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ナッジ効果1(つっつきテクニックのあれこれ):行動経済学とデザイン41

今回からは、行動経済学を実際に活用する『ナッジ』を、4回にわたって書いてみます。最初はナッジのあれこれを書きまとめるので、いつもと違って考察はあまりないですが、お付き合いください。

ナッジは2017年にノーベル賞を受賞したリチャード・セイラー教授が提唱した考えで、『Nudge=小突く』の意味です。ちょっとした後押しを促して、人の行動を変えることを意味しています。

ナッジといえばこの本、原題はNudgeです。

実践行動経済学

実践 行動経済学
リチャード・セイラー (著), キャス・サンスティーン (著), 遠藤 真美 (翻訳)
日経BP 2009.07

ナッジと倫理観

ナッジは、人々の行動をよりよいものに誘導することが目的です。私利私欲のために使うのは、ナッジではなくスラッジ(汚泥の意味)といわれます。なのでナッジを用いるうえでは「倫理感」が不可欠です。

この倫理観について、著者たちは次のように提唱しています。

リバタリアン・パターナリズム (自由主義で介入主義)

自由と介入、矛盾する2つの言葉ですが、あくまでも選択肢は自身にある中で、よりよい選択肢が行えるように促すことを意味しています。ちなみに、リバタリアンはリバティ=自由で、パターナリズムはパターン化ではなく、パトロンの語源パテル=父の意味です。

ナッジ04

では、ナッジのパターンについて、こちらの本で掘り下げてみます。

データで見る行動経済学

データで見る行動経済学
キャス・サウンスティーン+ルチア・ライシュ(著)
大竹文雄(監修・解説) 進藤真美(訳)
日経BP 2020.04

ナッジのタイプあれこれ

1冊目にあげた本の共著者であるキャス・サンスティーンは教授は政策側が専門の人なので、国民全体に対しての施策の内容が多めです。まず、ナッジは大きく2つに分けられます。

1. 情報提供型ナッジ:社会規範を用いるものが多い

・床に足型の絵を描く → 間隔を空けて並んでもらう
・言い方を変える → ポジ/ネガの印象が変わる(フレーミング効果)

2. デフォルト設定型ナッジ:多数に対していい方向に働きかける

・公的年金への自動加入が標準で選択 → 加入率が高まる
・目の前のメニューがサラダ → 健康的な食生活になる

また、人への介入の観点では次のような区分があります

・積極型:男性用トイレの的(思わずやりたくなる)
・消極型:鳥居(罪悪感を感じてしまう)
・ラベリング効果:トイレの「きれいに使ってありがとう」の張り紙

ラベリング効果はなかなか面白いテクニックですね。はじめにその人をラベル付け(決めつけ)することで、相手を枠にはめることができます。これも使い方次第によって善悪が分かれますが、特に公共性が求められるような場ではうまく活用できそうです。

ナッジ02

ナッジの文化差(日本は超消極的)

ナッジの受け入れは国よって変わります。例えばアメリカのような個人を尊重する社会では、環境や健康などのナッジに対しては大多数が賛成していますが、政治へのナッジ(政策に対してデフォルト設定を設けるなど)は反対が多い結果となっています。結婚するときの姓の申告がどちらかにデフォルト設定する施策も不人気です。

次にヨーロッパの各国で比較すると「目的に正当性があり多くの人の利益になり価値観があう」と考えられるナッジは、かなりの割合で支持されています。ただし許容度は国ごとによって異なります。イギリスやイタリアは許容度が高く、ハンガリーやデンマークは低い傾向が見られます。

各国を比較した調査で、どういうわけか突出して日本だけが、ナッジの政策に対して反対が異常に多いデータ結果が出ています。例えば喫煙や過食に対しての義務づけ型のキャンペーンに対する結果は次の通り。

