4人のデザイナーが語る、パンデミックがデザインに与えた影響とは
パンデミックの2年目に入ると、パンデミックが終わった後の生活はどうなるのだろうと考えたくなります。デザイン業界はどのような影響を受けていくのでしょうか。パンデミックがますます頻繁に起こるかもしれない世界で、デジタルデザインは変化していくでしょうか。
新型コロナウイルスによって、ほんの数年前には予測できなかったような影響を社会に与えています。新型コロナウイルスの影響はこの短期間で顕著にあらわれ、日々の家事のやり方から、仕事や社会生活、世界を移動する方法まで、私たちの生活のあらゆる側面に及んでいます。
多くの科学者は、今後このようなパンデミックが頻繁に起こると予測し、パンデミックの影響はより永続的なものになると考えています。彼らは、森林伐採と野生生物の生息地への人間の侵入によって、動物の病気が人間に蔓延していると考えています。University College LondonのKate Jones教授によると、「農地やプランテーションのような生物多様性の低い人間によって改変された生態系は、多くの感染症に対する人間のリスク増加と関連していることを示唆している」とのことです。また、2014年にマイクロソフトの創業者で慈善家のBill Gates氏がTEDトークを行い、現在のパンデミックを基本的に予言していたことを考えるとさらに不安になります。
我々の日々の生活が元通りに戻らないのであれば、ニューノーマルのためにデザインを始める時期であることは間違いないのではないでしょうか。私たちは、前回のDesign Mattersにも登壇し、Design Matters 21のテーマ選定にも協力してくれた4人のデザイナー、Andrew Schmidt氏(Slackのリードコンテンツデザイナー ※現在はFigmaのUXライター)、Timo Dries氏(受賞歴のあるメディア企業Fox & SheepのCEO)、Mitsuko Sato氏(SPACE10のビジュアルデザインリード)、Vitaly Friedman氏(Smashing Magazineの共同創設者、クリエイティブリード、UX/UIコンサルタント)とともに、パンデミックによる変化とパンデミック後の未来について考えました。
──パンデミックはデザインにどのような変化や影響を与えたと思いますか?
Andrew:パンデミック以前は、私たちはデジタル製品に対して「速さ」を重視していました。誰かとすぐに連絡が取れる、すぐにビデオ通話ができる、同僚にメールを送ればすぐに返事が返ってくる、といったことです。
しかし、1年も経つと「速さ」に圧倒されるようになります。いまでは、リアルなコミュニティのルールや境界線を再現するコミュニケーションツールが増えています。会話を途中で切り上げることができるボイスチャットアプリ、厳格な招待制のオンライン上のスペース、さらには街で見知らぬ人と出会う経験を再現するサービスなどです。「速さ」ではなく、距離、摩擦、パーソナルスペースを重視するようになりました。
Timo:コラボレーションツールやオンラインミーティングサービスが台頭してきた一方で、個人の体験にも興味深い展開がありました。たとえば、人々は自然とのつながりを取り戻そうと、公園や森の中を散歩するようになりました。人々がAIが生成した瞑想用の音楽を聴いたり、本の要約を聴けるアプリを使いながら散歩をして新鮮な空気を吸い、リスを見つけて喜ぶようになったというのは説得力があります。このほかにも、ハッピーで、陽気で、少し変わったデザインがたくさん見られました。私の予想では、このような憂うつな時代を経て、この傾向はしばらく続くのではないかと思います。
Mitsuko :突然、私たちとデジタルの世界との関係が決定的に変化していることが明らかになりました。「つながっている」ということの意味が変わり、世界中でさまざまな真のニーズが明らかになりました。デザインの世界は、真のニーズを捉えた批判的な目をを通して利益を生み出さなければならないのです。私たちが作っているデジタルツールやアプリ、プラットフォームが、人との関わりやコミュニティ、そして世界全体との関わりの中で些細な役割を果たしていることを再認識しました。私たちはいま、新たなニーズの目的や影響に真の意味で挑戦することができるのです。それだけでなく、グローバルな視点でのデザインもさらに重要になってきました。世界のある地域で起こったことが、他の地域にさまざまなレベルで影響を与えることは明らかです。だからといって、ローカルな活動や解決策から離れるべきではありませんが、他の視点や意味合いを考慮する価値は十分にあります。そして最後になりますが、今回のパンデミックでは、私たちはコラボレーションの力を見せつけられました。
Vitaly:パンデミックでは、さまざまな意味でデザインに焦点が当たるようになりました。多くの困難な問題や前例のない状況の中で、デザインは包括的な体験をまとめる役割として機能してきたように思います。また、多くの人が自宅で仕事をしており、最適な環境ではないことも多いため、より包括的でパフォーマンスの高い体験を求めています。個人的には、2020年は世界的なリセットの時期であり、大規模なデザインに長期にわたる重要な影響を与えると考えています。これは、地域社会にも当てはまります。つまり地域社会がどのように組織され、どのように交流し、人々がどこに住んでいるかということです。セキュリティ上の問題が指摘されていたにもかかわらず、初期の段階でアクセスのしやすさを重視していたZoomの驚異的な成長は興味深いものでした。また、セキュリティについて言えば、現在より多くの人々がプライバシーや個人のセキュリティに注意を払っていることに気づきました。
──パンデミック後に残る製品、サービス、デザインは何だと思いますか?
