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自由について
自由とは何だろう。
目の前に白紙がある。紙の淵はなく、何処までも白い平面が広がっている。手にはペンを持っている。
自由に絵を描くことを求められた時にどうするか。
ガイドラインは何もない。絵を描かないという選択肢もある。さて、このような状況を如何に捉えるか。却って不自由に感じてしまう人もいるだろう。
自由の原義は「自らを以て由と為す」であり、自らの意思や考えを行動の理由とすることを意味する。
自由の概念を理解すべく、英語に訳してみる。日本語の「自由」に対応する英語の言葉にはFreedomとLibertyの2つがある。
Freedomは「持って生まれた先天的な自由」、Libertyは「勝ち取った後天的な自由」を意味する。
アメリカの自由の女神像をStatue of Libertyと言うが、Statue of Freedomと呼ばないのは、この2語の意味合いの違いから理解出来るだろう。
Libertyの前提には束縛や拘束があります。この「束縛」は「主権者が誰であるか」という問題と密接に関係があると考える。
アメリカは英国からの独立により自由を獲得した国である。アメリカ移民の多くがプロテスタントであった事からローマ・カトリック教会の束縛からの解放という側面も有った。
独立後のアメリカを見てみると面白いことが分かる。国歌「星条旗(The Star-Spangled Banner)」の歌詞はこのように結ばれる。
Oh (O)say does that star-spangled banner yet wave
O'er the land of the free and the home of the brave.
このland of the freeに込められたのはfreedom的な自由と理解できる。植民地から独立する過程で認識したlibertyが、建国を起点にfreedomに変わるという事だろうか。
自由の思想についても見ておこう。ジャン=ジャック・ルソーの「社会契約論」は、「社会契約」によって得られる「自由権」、「権力と自由のあるべき関係」を説明している。また万人の闘争状態を招く「権力」による統制が効かない「原始的な自然状態」と自由を区別している。自由が守られるには、権力機関の存在が必要というのは一見矛盾があるようで面白い。
自由というのは人工的な概念で、そもそも自然状態では自由ではないと理解すれば矛盾しない事が理解できる。
冒頭の白紙に絵を描くシチュエーションに戻りたい。自由に絵を描くには、自ら何らかの意思を持つ必要がある。この意思は何処から来るのか。自分の意思は誰かの意思の影響を大なり小なり受けている。実体として境界線が引けない以上、「自らの意思や考えを理由に行動する」のは難しい事である。
どうやら「自由」を認識したり、その有り難みを感じるには、「自由」ではないもの、つまり自由を侵害する強大な権力により支配された状態との相対的理解が必要という事のようだ。
描きたくないものを描くように強制されたり、描きたいものを描いてはいけないと制限されていない状態を認識する事で、ペンを紙の上に走らせる事ができる。
自由の質感を少し理解できたような気がした。