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根本から変化を起こす「システミックデザインアプローチ」_01

 人と自然を含めた関係性のデザイン

 問題を成している背景が非常に複雑であり、これまでの単純な因果関係にもとづいて解決を見出すことができないような社会課題、たとえば地球環境問題に代表されるような「厄介な問題 / Wicked problem」に対して、デザインはどのようにアプローチすべきだろうか。そこで重要視されるのが対象と関係している社会的、技術的、経済的な各要素間の関係性であり、関係全体をシステムとして捉えることだ。さらにいえば、これまで周辺的な要素に留められてきた、自然環境や生物、地域の歴史性などもデザイン行為に関わる重要な要素として捉えられるべきなのである。
 このような背景から、イギリスのデザインカウンシルは昨年、より包括的なアプローチを念頭においた「システミックデザインアプローチ / Systemic design approach (2021)」を発表した。「システミック/ Systemic」という語は、システム全体を俯瞰するような、包括的、全体的という意味を持つ(一方での要素還元的な「システマチック/ Systematic」とは異なることに注意したい)。デザインカウンシルは、これまでデザイン思考やデザイン方法に大きく寄与してきたフレームワークである、「ダブルダイヤモンド / Double Doamond(2004)」をアップデートし、デザイナーやノンデザイナーがより包括的に社会技術的問題へ取り組むことを支援しようとしている。
 では、そんな新たなデザイン環境のためのアプローチをどうまとめているだろうか。さっそく見ていきたい。

システミックデザインの指針となるの6つの原則

 システミックデザインアプローチは、複雑なテーマに取り組む際のデザインのアプローチの方法である。異なる専門分野の人々やコミュニティがともに環境や社会の課題に取り組んでいる現況を調査し、今後、どのような働き方・仕事の進め方をしていけばよいかをデザインカウンシルがまとめたのが「システミッックデザインフレームワーク」だ。そのフレームワークの前提となっているのが次の6つの原則である。

●システミックデザインの6つの原則
① People and Planet Centered(人と地球を中心に):すべての生物が共有する利益に焦点を当てる。
Zooming in and out (ズームイン/ズームアウト):ミクロからマクロへ 根本原因から希望に満ちたビジョンへ、現在から未来へ、個人から広いシステムへ。
③ Testing and Growing Ideas(アイデアを試みて成長させる):さまざまなアイデアを実践してみてどう機能するかを確認し、さらにより多くのアイデアの醸成を助ける。
④ Inclusive and Welcoming Difference(違いを包摂し受け入れる):健全で共有された空間や言葉をつくり、多様性や疎外されていた視点を取り入れる。  
⑤ Collaborating and Connecting(コラボレーションとコネクティング):プロジェクトを変革のための幅広い活動のひとつの要素としてとらえる。     
⑥ Circular and Regenerative(循環と再生):既存の資産(物理的あるいは社会的)をどのように再利用できるか、育てられるか、成長させられるかに焦点を当てる。

この6つの原則は、人々が新しいデザイン手法やツールを開発したり、実践に取り入れたりする時に利用することができる指針となる。プロジェクトに関わる人々があらかじめ指針を共有しておけば、デザインプロセスで生じるさまざまな決断が円滑になるだろう。

システミックデザインに必要な4つの役割

システミックデザインの優れた実践例では、ポジティブな変化を促すために、異なる特徴や役割を持つ人々が共にプロジェクトに取り組んでいる。このような変化を生み出す人々(チェンジメーカー)に必要とされる役割は、大きく4つに分類される。

①System Thinker(システム思考家):プロジェクトに関わる複数の要素がどのように相互に関係しているのか、それらの要素で構成されるシステムが時間とともにどのように変化するのか、ミクロとマクロや縦割りの視点を超えて、全体的な視点で捉える人。

②Leader, Storyteller(リーダー、ストーリーテラー):希望に満ちた未来を描き、その可能性や重要性について素晴らしいストーリーを人々に語る人。複数の異なる価値観を持つステークホルダーと交渉をし賛同を得て、仕事をやり遂げる粘り強さを持つ。

③Designer and Maker(デザイナー、製作者):デザインとイノベーションのツールの力を理解している人。人々の動機や行動を理解し、人々の意識を高め、惹きつけ、行動を起こさせるように、物事を具体的に目に見えるようにする。技術的な機能について自然から学び、持続可能な生活を可能とする製品、場所、サービスをデザインする。

