通勤電車で5分でデザインが上達する方法(コンセプト探しゲーム)
「コンセプト探しゲーム」?何のことかわからないと思いますが、通勤電車の中でデザインスキルアップが出来てしまう画期的な勉強法です。具体例も交えてご説明します。簡単で効果はとっても大きいので是非試してみてください!
※この内容は詳しくは「センスがないと思っている人のための読むデザイン」に書いてます。ご興味ある方は是非読んでみて下さい。
あなたが学生か社会人かわかりませんが、多分、通勤・通学で電車は乗るでしょう。5分でも乗るならこの勉強法は余裕で出来ます。(もちろん、電車以外の場所でも広告ポスターが貼られているような場所を通るなら全然出来ます)PhotoshopもIllustlatorもいりません。必要なのはあなたの頭だけです。順を追ってご説明していきます。
1.車内の広告デザインから「素敵だな」と思うデザインを選ぶ
電車の中には様々な広告がありますよね。中吊り広告・ドア横車内広告・ドア上車両広告・窓上車両広告、それらの中から「素敵だな」と思える広告をひとつ選んで下さい。
あまり時間かけて探さないでいいです。どのデザインもプロが作ったものですから、そんなにクオリティ低いのはないはずですから。
そのデザインを見ながら「このデザインのコンセプトや狙いは何か?」「何故このデザインは素敵に見えるのか?」など、謎解きゲームのように推理を始めていってください。
2.そのデザインはどんな狙い(コンセプト)で作られているのか?を推理し、言葉にする
簡単に言えばそのデザインがそういうビジュアルになっている理由、つまりは「デザインの理由」を考えてみるんです。
何故そのフォントを選んだのか?何故その色なのか?何故その構図なのか?余白をとっている意味は?とか気になったこと全てに対し「こうだからではないか?」とあなたなりの推論を立ててみてください。
コツとしては「自分がそのデザイン作ったデザイナーだとして誰かに説明するノリ」でやってみるといいでしょう。言葉が出始め、頭が回り始めると思います。
言葉が出始めたら、プレゼン練習のように、頭の中で何度も「こういうことかな、こう説明した方がわかりやすいかしら、と聞く人の立場にもなって考えをまとめていきまましょう。あくまでも具体的に言葉にしていく方がいいですが「可愛いイメージが気に入った」という主観的な感想にせずに「何故そうしたか?」という説明になると、客観的な説明になります。
「10代のターゲット(主に女性)に響くように可愛い手書き文字を選んでいる」
こんな感じなら「なるほど」ってなりますよね。
そんな感じで、抽象的にもやっと考えるのではなくしっかりと言葉を選んで言語化しながら頭の中でまとめていって下さい。デザインと関係のない仕事をしている方にも納得してくれるくらい平易な言葉でまとめるよう心がけましょう。
3.考えた推理(解説)をデザイン日記に書く
基本はこうしてコンセプトを探すだけで良いんですが、選んだデザインが凄い気に入った時や、そのデザインを少しでも自分のデザインに活かしたい、と思った時は電車が終点に止まって皆が降りた時にスマホで写真に撮ります。
僕の場合は、アドバイスしている方に参考にもなるので写真にとってシークレットブログとしてまとめています。
また有名な商品の広告デザインであれば後からネットで探すことも可能です。※例えば下記に載せたのは、プレミアム・モルツの車内吊り広告ですが、まあプレモルなんて有名な商品なんで公式サイトに中吊り広告がばっちり載っていましたので、サイトを見ながら振り返って考えることも出来ます。
■プレミアム・モルツホームページより
https://www.suntory.co.jp/beer/thepremiummalts/
そして、デザイン日記に「電車の中で考えたこのデザインに対する推論」を書き留めておきます。
ここで僕が書いたこのデザインのコンセプト探しの答え(推論)を、例として載せます。
僕が実際に車内で見た中吊り広告は、はどちらかひとつだったんですがHPで見返して2バージョンあったので
「何故、2バージョンあるのかな?」という疑問から、2バージョンの違う点(フォント、二人の着ているもの・ポーズ)を手がかりに推理を展開しました)
以下、プレモル吊り広告からの「コンセプト探し」です。
上のデザインではメインの書体が「明朝体」ですが、下のデザインでは「手書き文字」を使っている。何故か?
(ここからは僕の推理)多分、上のデザインでは今までのプレモル広告と同じく「高級感」をメインにアピールし、下のデザインでは、この至福のビールを飲んで手に入れることが出来る「最高の時間(最高にリラックスしているおうち時間)」を表現するために「手書き文字」を選んでいるのでは?
