかのタイ公演の布石になっているかと思います。


と、色々とタイと日本のコラボの実例を見てもらいましたが、ポイントとしては、どのバンド・アーティストも、コラボのその次の展開がちゃんとあるんですね。コラボ曲を名刺代わりとして、日本・タイお互いが現地での知名度を上げて、次の展開にスムーズに進んでいけるような戦略を考えているな、と感じます。
さらに、現在も、私の知っているだけで3つほどコラボプロジェクトが進んでいます。この流れがさらに太くなると、コラボを仕掛けるバンド・アーティストも増えていくんじゃないかな、と思います。


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コラボの何がいいか、と言うと、大きく二つありまして、一つは「お互いの国での知名度を活用したプロモが可能」なんですね。
相手方には、すでに一定数の現地のファン・フォロワーが存在しますし、しかも、現地語でプロモやってくれるので現地の方々にすっと伝わります。で、上手くいけばPlastic PlasticとSISや、Stampさんとのコラボの例のように、ラジオオンエアーや音楽系メディアへの露出などもあるかもしません。

あともう一つは、認知度が高まれば、いつか行き来ができるようになった後に、「現地でライブをやる際の集客」も期待できます。
コラボしたアーティストが現地でのライブ告知を助けてくれるでしょうし、さらに、ライブにゲスト出演みたいなライブの演出も考えられます。

今までの例を見る限りでは、基本的にはジャンルや当地での人気度が近しいほうが、相乗効果が高いです。アーティスト同士の親和性もあるし、お互いのファンにも受け入れてもらえ易いでしょうし、日本とタイで呼んで呼ばれてみたいなことをするのもやりやすいので、そういった意味で相乗効果も高いです。

いつかのタイ進出のために、タイのアーティストとのコラボコンテンツを今から仕掛けておくの、オススメです。


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まとめです。

・今のうちに進出ターゲット国にプロモ攻勢しておこう
・認知度を上げるためにはコラボ施策がオススメ
・その後のエンゲージ強化はSNS運用を地道にやろう

やる前は大変そうだなぁ、と感じるかもしれませんが、やってて楽しいことですし、やってみたら意外といけるんじゃないかと思います。

なので、皆さんのタイへの進出、まずはオンラインで、そのうちオフラインで、タイにいらっしゃること、お待ちしております。


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dessin the world
日本とアジアのインディーズシーンを支援するためのレーベルです。 「日本の音楽をアジアに。アジアの音楽を日本に。」をコンセプトに、アジア音楽交流のための草の根活動をおこなっています。主に、タイのインディーズ事情について発信していきます。
日本・タイのインディーズバンドによるコンピレーションアルバムのフリーダウンロード「a plan named overlap」、アジアの現場で鳴っている音を共有するためのプレイリスト「Scenario Asia」はこちらから。

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