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DESIGN-DESIGN MUSEUM BOX TALKⅡ

開催日:2021年5月1日(土)

「デザインの宝探し」をコンセプトとした「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン(@東京Ginza Sony Park)」は、緊急事態宣言に伴い、4月25日(日)より中止となりました。
そこで、会場にお越しいただけなかったみなさまにも本展をお楽しみいただけるよう、会場ツアーの配信ならびに、柴田文江さん、横山いくこさんをゲストに「日本にデザインミュージムをどうつくるか」をテーマにオンラインのトークイベントを開催しました。

youtube配信アーカイブ⬇︎

出演:

柴田文江(プロダクトデザイナー)
横山いくこ(キュレーター)
倉森京子(一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM代表理事)

モデレーター:河瀬大作(一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM理事)
主催:一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM

協力:NHK


番組概要は、こちらの記事をご覧ください⬇︎
デザインの宝探し
https://www.nhk.jp/p/ts/3477L14VG1/blog/bl/pz2m7bZj0X/

日本になぜデザインミュージアム が必要か

河瀬 まずはお二人のそれぞれの自己紹介をいただけますでしょうか。

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横山 
2011年から香港でM+という視覚芸術の美術館を作るという壮大なプロジェクトを行なっています。私はその中でデザインと建築部門の主任をしています。ビジュアルアート・デザインと建築・映像、の3つの部門があり、それらが同時に人間の歴史の中で交差し、人々の暮らしをどう取り巻いてきたのか、を考えながら作っている最中です。
日本だけでなく、そもそもアジアにもデザインのミュージアムがほとんどないんですね。ですからM+では、香港のデザイン・日本のデザイン・タイのデザイン・・・・と個別に考えるのではなく、アジア全体でデザインがどう影響しあってきたか、また世界との交流のなかでどのように影響を受け、形作られてきたのか、それをアジア全体でつなげて考えてみようという試みを行っています。

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河瀬
こうやってみると、デザインってすごく範囲が広いですよね。
それをミュージアムにしていくのは簡単なことではないかもしれませんね。
以前番組「デザインミュージアムをデザインする」に出演いただいた時に『美術館とは道具箱である』とおっしゃっていましたが、これはどういうことでしょうか。

横山
ミュージアムは、見てくれる人、使ってくれる人のために、収蔵をしています。ただ保管するだけでは美術館の機能を果たせません。とはいえ、規模が大きくなるほど収蔵品のコンディションやセキュリティなどの都合もあり、守りに入りがちです。実際普通の美術館は、収蔵されているものの5%くらいしか展示室に出ていないです。そこにある膨大な知識や情報やモノを、どうすればもっとみんなでシェアできるのか。デザインはその当時のイノベーションであり最前線とも言えるものです、そのミュージアムを作ろうとした時に守りに入ってはいけない。過去に作られた収蔵品をノスタルジーにするのではなく、現代に生きる私たちがインスピレーションを受けて使う=新しい知識にすることが大事だと思います。

河瀬
続いて柴田さんをご紹介させてください。ありとあらゆる生活のモノのデザインをされていらっしゃって、僕も柴田さんワールドの中で暮らしています。1年前僕の家が火事で燃えてしまって、その火事が起きて3日目だったか当時避難生活していた場所に、友人が、柴田さんがデザインされたKINTO(キントー)というティーポットとフレーバーティーを持ってきてくれました。家を失って避難生活をしているときに、その美しいカタチをしたティーポッドでお茶を飲むことで心が救われたんですよね。そんな素晴らしいものを作られている柴田さんです。

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柴田
ありがとうございます。身近なカラダにつけるようなものからカプセルホテルまでデザインしてますが、カラダに関わるデザインが多いです。「デザインミュージアムをデザインする」という番組でもカラダについて喋ったのですが、自分だったらどうするか考えたときに、人間のカラダはずっと昔から変わらなくて、答えはいつもカラダにあると思ってデザインしています。

河瀬
柴田さんがグッドデザイン賞の審査委員長をされていた時、僕自身も審査委員として参加させていただいたのですが、どんなコンセプトで賞を選ぶのかという、その年の審査のキーワードとして、 “美しさ”を掲げられたことがすごく印象的でした。

