2020年 タイで印象に残ったライブ 12選
2020年、コロナ禍。日本でも世界でも、もちろんタイでも大きな影を落としました。ここ最近になってタイでもまた感染者が増えてきましたが、去年の中盤から後半にかけては国内感染者が0の状態がしばらく続いており、コロナの封じ込めが成功した国とされていました。
それでも、2020年3月下旬に非常事態宣言が出された後、夜間外出禁止令やアルコール販売禁止令が矢継ぎ早に発出されたこともあり、イベントは中止・延期となり、街中のバーは閉めざるを得なくなり、そのため、インディーズが音楽できる場所は軒並み閉鎖されていました(タイはいわゆるライブハウスというものがなく、バーなどの一角に演奏スペースがあり、そこで演奏します。オーナーがインディーズ音楽に理解がある店だと、インディーズバンドが自分の曲を演奏したり、イベントを打ったりできる、といった感じです。詳しくは以下の記事にて)。
厳しい封じ込め施策の甲斐あってか、2020年5月下旬くらいから国内の新規感染者は0になり、規制も徐々に緩和され、7月初旬からは音楽イベントを徐々に打てるようになっていました。タイのフェスシーズンにあたる寒季の11月から2月、その中でも大型フェスが目白押しなのは11月・12月なのですが、海外アクトをメインとしているフェス以外は開催されました。
と、音楽イベントがだいぶ息を吹き返しつつあったものの、去年の12月中旬くらいから国内新規感染者が再びどどっと出てきまして、ニューイヤーイベントは軒並み中止・延期、もしくは、オンライン開催となり、またもやタイ音楽業界に逆風が吹き荒れました。今もまだコロナ新規感染者が収まるまでには至っておらず、中止・延期になるイベントも散見されます。
※2021/2/23に規制が緩和されまして、規制されていた店内飲酒が可となり、インディーズがライブできるバーの営業も再開されました。これに伴い、早速、音楽イベントもボコボコと企画され始めています。
※コロナ禍でのタイはどんなだったのか、ということと共に、タイの音楽業界はどうだったのか、というのを以下の記事でまとめています。
そんな中ではあるものの、2020年にもそれなりの本数のライブ・フェスに参加しまして、多くの良い演奏に立ち会うことができました。その中でも強く印象に残ったライブを記しておきたいと思います。
2020/2/16: Alec Orachi in "Sorry Mommy Daddy I'm Less Sometimes" @ NOMA
若手ミュージシャンが夜な夜な集まり、新たな文化が生まれる予感ビンビンの雰囲気があった店「NOMA」。とてもとても残念ながら、コロナ禍の波に飲まれ閉店してしまい、現在はポップアップで営業しています。
そんな抜群の店で開かれたイベントのオープニングアクトだった「Alec Orachi」。初めて聞いた名前だったので事前に音源聴いたら、まぁ素晴らしい。コード進行渋めのR&Bに絶妙な掠れ渋甘い声が絡まって、これはライブ見るの期待大だな、と臨んだライブ。
期待通り曲の完成度高いし、かつ、演奏もしっかりしてたので、あとは経験積んで色彩豊かでフローのあるライブになっていけば人気出そう。ってか、すでに耳の早い層からは注目されており、今年活躍するんじゃないか候補筆頭。
2020/2/16: DOGWHINE in "Sorry Mommy Daddy I'm Less Sometimes" @ NOMA
以前、こちらの記事でも紹介していた「DOGWHINE」。
2019年にしっかりと場数踏んで、一皮も二皮も向けてました2020年。こちらも「NOMA」でのイベントより。
「あ、このバンドは今年来るな」と感じさせるライブで、実際、タイのフェスシーズンでは引っ張りだこでした。ただ、去年12月中旬からタイではコロナが再拡大し、そのため、年末のライブ・ツアーは中止となっちゃいました。中止になったツアーではバンコク以外の土地でのライブも含まれていたので、残念ではありますが、コロナが落ち着いた暁には、タイ全土でその名を轟かせることでしょう。
2020/2/29: Zweed n' Roll in "The First Full Concert" @ Moonstar Studio
タイのスローコア代表「Zweed n' Roll」、初のソロコンサート。タイがコロナ禍に見舞われる前としては最後の大型イベントとなったこのコンサート、大きな会場に満員御礼の大盛況でした。
本編が始まるまでは会場を青暗いライティングとクジラの鳴き声で包み、まるで深海にいるような幻想的な雰囲気。沸々と期待が高まります。
