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もう一度、はねっつの、ないよ ないね、YEAH

《地下アイドルの記録⑩-卒業までのカウントダウン-》

仲直りしてからの私たちは出逢い直したように、もう一度ありったけのエネルギーを持ちよって、一緒に過ごすようになった。

冬がやってきて、日が落ちるのが早くなっていた。カンペキに真っ暗な夜こそ本領発揮という感じで、ライブが続く日々を、モコモコと上着を着こんではじけるみたく歩いた。
表参道というオトナで綺麗な街でライブがあった時には、待ち時間に"小腹がすいた"といって道路に続く金色のイルミネーションをすり抜け、コーチやボッテガ・ヴェネタのガラス張りの店を越えて路地に入り、ひゃっひゃと笑いながら買い出しに行った。クリスマスライブに向けて渋谷のドンキホーテでお揃いのコスプレを買い、代々木体育館の側であった野外ライブの帰り道にはレジの側で熱々にふかされた肉まんを買い食いした。
そうそう肉まん。とくにミフユが肉まんにすごいハマって冬中食べていて、いつのまにか私も大好きになっていたんだよね。帰り道、駅の改札を通りかけたところで「…肉まん食べたくない?」「思ってた‼︎」と二人してわざわざ引き返したこともあったな。思えばいつもお腹すいてた。

不思議なほどノリが合ったミフユとは、マネージャーが撮ってくれたライブ中の写真でザンネンな映りだったものをお互いに送りあって爆笑したり(しかも自分で自分のを送るのだ)、ライブの合間にテレ朝の写真スポットへ散歩しに行って、「ミュージックステーションのスタジオに居る風に映れる」ブースでタモリさんマネキンの隣に座って写真を撮ったり、おもしろいことがいっぱいあった。
目をぱっちり開けてけっして顔を崩さない、若い私たちの何気ない写真もムービーも、沢山たまった。
"帰りたくない"と思ってた。
学生の時には集団の中にいるのがたえられなくて早く帰りたがった私にとって、そう思えたことって、奇跡だったのだ。


そして私は、全力でライブに出た。
メンバーと話せなかった時にはやっぱりどこか元気がなかったところもあっただろうし、ちょっとでも頑張って、抜けた後にもグループの集客に繋げたかった。その頃には四人目の新メンバーも加入していたし、まだまだこれからグループは続いていくんだと思っていた。
はたから見てもその雰囲気が伝わったらしく、すでに和解してくれていた社長が「ほんとにやめるんだよね?」と笑ってくれたな。


きっと、ゴールが見えたから、もてる力をすべてささげられたのだと思う。そういうタイプなんだろうな。良いときもわるいときも"そんなこともあるよ"とほどよく見送りながら、長く長く息をし続けることができなかった。
思いっきり鳴いて、最期は弾丸のように一直線に飛んでころがる、蝉みたいだ。

そんな蝉に残された数日間みたく、青春の時間は、バチバチとまたたいた。
この後どんなふうな未来が待っているのか検討もつかないまま、ただ自分なりに一生懸命考えて、ちゃんと"大人"になるために出した答えのつもりだったけど、ほんとはまだまだまだまだ不安定なまま。
とうとう12月27日、卒業の日がやってきた。


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