柴田
ここ数年デザインの領域がとても広がっていて、生活に関わるものなんでもデザインと言える状況になってきました。グッドデザイン賞の委員長として、いっぱいあるデザインの中で美しさも抽出しないと、”GOOD”じゃないんじゃないの?って。いまさらですけれど。

河瀬
あの年はじめて、授賞式にドレスコードもありましたよね。

柴田
ちょっとしたことを変えるだけで、気持ちって変わるんですよね。
縄文土器もどうせ作るなら模様が欲しい、とか考えたのでしょうか。
ものにたいする関わり方がそれ一つで変わっていくと思うんですよ。
工夫の積み重ねがデザインで、”人間らしくあるための知恵”なんですよね。デザインに求められることって便利とか安くできるとか色々あるけれど、
それだけなく人間味ある暮らしを実現するためにあるのではないかなと。

河瀬
さて、そして今日はデザインミュージアム ボックス展ということで、
代表理事の倉森さん、今回の趣旨を改めて説明お願いします。

倉森
私たちは日本にデザインミュージアム がない現状の中で、日本にデザインミュージアムができたらといいな(できれば国立で!)と活動をしています。日本にある大小たくさんのミュージアムには「デザインの宝物」があって、それらをネットワークしてデザインミュージアムを作るのはどうだろうか、というのが、今回の展覧会での提案です。
パリにいらっしゃる建築家の田根剛さんが、(コロナ以前の話ですが)デザインを生業としている海外の方々に「日本に行ってみたいけどどこに行ったらいいかな?」と聞かれた時に、21_21 DESIGN SIGHT以外何も勧められない、と言われたことがあります。そんなときに「ここに行けばいいですよ」と示せるデザインのミシュランみたいなガイドがあれば、いいなと話し合いました。そんなこともヒントになって、まずは今回、全国5箇所をつないで「DESIGN MUSEUM BOX 展〜集めてつなごう日本のデザイン〜」の開催に至りました。

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河瀬
そしてこの背景にある日本地図、会場を訪れてくださった皆さんが素敵だと思ったものを地図と紐付けて、貼ってくださっています。色々ありますね。
北海道だと、大漁旗、モエレ沼公園、アイヌのテキスタイル、木彫りのクマまで。

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倉森
そうですね、いっぱいデザインの宝物が眠っていますね。今回の展示で、例えばコマのことをデザインだと思う人は少ないかもしれないけれど、辻川幸一郎さんは“おもちゃが人間が最初に出会うデザインだ”と言ってコマを選び、その背景の様々な物語をひもといてくださった。そうしたちょっとした物語があると、見るときの気持ちが変わりますよね。そういうデザインミュージアム を作ってみたいなという第一歩が、今回の展示です。

河瀬
まさに「デザインミュージアムをデザインする」という番組で、横山さんがおっしゃっていたネットワークをベースにした分散型のデザインミュージアムの構想が、実現しはじめている感じですね。

横山
地方分散型が面白いと思ったのにはいくつか理由があって、デザインはユニバーサルもありますが、その土地の暮らしや気候なども密接に影響しているので、その差があるところに面白さを見つけられるのではないかと。
日本はデザイン大国で、企業の資料室や個人のコレクターなどいろんなところにものを探しに行くのですが、素晴らしいものがたくさんあって、つまみ食いして持ってくるだけでは勿体ないんです。だからそれが繋がったらいいと思っています。
先ほども話に出ましたが、美術館を作るにはパッションが必要です。
辻川さんがリサーチをした日本玩具博物館に行ったことがあるのですが、館長さんの個人的なパッションで集めて守っていて、そういうエネルギーがミュージアムには必要なんだと思います。

河瀬
横山さんが以前、NHKのEテレの番組「デザインミュージアムをデザインする」のなかで、デザインミュージアムをツーリズムに結びつけていくという考え方を語りましたね。コロナで今すぐは難しいですが、海外に行けない今、国内でのツーリズムに、より注目が集まりそうですよね。

横山
日本の各地に、限りなくいろんな魅力的なものがありますよね。
みんな海外の人たちも、日本の地方に行きたがるんですよ。旅館、温泉、そういう体験も含めて総合エクスペリエンスデザインですよね。

倉森
例えば駅のホームの椅子や、新幹線の掃除システムなど、目的地に至る途中の見逃しそうなデザインにも注目していくツアーを提案してくださっていて、面白いなあと思いました。