繊細にアレンジが施された楽曲、ストリングス隊を携えた豪華な演奏、ポエトリーリーディングやアコースティックセットも散りばめた秀逸なセットリスト。レーベルに所属してないバンドなんだけど、ここまでのプロダクションを美しくまとめあげ実現し、かつ、多くのオーディエンスを集め熱狂させる。夢のあるバンドだし、夢のようなコンサートでした。
2020/10/25: Scoutland in "Standards Mango" @ A Clay Gallery
タイの若手手練れジャズミュージシャンによるトリオバンド「Scoutland」。サトーンエリアにあるカフェの3階、小さなスペースに椅子が10脚だけ置かれ、ジャズコンサートが開かれました。
一音一音一切聴き逃せないので集中して聴かなくてはならないスリリングなライブ、幸せです。
2020/11/7: BrandNew Sunset in "THE MACHINER" @ LIDO Connect
俺たちのハードコア兄貴「BrandNew Sunset」のニューアルバムリリースパーティー。年輪を増すほどに研がれに研がれて鋭くなってます。
一時間を超える長尺ライブだったけど、なんだか一瞬でした。年々縮小するタイのハードコアシーンだけど、こういう本物の先輩がいれば、なにかきっかけさえあれば、またシーンが盛り上がることもあるんじゃないかな。
ちなみに、ニューアルバムの「THE MACHINER」、アジアのハードコアを紹介するサイト「Unite Asia」にて第一位を獲得しています。
2020/11/21: Summer Dress in "Cat Expo 7" @ Wonder World
鬼才たちによる奇天烈ポストロック「Summer Dress」の「Cat Expo」でのライブです。タイの大型野外フェスである「Cat Expo」は、廃遊園地を会場に、土日の2日間、5ステージ100バンド以上がライブを繰り広げ、3万人以上のオーディエンスを集めるフェス。
ここでも彼らの溢れ出す鬼才っぷりは圧巻で、早い時間帯の出番、かつ、ステージが目立つ場所にあるわけでもなかったのですが、この人の集まりようとこの盛り上がりよう。
去年リリースした3rdアルバムの出来がまた素晴らしくて、鬼才を詰め合わせたらこうなりました、みたいなアルバムになってます。MVも凝ってて、映像でも独特の世界観を味わえます。
2020/11/21: electric.neon.lamp in "Cat Expo 7" @ Wonder World
王道タイポップ「electric.neon.lamp」、こちらも「Cat Expo」でのライブ。メンバーは思い思いに青色の三本線をTシャツや身体に施しています。この青色の三本線、反政府を象徴する記号でして、タイでは自身の政治信条を表に出すミュージシャンが多いです。彼らはメジャーレーベルに所属しているので、政治信条の表明に対してそれなりの制約があるんだと思うけど、なので、それなりの危険もあるんだと思うけど、自分たちの主義主張をステージ上で堂々と表している姿に痺れました。
演奏はさすがの一言。セットリストは人気曲のオンパレードで、オーディエンスは終始一緒になって歌ってました。
2020/11/22: temp. in "Cat Expo 7" @ Wonder World
渋メロポップ「temp.」、こちらも「Cat Expo」でのライブより。今までもそうだったんだけど、ここにきてライブの多幸感が群を抜いてきてます。ライブが始まってから終わるまで、気付けばずっと微笑みながらステージ見てました。
年明けに発表されましたが、今まで所属していたレーベルを離れました。これから他のレーベルに所属するのか、DIYでやっていくのか、まだ発表はされていませんが、いずれにせよ、今後も応援していきたいバンドの一つです。
2020/11/26: January in "LIDO SHOWA" @ LIDO Connect
タイポストロックの正統派後継者「January」、バンコク中心部にあるサイアムという地区の、これまた中心に位置する「LIDO Connect」という商業施設が始めたイベント「LIDO SHOWA」でのライブです。商業施設が密集する地域であるものの、野外スペースに機材をゴロっと置き、ステージは設置せず、オーディエンスと同じ目線で思いっきり大音量でライブするという、なんとも心浮き立つ環境。大好物系です。
ギター二人とドラムという変わった構成のスリーピースで、練りに練られた美しいギターアンサンブルと手数の多いドラムリフが特徴です。