・オーストラリア:70%
・ブラジル:84%
・カナダ:67%
・中国:92%
・日本:58%
・ロシア:82%
・南アフリカ:82%
・韓国:83%

この理由については、政治への不信感、文化的背景と関係ありそうと考察していますが、具体的な理由は明らかになっていません。ただ、日本に住んでいる身としては、政治の不信もそうですが、強い干渉には抵抗を感じやすい文化なのでは、と思います。

このように地域や文化によって、ナッジの受け入れ方は異なります。紹介した本によると、大きく次のような傾向が見られるそうです。

・原則的ナッジ支持国:アメリカ、イギリス、イタリア
・圧倒的ナッジ支持国:中国、韓国(厳密な分類はわからない)
・慎重型ナッジ支持国:ハンガリー、日本

ナッジのフレームワーク

では、今度はナッジを使うためのメソッドや手順について。それぞれの機関が提唱しているものが、この本にまとめられていたので紹介します。

行動経済学の使い方

行動経済学の使い方
大竹文雄
岩波新書 2019.09

まずはNudgeを設計するための手順について。すごく雑にいうと、PDCAやデザイン思考の考え方に似ています。観察してテストしてみてちゃんと測定しようというながれ。

BASICの5ステップ(OECD 経済協力開発機構)

1. Behaviour:人々の行動を見る
2. Analysis:行動経済学的に分析する
3. Strategy:ナッジの戦略を考える
4. Intervention:ナッジによる介入をする
5. Change:変化を計測する

ナッジを考えるときのフレームワーク(大竹文雄氏による)

・必要な意思決定:各行動に関する判断の分かれ目
・ボトルネック:好ましくない選択をする要因
・ナッジのソリューション::ボトルネックを解消する行動経済学の活用

次にチェックリストです。単純な利害関係や交換条件ではなく、工夫しないと効果につながらない評価項目があって、なかなか面白いです。

NUDGESのチェックリスト(セイラーとサンスティーンの提唱)

・iNcentive:どんなインセンティブがあるか
Understand mapping:意思決定を図式化しボトルネックを見つける
Defaults:デフォルト設定を使えないか考える
Give Feedback:フィードバックできれば学習や習慣形成ができる
Expect error:エラーを予期する
Structure complex choices:複雑な選択を体系化する

EASTのチェックリスト(BIT イギリスの行動観察チーム)

Easy:簡単にできるか、手間がかからないか、情報は多すぎないか
Attractive:魅力的で人の注目を集めるか、面白いか
Social:社会規範、多数派の行動、互恵性を活用しているか
Timely:意思決定時のタイミングか、フィードバックは早いか

MINDSPACEのチェックリスト(BIT イギリスの行動観察チーム)

Messenger:情報を伝えているのは誰かに大きく影響する
Incentives:利得よりも損失回避に大きく反応する
Norms:他人が取る行動に影響を受ける
Defaults:初期設定に従いやすい
Salience:目新しいものや関係ありそうなものに注目が集まる
Priming:先行情報を手掛かりに次の行動を考える
Affect:恐怖や怒りなど感情に左右される
Commitments:公の場で宣言すれば整合的な行動を取る
Ego:自分自身の満足度が高まるよう行動する

僕的には、これらはナッジに限らず、アイデアを考えるときや、デザイン案を検討するときに十分活用できる方法論だと思いました。単純に効果効率だけの視点に陥らず、人の気持ちを動かせるかという点で魅力的です。

まとめと考察

さて、ナッジについては分かってきましたが、このnoteは『行動経済学とデザイン』がテーマなので、解決案をデザインにできることを目的としています。なので、次は実践について考えてみたいと思います。

アプローチは大きく3つあると考えます。これらについて、次回以降で詳しく書いてみたいと思います。

A. デフォルト設定(ほとんど意識しないで選ぶ)
B. 仕掛け(つい選んでしまいたくなる)
C. インセンティブ(明確な理由をもって選ぶ)

ナッジ03

では次回もお楽しみに。

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ジマタロ
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。