柴田
わたしは山梨の富士吉田で育ったので、昔は素敵なものは東京にしかないと思っていたのですが、最近はみんな、うちの町にもいいものがいっぱいあるということを知っていて。昔に比べてその土地のデザインを大事にしている若い人が多くて、富士吉田は織物が盛んな場所なんですが、若い人が織物をアピールしようと頑張っているんですよね。そういうことが大きなアーカイブになって行くと 日本がすごく面白くなっていくと思うんですよ。
私たちはデザイナーだから地方に行って資料館に行くのが楽しみなんだけど、そういう場所の良さはなかなか気づかれないことも多くて。デザインとつなげることでそこに気づけないかなと。

倉森
デザインという補助線があることで、魅力に気づけるようになりますね!

柴田
改めて、みなさんが「これが素敵なデザインだ!」と意見を寄せてくれたこの背景の日本地図の言葉、一つ一つが面白いですよね。10年前にここに書かれたようなものをデザインと言えたか、というと難しかったと思うんです。「デザインは表層的なものではない」ということが浸透したと感じます。

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倉森
今から10年くらい前、三宅一生さんが「日本にデザインミュージアムが必要だ」とおっしゃった時、恥ずかしながら私、「デザインなんてそんな狭いことをなんでやるんですか?」と聞いてしまったんですよ。かつてはそんな風に思っていた。デザインはただ表層やかっこいいものじゃないとその後私が認識したように、世の中もそのことに気づいたのではないかと思います。

柴田
だからこそ、まさに今タイミングですね。

河瀬
世の中がうまくいかない時代に、デザインの力にみんなが期待していると思うんですよね。社会を良くする仕組みやモノってデザインじゃないですか。

横山
日本はここ10年、すごく変化していると感じますね。
みんなが無意識に暮らしや活動にデザインを取り入れはじめていますよね。

河瀬
なるほど。そんな時に日本にどんなデザインミュージアム を作るべきか考えて行きたいのですが、ちなみに世界ではどんなデザインミュージアム があるんでしょうか?

世界のデザインミュージアム

横山
その歴史は博覧会から始まって、もともと科学博物館と装飾博物館が一緒になっていたのですが、それが20世紀に各分野ごとに分離していきました。
辞書のようなものを作るというのがもともとの構想だったのですが、膨大になっていって、今は「膨大なものを集めるのがミュージアムなのか?」と問われている。そんな昨今の例をいくつか持ってきてみました。

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横山
オランダの産業遺産になっている建物にあるテキスタイルのミュージアム。古い布を見られるミュージアムと併設して、テキスタイルラボを設けていて、ヨーロッパ中のデザイナーがここでプロトタイプを作っている。そういう風に使えることが、重要なのではないか。専門性の高い美術館です。

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横山
ヴィトラは、家具の企業が設立して30年を迎えたミュージアム。展覧会を商業的にやっている美術館で、全ての展覧会を巡回させること前提で作り、それがビジネスとして成り立っている。年に一回、世界中のデザインミュージアム を集めて会合し、どの展覧会を回せるかピッチするカンファレンスをオーガナイズしたりもしています。ただ現在、コロナと環境の問題でシッピングの負荷をかけてやっていいのか?トラベリングのモデルが今後のポストコロナの時代に適応できるのか、岐路に立たされています。

倉森
展覧会の作品は所蔵しているものではなく、借りるものなのですね。

横山
この期間の美術館巡回させてください といってものを借りて回すなど。
もちろん素晴らしい収蔵品も持っているが(家具・椅子など)、広くあまねく収蔵するのではなく特化してコレクションしています。

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横山
これは南アフリカで、クラフトの美術館です。これはビールを入れて保存する素焼きの壺ですね。土地の暮らし方が見えて、小さいけれどそこに暮らす人たちが誇りを持って守っているところがいいなと。

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横山
イスタンブールにあるこの博物館では、小説の筋に沿って様々なモノが展示されていて、物語に入っていくような体験ができます。ひとつひとつのモノの機能の解説はないんですよ。日本の博物館も文学者とコラボレーションして、例えばその博物館にあるものをもとに小説を書いてもらうなどしたら面白いかもしれませんね。