④Connector and Convener(人と人を繋ぐ人、召集する人):様々なバックグラウンドを持つ人々が共通の目的のもとに集まる場をつくり、点と点を繋ぎ合わせて、野心的なムーブメントや市場の需要を生み出す人。繋がりを作ることは、システミックなアプローチの核となる。

 これらの役割を誰がどのように担うかはプロジェクトによる。さまざまな役割を担える人材が必要な場合もあれば、ひとつの分野に特化した専門家が必要な場合もある。いずれにしても、プロジェクトを効果的に進めるためには、これらの役割がプロジェクト開始時から全て満たされている必要がある。

デザインプロセスを共有するための
「システミックデザインフレームワーク」

システミックデザインの実践には、デザイナー、企業、専門家、公共部門の人々、市民など多様なステークホルダーが関わる。携わる分野が異なれば、用いる言葉が異なることもしばしばだ。そこで、ステークホルダーがシステミックデザインの原則やプロセスについて共通の理解ができるように用意されたのが、「システミックデザインフレームワーク」である。

下記の図が「システミックデザインフレームワーク」である。これは、先駆的な取り組みや、製品サービスに関わるデザイナーや専門家へのインタビューを通して、ダブルダイヤモンドに基づいたイノベーションモデルのフレームワークを進化させたものだ。

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円の中央には、進化したダブルダイヤモンドが配置されており、それを取り囲むように、左右前後には4つの段階(ステージ)が記されている。左端には、ダブルダイヤモンドのプロセス以前に実施されなければならない「オリエンテーションとビジョン作り」が示されている。そして、中央の上下には、ダブルダイヤモンドの実施中に重要な「リーダーシップとストーリーテリング」と「関係構築」が配置されている。そして、右端には、プロジェクトが終了したあとも「旅が続く」ことが記されており、システミックデザインの動的な姿勢が示されている。(これら4つの段階やダブルダイヤモンドの詳細は、機会を改めて紹介する。)

デザインプロセス全体に通底する4つの実践思考

さらに、このシステミックデザインフレームワークの図には、同フレームワークを使う際にもっとも重要な4つのポイントも隠されている。下の図を見てほしい。左から「発散的思考と収束的思考」「ズームイン/アウト」「壊してつくりなおす」「『目に見えない』活動をリソースにする」だ。これらデザインの各フェーズで使用すべき、実践思考である。

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DIVERGENT AND CONVERGENT THINKING
発散的思考と収束的思考

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円の中央に示されているダブルダイヤモンドデザインプロセスは、システミックデザインフレームワークの重要な要素である。同プロセスは、発散と収束を繰り返す伝統的なデザインプロセスに基づいている。解決策を模索する前に、自分が取り組んでいるものごとの背景を明確に理解するための探究プロセスに時間を費やすことが特徴だ。このプロセスを経ることで、仕事に挑戦するための余裕と自信を得ることができる。

ZOOMING IN AND OUT
ズームイン/アウト

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ズームイン、ズームアウトは、発散思考、収束思考と並んで、核となる手法である。自分のプロジェクトからそのプロジェクトが置かれているより広い文脈まで、現在から未来まで、自分の個人的な役割からより広いシステムまで、ミクロとマクロの両方に焦点を当てて切り替えることができ、自分の仕事が引き起こすプラスとマイナスの両方の広い結果を見ることができる力のことである。それは、自分の仕事を、より再生可能な未来に向けた多くの異なる活動(デザインから政策、文化の変化まで)のひとつの要素としてとらえることにつながる。

DISRUPTING AND REMAKING
壊してつくりなおす

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問題の根本原因を探ることは、デザインプロセスの重要な部分だ。それは、ガバナンスや規制、固定観念や信念など、「見えない」構造の中にあるものかもしれない。この洞察に基づいて、問題を生み出しているものを破壊し、必要な変化をもたらすような製品、サービス、場所、などを検討するのだ。

RESOURCING ‘INVISIBLE’ ACTIVITY
「目に見えない」活動をリソースにする

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プロジェクトにまつわる人脈や関係性、リーダーシップやストーリーテリングは、デザインプロジェクトそのものと同じくらい重要だ。さらに変化を促すためには、同じような取り組みとつながる必要がある。

これらの4つの思考を含んだシステミックデザインフレームワークの詳細については、次の記事で紹介したいと思う。



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