見出し画像

現代におけるフェミニズムとデザイン

本記事は北欧のデザインメディア「DeMagSign」の公式翻訳記事です。
元記事はこちら:What It Means to Be a Feminist Designer Today

Sydney Banta氏は、サンディエゴを拠点に音楽やデザインの分野で活躍するアートディレクターです。また、彼女はGirlbossというミレニアル世代の女性をサポートし、勇気付け、彼女たちの成功を再定義するために作られたプラットフォームとコミュニティでは、シニアデザイナーをしていました。Sydneyは、その素晴らしい創造力とコミュニケーション能力、そして情熱と強い信念でをもって常に活躍しています。

彼女はDesign Matters 19に登壇し、今日(こんにち)の世界で自分らしくあることの力について考察しました。私たちは彼女と共に、デザインにおけるフェミニズムの未来や、デザイナーとして取り組むべき重要な問題について話し合いました。また、フェミニストのデザイナーであることの意味や、デザイン業界の女性が今日も直面している困難についても理解を深めました。

Sydney Banta氏

──あなたは最近、Girlbossを退社されました。Girlbossのシニアデザイナーとして働いたことで、どのようなことを学びましたか?

技術的に学ぶことの多さは、それほど変わりません。変わるのは世界の見え方です。Girlbossは、私の視点を広げ、自分のスタイルや主張を見つける手助けをしてくれました。今では、自分がエッジの効いた、よりパワフルなデザイナーであると感じています。私はここで、面白くて実験的な作品を作っていました。

Girlbossでの経験は、私をその境地に導いてくれました。そして、これまでに経験した仕事はすべて、何かしら自分の新しい一面に気づかせてくれました。たとえば自分にはリーダーシップを発揮する能力があったことや、物事に対してもっと臨機応変に対応できることに気づきました。「私はデザインもできるし、クリエイティブデザイナーにもなれるし、動画の編集もできる」と言ったり、「ソーシャルメディアの戦略が必要ですか?」と尋ねると、多くの場合とても驚かれます。このようなことができるのは、長年にわたってさまざまなクライアントと接してきたからです。Girlbossでの役割は、私にとってのいろいろな意味で最高のポジションでした。

──自分自身について学ぶことはできましたか?

私は長い間、デザイナーとしての自分が何者なのか、自分の主張が何なのか、よく分かりませんでした。アートディレクターやクリエイティブディレクターの下で長い間働いていると、自分の考えや信念を見失ってしまうことがよくあります。Girlbossのシニアデザイナーになったことで、自分が作りたい、信じたい作品とは何かを見つめ直すことができました。物事に対してより実験的になることを学びました。多くの人は未知を恐れますが、未知こそがすべてを刺激的で新しいものにしてくれます。ですから、私にとっての最大の挑戦は、未知のものを受け入れ、すべての答えを持っていなくても大丈夫だということを知ることでした。

Sydney Banta氏によるTUMIのデザイン

──Design Matters 19では、「自分らしさを保つ力」についてお話しいただきました。効果的にメッセージを伝えるには、どのような方法がありますか?

最近は謙虚さや謙遜が注目されているように感じますが、それが演出されることは稀です。インスタ映えするためだけのタイポグラフィや極端にキュレーションされた投稿などは時代遅れです。本当に効果的なメッセージを発信するには、人々に話しかけていることを意識しなければなりません。人に「向かって」話すのではなく、人と「双方向に」会話をするのです。それはつまりコミュニティのことを指します。

あなたが何かを売ろうとしているとき、人々は自分が利用されているかどうかを気にしたり、それが偽物でないかを見分けようとします。我々は本来、何が本物で何が偽物かを見分ける能力を持っているのです。私たちは直感や惹かれるものから、無理や偽りのない言葉やコミュニケーションスタイルを見出しているのです。

──あなたは、現代のフェミニストデザインで現在使用されている色や形、フォントは、明日には変化している可能性が高いということも話していました。今後、フェミニストデザインはどのように変化していくと思いますか?

もっとアンドロジナス(性の差異を超えて自由に考え行動しようという考え方)なものになっていくと思います。男性的、女性的という明確なラベルが貼られていない空間になっていくでしょう。私たちが女性的だと思っていた、柔らかくオーガニックな形やパステルカラーが、逆に男性的な抜け道になるような世界を見てみたいですね。それは、人生のソフトな部分とハードな部分の両方を包み込むようなものなのかもしれません。

私はコントラストで遊ぶのが好きで、普段は遠く離れている存在を結びつけることが好きです。今後は、女性的、男性的というくくりでのデザインがほとんど存在しない世界がトレンドになるのではないでしょうか。

デザインはすでに、性別によるレッテル貼りから離れつつあります。男性、女性、トランスジェンダー、ノンバイナリー、私たちは皆、柔らかいものと硬いもの、明るいものと暗いものという感情を持っています。私たちは二面性の中で生きています。ですから、デザインの領域にも、私たちが生きている二面性が反映されることを願っています。

GirlbossでのSydney Banta氏

──フェミニストのデザイナーたちは、主流のコミュニケーションスタイルとは異なる方法でコミュニケーションをとっていると思いますか?