Andrew:以前の状態に戻ることはないでしょうが、今の状態に留まることもないでしょう。リモート専用の世界に固執しすぎて、衰退していく製品もあるでしょう。注目すべき製品は、オンラインとオフラインを融合させ、人々がそれらに接続しているかどうかに関わらず、快適に過ごせるような製品だと思います。これはなかなか難しいことです。どちらか一方を解決するほうが簡単です。しかし、これからの世界はリアルとリモートが入り混じった不便なものになっていくでしょう。
Timo:パンデミックをきっかけに、多くのデザイナーや企業がリモートワークの容易さに気づきました。これらの企業は、9時から17時までのオフィス環境には二度と戻らないでしょう。リモートワークをより双方的に、よりコラボレイティブに、そしてより快適にするサービスは既ににたくさんありますが、このシフトをさらに推し進めるためには、特にデータセキュリティなどに関して、より新しく新鮮なアイデアが必要でしょう。
Mitsuko:あらゆるタイプのオンラインコラボレーションツールやサービスが残ると思います。今回のパンデミックで、私たちは皆、仕事の仕方や日々の業務内容が異なるという認識が定着しました。そのため、どのような方法であれ、自分のベストを尽くすために役に立つツールは素晴らしいと思います。また、遠隔で心身の健康をサポートする分野では、アクセス可能で手ごろな価格の製品やサービスにとても興味があります。生産性を維持するだけでなく、なによりもまず「存在する」ことが大切なのです。最後に、私たちの毎日をより物理的に可能にしてくれたすべてのもの、それがオンラインでの注文であれ、宿泊施設の提供であれ、すべてです。現実には、私たちの多くは異なるニーズを持っています。世界がひっくり返ったいま、新しい視点を得て、規範やそれによって利益を得ているのは誰なのかを疑うことは素晴らしいことです。
Vitaly:「Miro」や「Mural」のような新しいコラボレーションスペースのソリューションは、間違いなく長い間残るでしょう。また、「Noizli」のような、より生産性の高い仕事をするためのアプリケーションも同様です。ジムやヨガのアプリのようなバーチャルエクササイズのアプリケーションも、おそらくすぐにはなくならないでしょう。リモートワークのための快適なツールもたくさんありますが、それ以上に、「ニューノーマル」は「オールドノーマル」とは大きく異なるものになると思います。私たちは今のような働き方を続けるだけです。しかし、クラブや劇場など、大勢の人が集まることを前提としたサービスはどうなるのでしょうか。2022年までにそれらが復活するとはまったく思えません。
──パンデミックの間に生まれたお気に入りの製品、サービス、アプリなどのデザインをいくつか挙げてください。
Andrew:昨年もっとも印象的だった製品は、conferencesです。この企業はサービスやカスタムWebサイト、しっかりとしたビデオプレーヤーをつなぎ合わせることで、99%「その場にいること」が重要な体験を、オンラインで可能なものにする方法を見つけました。conferencesほど早くピボットできたハイテク企業はありませんでした。皆さんには脱帽です。
他に良かったプロダクトは、「mmhmm」というアプリです。このようなアプリはたくさんありますが、このアプリはビデオチャットに付属するものとして機能するアプリで、ビデオファーストの世界で自分のことや仕事についてをプレゼンテーションするために作られています。とても素晴らしいアプリだと思います。また、昨年作られたものではありませんが、「Dialup」というアプリは、パンデミックの影響でまったく新しい価値を持ちました。Dialupは、見知らぬ人とお互いに興味のあるトピックについて話すことができるアプリで、パンデミックを通してこの機能が非常に重要なことだとわかりました。もちろん、「あつまれ どうぶつの森」も本当に素晴らしかったですよね。「あつまれ どうぶつの森」がなかったらどうなっていたでしょう?
Timo:私は、特定のお気に入りの製品はありません。今回のパンデミックで得られた良い点をすべて挙げてみると、もっとも関連性が高いのは、学校のデジタルトランスフォーメーションの大きな後押しをしたことです。今回のパンデミックで、多くのアンチテクノロジーの強硬派が目を覚ましたことを願っています。この問題は、学校で技術的なデバイスを使用するだけではなく、テクノロジーを使って新しい考え方、問題への取り組み方、協力の仕方を開発することにあります。今日(こんにち)の子どもたちが将来、アーティスト、デザイナー、ミュージシャン、政治家になるために必要な、学校では学ばなかったスキルをテクノロジーを通して開発することができるのです。
Mitsuko:個人的には、仕事以外でのスクリーンタイムをできるだけ減らしたいと考えていたので、オーディオ製品やサービスが日常生活の中で大きな役割を果たしています。オーディオブックや記事(AudibleやEconomist)、瞑想アプリ(Headspace)、音楽(Spotify)などを楽しんでいます。また、スマートスピーカー(Google Home)を使う機会も増えました。
Vitaly:私の場合は、ポッドキャストを使う機会が増えました。以前に比べて、より多くのポッドキャストを聴くようになりましたし、オンラインスクールやワークショップにもたくさん参加しています。素晴らしい経験ができています。
Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧
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Design Matters Tokyo 22が来年5月に開催
Design Matters Tokyoは世界のデザイントレンドが学べる、コペンハーゲン発のデザインカンファレンスです。次回は2022年5月14日-15日に開催予定です。GoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、今年はWhatever、みんなの銀行など国内のデザイナーも登壇予定です。イベントに関する情報はSNSを中心に発信していきますので是非フォローください(カンファレンス参加しない方も大歓迎です)。