オンラインシンポジウム「郊外住宅地再生フォーラム2020」開催記録5 〜こま武蔵台・実践
2020年6月6日、郊外未来デザインラボでは「郊外住宅地再生フォーラム2020」を開催しました。ここでは、その報告として、フォーラム前半の事例報告の内容を紹介します。後半のディスカッションについては、2021年7月に発行予定のプロジェクトレポートに掲載しています。全体概要についての記事はコチラ。
事例報告③こま武蔵台
<実践(株式会社東急不動産R&Dセンター 内田宏)>
取り組みのスタート
こま武蔵台の活性化の取り組みについては、2015年9月にこの社会連携研究部門の参加教員でいらっしゃる樋野先生へ郊外住宅地の再生の知見の獲得を目的に、こま武蔵台をフィールドとした共同研究の打診をさせていただき、お受けいただいたのがきっかけです。
こま武蔵台の概要
こま武蔵台の立地について簡単にご説明します。都心から北西に約50km、埼玉県の日高市南部に位置しています。最寄りの駅は西武池袋線の高麗駅。江戸時代に林業で栄えた飯能駅から秩父方面に向かって2駅のところにあります。 池袋までの時間は電車の乗車時間は1時間強、ドアツードアだと1時間半ぐらいかかるところにあります。この地に東急不動産が1977年から10年間に渡り、二千戸強の住宅を供給してまいりました。周辺には曼珠沙華で有名な巾着田や桜の名所の高麗神社などがあります。日高市では市のキャッチコピーとして遠足の聖地ということを謳われておりますが、団地周辺には自然歩道が整備され、世界的な女性アルピニストの田部井淳子さんなどよく訪れた日和田山をはじめ、比較的ハイキングに適した低山が数多くあり、自然に恵まれたエリアになっております。
団地の状況ですけども、高度経済成長期に開発された郊外の住宅地団地の直面する様々な課題が生じてきています。2017年時点の高齢化率は47%ですが、現在は50%を超えてきています。子世帯などの若年層が流出する一方で流入が少なかったこともあり、こま武蔵台の人口は2010年が約5800人ですが、現在では4800人と約千人近く減少している状況になります。結果、空き家率も一桁台後半で、地区内の店舗についても、空き区画が目立つようになっています。
住宅のリノベーション
こういった課題が顕在化する中で、これまで東京大学の樋野先生の研究室と共同研究してきた住宅地の再生に関する取り組みを紹介させていただきます。1つ目は、若年世帯を団地に呼び込む施策として、昨年の春、 団地内の空き家タウンハウスについて、樋野先生の研究室の学生さんが、子供とつながる、子供がつなげる家をコンセプトにプランニングしてもらい、弊社の方でリノベーションさせていただきました。子供に目が届くようにリビング全体を改修するとともにリビングから庭先のデッキへのアプローチもフラットに、外構についても庭先にはベンチとデッキを設けて、地域住民との会話を楽しむことができるような交流しやすい工夫をしていただきました。結果として、このプランコンセプトを気に入っていただき昨年の夏に若いご家族のかたにご入居いただきました。引き続きこういった空き家をリノベーションして若年世帯流入の受け皿にしていかなければならないと考えています。この様なハード面の整備に加えて、若年世帯が流入しやすいような街としてのイベントなどソフト面の環境も整えていく必要があると感じています。
マルシェ
その一つとして、こま武蔵台団地では、地元の商店街、福祉ネットさん、自治会、地域の活性化を目的としたNPO法人「げんきネット武蔵台」さんが中心となって、地場の野菜や手作り工芸品の出店、不定期の演奏会も行われる月2回のふれあいマルシェ、くるくる水曜市というものを地域の方が集まるイベントとして行っています。
そこに、東京大学の都市工卒の学生さんで地域活性化を支援するNPO法人urban desidn partners baloonという団体にサポートいただき、地域に住む子供が自ら企画運営する子供屋台を2017年から出店しています。例えば金魚すくいであったり、地元の農家さんに協力いただきながらブルーベリーやおまんじゅう、かき氷等の販売をしたりと、シニア世代から地域のことを学んで子供達が街を面白くしていく。子供の居場所作りと多世代の交流を目的として実施してきています。若い世帯の方々については、地域に馴染むきっかけとしてお子さんを通じてということがあると思いますし、そうしたことが子育て世帯の暮らしやすさにつながるものと考えています。
残念なことに、コロナの影響でこのイベントは3月から中止になっていますが、この6月にまずは、ふれあいマルシェを再開し、子供屋台については学校が再開したばかりということもあり、7月からの再開を予定しています。最近、若い方が中古物件を見にきているような話もちらほら聞いております。地域とつながりを持てるようなコミュニティ形成の場は定住に欠かせないのかなと思っております。
コワーキングプレイスの開設
続いて、今後、コワーキングプレイスの開設を計画しています。昨今のリモートワークやテレワークといった働き方が浸透しつつある中、更にこのたびの新型コロナウィルスの影響もあり、テレワークといった働き方を許容せざるを得ないような社会環境になってきていると思います。計画段階では、コロナの影響は顕在化していませんでしたが、結果としてそうした背景も加わり、郊外住宅地における働く環境の創出として、コワーキングプレイスの可能性について実証をスタートさせます。仕事というカテゴリー以外にも、例えば学習の場など郊外住宅地ならではの多様性のある場所にしたいと思っておりますし、若年世帯の流入につながるコンテンツの一つになればと思っています。
ちなみに、着手するに先立って昨年末にコワーキングプレイスに関するアンケートを実施しました。隣接団地も含めて600件ほどの回答がありましたが、その中でテレワーク制度を利用している人、今後利用したい人という方からの回答が90件ほどありました。一方で、場所があっても利用しないという人も同数くらいいたんですけれども、現時点で言うと、コロナの影響もあって、この様な施設を利用せざるを得ない人がこの中からも出て来るんではないかと期待しています。
なお、コワーキングプレイスの運営は、NPO法人「げんきネット武蔵台」の方々に携わっていただく予定です。地元の意見やニーズを反映し、試行錯誤しながら運営、運用をやっていこうと考えています。
モビリティの実証実験
最後に、団地の交通や移動の問題について触れたいと思います。こま武蔵台は高麗駅から北に向かって広がる団地で、駅から団地の端までは1km半くらい。高低差約60mほどの勾配になっています。団地内を通るバスも、本数が限られていることから、高齢化に伴う免許返納問題も相俟って、新たな移動手段が求められる地域になっています。今後、国土交通省 国土技術政策総合研究所が中心となり、地域の方々と協業で既存のバス交通を補完する移動手段としてグリーンスローモビリティの導入実証実験を行なっていく予定です。現在ルート選定等行なっていますが、来年、実証実験を行っていく計画で検討を進められています。
我々としては、まちづくりの主役は住民の皆さんと考えています。皆さんが、住みたい、住みやすい街を時代の変化に応じてリデザインしていくことが基本にあり、その上で、産官学が如何にバックアップしてことができるかという立ち位置であると考えています。弊社としても住民の方々と連携しながら地域の課題を解決していくためのお手伝いを引き続き行っていく考えです。