柴田 
これはもう、ミュージアムをもう一回デザインする、ということですよね!
南アフリカの例のように、デザインを見に行くことで その町の暮らしがわかるのが面白いですよね。土地とデザインは切り離せないし、その土地を理解するための一番わかりやすく楽しい方法なんじゃないかな。海外旅行に行くときはできればデザイン的なミュージアムを探しますね。日本の地方にもいっぱいあるのに意外とまだまだ未開拓。
そういえば、以前長崎行った時に、凧のミュージアムに行ったんですよ。
たまたま詳しい人に勧められて。でも勧められないと知らないままだったし、ミシュランガイドみたいになっていたら、まだ知られざる宝物のあるミュージアムにいけるかもしれないですね。

河瀬
ずっと中央集権型で、最先端を作ることをやり続けてきて、そのやり方が行き詰まっているのが現代だと思います。政治や経済、環境などあらゆる面で、無理がきているのかもしれません。アイデアの種が、地方にも世界中に眠っているけど、それを忘れている時間が長かったかもしれない。そういう地方のデザインの中に、ブレイクスルーのアイデアの種があるのかなと。

倉森
田根剛さんは「いいデザインはアイデアがあるもの」だと言ってましたね。

柴田
今あるままでは気づきづらいから、地元の人に対しても、観光客に対しても、見方をデザインすることで、新たな発見が生まれますね。

横山
美術館の収集で色んなところを回ってわかることは、すでに色んな方々が守ってくれてるからこそ貴重なものが見つかるということ。パッション持って集めて守ってくれてる人がいることが、財産ですよね。そういった人やモノをつなぐミュージアムをデザインする、仕組みづくりが面白いですね。

日本にデザインミュージアムをどう作るか


河瀬 日本にはどうやって作っていくべきでしょうか?

倉森 
この展覧会場にある、皆さんがそれぞれの「デザインの宝物」を寄せてくださった日本地図、ここから次へ繋げていきたいと思います。

柴田 
やはり場所があるからアイデアが出てくることもありますよね、日本に何箇所かハブが必要ですね。

倉森 
中村勇吾さんのアイデアで、日本中のミュージアムを、XL(国) L(都市・地域) M (企業)S(個人)として繋いでいくというネットワーク構想がありましたね。

河瀬 
ネットワーク型というのがまさに今ですよね。
プロダクト・民藝・システム、色んなものを内包した新しいミュージアムのあり方を考えて行く必要がありますね。

横山
現在M+を作っていて、規模の大小関わらず、みんなの賛同を受けないと使えるものになっていかないと感じます。開いて、可視化して、繋げる必要がある。文化を守ること、それは経済活動とも結びついているので、ここでテコ入れをしないと残せずに消えていってしまうものもあるかもしれない。
だからこそ、みんなの理解を得ながらやって行くことが重要だと思います。

倉森
私たちは小さな社団法人なので、いろんなところを繋ぐこと、みんなの理解を促進するよう促し機運を高めること、それが役割だと思っていますが、できることからひとつひとつやっていきたいですね。今日のお話でそれが価値があることだと感じられました。

柴田
お金をかけずにそれぞれの県にリサーチャーを置いてみるとかはどうでしょう。興味がある人が情報をあげていくとか!私もふるさと山梨のリサーチャーに選ばれたら嬉しい気持ちになります。

河瀬
いいですね!やりましょう!
うまく点を結んで線にしていく活動を続けていけるといいですね。
最後に皆さん本日の感想をお願いします。

柴田
今日感動したのはこの日本地図!
みなさんがデザインについて理解されていて、とても嬉しかったですね。
お料理は飲食店ではプロがやるけど、お家でもみんなやるじゃないですか。
そういう感じがデザインにも出てきたと感じて、とても嬉しい発見でした。

横山
そうですね!あと最後に、この活動は急ぐ必要があることを共有しなければと思います。いまある貴重なものは、急いで動かないといつの間にかなくなってしまうかもしれない。当たり前にあると思っているものが、実はとても貴重なもので絶滅危惧種だったりするんですよね。みんなで守っていかなければと思います。

倉森
先週緊急事態宣言によって展覧会が中止になってしまいやるせ無い気持ちでしたが、みなさんが「デザインの宝物」を書いてくださったこの地図を、次につなげていきます!

河瀬
たくさんの人の知恵をいただいて、繋いで、発信していきたいですね!
本日はありがとうございました。

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