現在主流とされているシステムは、古い考え方に根ざしていて、今の私たちにはそぐわないかもしれません。フェミニストのデザイナーや若い世代の考え方や世界観が、ビジュアル面でのものづくりに良い影響を与えていると思います。より実験的な仕事をしている強い女性やノンバイナリーのデザイナーがいますが、それらはいずれ主流のやり方となっていくでしょう。

最近のデザイナーは、個人的な倫理観を倍増させ、世界を見つめながらやり方を変え始めていると思います。たとえば、古典的な女性らしさを表現するために、異なる色の関係や大胆なフォントを使うなど、新しいことに挑戦していると思います。これは、力を取り戻すプロセスであり、それが今、視覚的な意味で起こっているのだと思います。

(出典:GirlbossのInstagram)

──女性デザイナーとして、どのような困難がありましたか?

女性デザイナーが最初から信頼されているとは思えません。同じ仕事をするにしても、男性と比べて女性の方が倍以上の苦労をしなければならないのです。

もし誰かが私に挑戦を突きつけてくれば、私は要求されたことに応え、さらにそれ以上のことをするでしょう。たとえば、以前勤めていた職場でのクリエイティブディレクターの一人が、私の静止画の撮り方に腹を立てたことがありました。翌日の正午までに400枚ほどの写真をPhotoshopで編集するように言われたのです。それを言われたのが前日の午後3時。私は徹夜して朝6時までに仕事を終わらせ、彼にすべての写真を送り、編集し、撮影しました。そして、彼の提示していた締め切り前に終了させました。

このような些細な状況では、ほとんどの場合、自分を過大評価しなければなりません。ある意味では、それは頭を混乱させることでもあります。「自分が何をしているのか分かっているのか」と自問してしまうからです。これが始まると、自問自答のサイクルに入ってしまいます。

また、クリエイティブディレクターが私の仕事を自分の手柄にしてしまうこともありました。これは今に始まったことではありませんが、のちのちあなたを苦しめることになります。私たちは皆、自分の名前や評判を上げようとしているクリエイティブな人間です。しかし、自分が一生懸命作ったものが他人に取られたり、バラバラにされたりして、最初に作ったものとは違う、奇妙なフランケンシュタインのようなものにされてしまうと、本当に魂がすり減ってしまいます。

リニー・パーキンスは、70年代の広告やアルバムカバーを再構築したミームのような一連のアートを通して、フェミニズムとブラックネスに取り組むインターセクショナル・フェミニストです。(出典:rinnyriot

──この業界に長く身を置くようになって、変わったと思いますか?

私はこの業界に入って10年が経ちましたが、まだほんの昨日はじめたばかりのような感覚にもなります。それは私がしてきた仕事の種類のせいなのか、それとも私自身の「メンタル遊び」のせいなのかはわかりませんが、私はより下位の役職にとどまっている気がします。もし、私が少し考え方を変えて、「私には言いたいことがある!自分のしていることはこういうことなんだ!」と思うようになれば、もしかしたら違っていたのかもしれません。

(出典:Fineacts

──現代のフェミニズムが取り組んでいないこと、もっと注意を払うべきことは何だと思いますか?

男性をどのように見ているか、ということを明らかにする必要があると思います。男性たちは、私たちのメッセージを増幅する手助けをしてくれます。そのためにも男性は必要な存在なのです。我々はさまざまなタイプの人が存在する世界に住んでいるので、このバランスをもう少しうまく扱うべきだと思います。ここ数年でフェミニズムは進歩しましたが、女性の競争心にはまだ対処できていません。それほど露骨ではないかもしれませんが、かなり難しくなっています。

環境問題や経済問題など、さまざまな問題が発生している今、私たちは孤立するのではなく、もっとお互いに助け合う必要があると思います。あるグループが知っていて、別のグループが知らないことがあるかもしれません。我々はより良い文化を持ちあい、分断されていない方法で協力し合うべきです。

教育は、現代のフェミニストが取り組むべきもうひとつのテーマです。私は以前、女子教育の非営利団体で働いていましたが、「私たちより若い女の子たちに、リーダーになるための教育をどのように行っているのか」「どのような情報を教えているのか」「もっと良い情報はないのか」など、自問自答してみると、やるべきことがたくさんあることに気づきました。教育はあなたの精神的な力になりますが、同時にあなたには肉体的な力もあります。この2つを使って何をするのか? それらをどのようにして世の中に出すのか? どのように表現するのか? どのように扱われるべきか? そして、私たちはそのための最善の策を尽くせているでしょうか?

最後に、私は現代のフェミニズムに軍隊を取り上げてほしいと思っています。というのも、軍隊における女性の経験について十分に聞いていないからです。アメリカでは、18歳から25歳までのほぼすべての男性が選択的に兵役登録をしなければならず、徴兵制の対象となる可能性があります。兵役登録は女性には必須ではありませんが、もし女性も兵営機登録の対象になったとしたら、国のために奉仕するのは男性的なものだという考えはなくなるでしょうか? 「軍隊」というと男性のイメージがありますが、軍隊にはとてもパワフルで尊敬される女性もいます。ジェンダーの枠組みの中で生活し、どちらかにならなければならないということは、その中間にあるものを受け入れる余地があまりないということであり、そこに多くの答えがあると考えます。

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧

・・・

Design Matters Tokyo 22が来年5月に開催

Design Matters Tokyoは世界のデザイントレンドが学べる、コペンハーゲン発のデザインカンファレンスです。次回は2022年5月14日-15日に開催予定です。GoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、今年はWhatever、みんなの銀行など国内のデザイナーも登壇予定です。イベントに関する情報はSNSを中心に発信していきますので是非フォローください(カンファレンス参加しない方も大歓迎です)。

👇Design Matters Tokyo 22の情報はこちらから
Twitter / Facebook / Newsletter


いいなと思ったら応援しよう!