近日、ニューアルバムがリリースされるということで、それをきっかけにさらに飛躍するでしょうし、こちらも今年活躍するんじゃないか候補です。
2020/11/28: KUNST in "Bangkok Music City 2020" @ GLOWFISH SATHORN
俺たちの青春オルタナロックバンド「KUNST」、タイのショーケースフェスティバル「Bangkok Music City 2020」でのライブです。轟音で掻き鳴らされるギターとぐいぐい前のめりなビート。透明で柔らかくも芯のある歌声のボーカルが口ずさむ浮遊感あるメロディー。あの頃、夢中になって追いかけていたロックがここにありました。
何度かのメンバーチェンジを経て、メンバーも安定し楽曲の方向性も定まり、ここ最近で急成長しています。アルバムリリースに向けてレコーディングも着々とおこなっているようで、アルバムの出来によっては、このバンドもグイっと段階あがるんじゃないでしょうか。
なお、タイ初のショーケースフェスティバルである「Bangkok Music City」は去年が2年目。タイ地場音楽サブスク・音楽系メディアを運営する「Fungjai」とWebカルチャーメディア「NYLON Thailand」が主催です。
初年度の2019年は、タイ国内のみならず海外からも音楽関係者・ミュージシャンを招待し、世界の音楽潮流に関するセミナーだったり、近年注目が集まるジャルンクルン地区でのサーキットフェスだったり、大規模に開催していました。2020年はコロナの影響で海外からの招待はできず、タイ国内の音楽関係者・ミュージシャンでの開催となりました。とはいえ、海外のミュージシャンから送られてきたプロモビデオを視聴するための部屋が設けられていたり、イベントとは別日程で海外の音楽関係者とZOOMミーティングができる機会があったり、と、さすがの気遣い。実際に機会に恵まれ、アメリカや中国などへの進出の可能性が生まれたバンドもいました。
今年は、できれば、また世界各国から音楽関係者・ミュージシャンが集まれて、皆でわいわいやれるといいなぁ。
2020/11/29: Supergoods in "Bangkok Music City 2020" @ GLOWFISH SATHORN
若手サイケソウルの急先鋒「Supergoods」、こちらも「Bangkok Music City 2020」でのライブです。中盤から後半にかけての会場の熱量が凄まじく、やべ〜勢いですげー盛り上がる状態でした。完全に来たな、このバンド。
自然と体が揺れてしまうグルービーなリズムに渋いギターフレーズが絡み、力強く艶やかなボーカルがど真ん中を貫くように歌い上げる。至高。バンコクの知る人ぞ知るミュージックバーにて夜な夜なライブをおこなっており、経験と実力をさらに積み重ねています。
2020/12/19: Lemon Soup in "GoodHood market and live concert!" @ Sermsuk Warehouse
清涼系インディーポップの生き字引「Lemon Soup」、年末の川沿いマーケットでのライブです。
タイのライブではよくあるのですが、有名曲だとオーディエンスも一緒になって本気で全力でフルコーラス歌ったりします。一昔前に有名になり今も続けているバンドの中には、そういうのにあぐらをかいているのか、客にマイク向けて歌わせてサボることが多く、また、声量が明らかに落ちていたりして、聴いていて痛々しいんだけど、Lemon Soupは違いました。新作も継続してリリースしているし、昔の貯金で惰性的に続けているようなバンドではなく、今のLemon Soupのライブが見れて嬉しかった。ライブは生き様。年の終わりにとても素敵なライブに会えました。
まとめ
2021年、まだコロナ禍。ワクチン、集団免疫、ウイルス弱体化など、希望的観測は色々と打ちあがってますが、実際にどうなっていくのか、まだ誰にも何とも言えません。でも、ここ近年でより親密に、深淵に、濃厚になった日本とタイの音楽交流、止めるわけにはいきません。やれることは減ってない。変わっただけ。こんなときなので、どうせポジティブに考て、今やれることをやっておこう。
2021年も素敵なライブに出会えますように。そして、願わくば、タイのバンドを日本で、日本のバンドをタイで見れますように。そして、さらに願わくば、タイ好きの皆さんがタイに遊びに来ることができ、このMap片手にタイ音楽の探索ができる年になりますように。
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