親しみやすさを強調しているポイント。その証拠に上のデザインでは小栗旬も柴咲コウもフォーマルな、よそ行きの服を着ているけど、下のデザインだとスゥエットを着てリラックスしているポーズにも見える。
→結果下のデザインでは、「手書き文字+スエット+二人のくつろいだポーズ」でおうち時間でリラックスしよう、というコンセプトを全面に出しているビジュアルになっている
でここからは、もう1段突っ込んだ推理として、
もしかしたら、下の吊り広告デザインの隠れコンセプト「おうち時間を大切にしたい」というもので、こういう社会状況の中で、外に出れない中でのお酒の飲み方、を考えているのかもしれない、、、
等々、勝手に考えていきます。
でまあ、自分でも「本当かな?妄想じゃないの?」と疑問も湧いてくるわけで、プレモルの公式サイトの他のページ等を見て、プレミアム・モルツ全体の広告コンセプトを探ってみます。
※これくらいの大ヒット商品だと、商品の公式サイトが充実していて、それらのページを見ることでなんとなくの答え合わせが可能になってきます。
サイトの各ページを丁寧に見ていくと「みんなで作ろう最高の時間」ってキャンペーンページがあって「新しい日常の楽しみ方」とかやっているな、あながち間違った推理ではいかもしれない、と想像していきます。
上の画像にある「世の中変わってさ、気づけたこともあると思うんだ」という一節は、直接的にではないけど、こういう社会状況下での不自由な毎日で気がついた大切なこと、を表現した言葉のように見えます。
同じページをスクロールしていくと「おうち時間」を若い夫婦が、一生懸命に楽しんでいるように見えるシーンが続き、広告の全体的なテーマ、がなんとなく見えてきます。
多分、プレモルくらいのヒット商品の広告展開は、広告全体で伝えたいコンセプトをきちんと考えた上で、そこからのそれぞれの広告(吊り広告2バージョン)も作られているはずです。そういう意味では、プレモル全体の広告コンセプトも探っていく意味もありますし、商品全体のグランドコンセプトから、バナーデザイン等小さいデザインのコンセプトが外れることはあり得ません。
ざっくりと僕が考えた中吊り広告2バージョンに対しての推理は、
今まで築いてきた「プレモルのブランドイメージ」(高級感)は崩さない前提で(上:1枚めのデザイン)でもこの特殊な社会状況の中でで、プレモルを飲むことで「おうち時間を最高の時間」にしようというメッセージが(下:2枚めのデザイン)に込められているのではないか?
そう考えると、中吊り広告のデザインに2バージョンあることの意味もわかって来るような気がします。
ここまで、完全に僕の推論で、制作サイドの誰かに確認したわけではありませんし、細かい部分は違っているところもあるかもしれません。でも、デザインって高尚な芸術でもないですからコンセプトがそんなに難解であるはずもなく、大きく的はずれなことは言っていない自信はあります。
もし違う部分があるとしても、
目の前のデザインを見て「こういう風にコンセプトをたてて、デザインに落としていってるんだろう」ということを推理していくのは、もう頭の中でデザインシュミレーションを始めているようなものなんで、勉強にならないわけがないんですね。
もちろん、これは日頃から誰かのデザインを見てコンセプトを探してしまう癖をつけているからこそ、比較的すんなりと導き出せているわけで、それなりの練習は必要かもしれませんが、逆に言えば、練習すれば誰にでもできることでもあるんですね。
言葉にすることの大切さ
さて、では何故言語化するんでしょうか?
それは「感性」だけでデザインを考えないためです。デザインは感性だけで作るものではありません。全てではないですが、ある程度は「こういう狙いでこういうデザインになった」と理論として説明できるものです。
「デザインとは感性と理論の上にかかる橋である」
この言葉は美大予備校の時の、お世話になった講師が言った言葉です。その時、僕は18歳のガキで、正直きちんと理解はしていなかったと思いますが、最近、しみじみ「本当にそうだな」と思います。
電車の中で、街で、ネットの中で、何か素敵なデザインを見た時、そのデザインが素敵だ!と瞬間的に捉えるのは僕の「感性」だと思います。センスと言って良いかもしれません。でもそんな風に人の感性に訴えかけるものを作るために「理論」というものが必要です。
「こうだからこうなった」という誰にでも説明できるような理論です。その理論とはつまり、言葉だけで説明しても「ああなるほど」と一般の方が、きちんとわかるような普遍的なものでないとなりません。
逆に言えば「言葉で説明できるか?」で、自分がきちんと目の前のデザインの本質を理解しているのかが、わかってしまったりします。
文章が下手とか上手いとか、そういうことではなく並べている言葉の納得感があるかどうか?ということです。
言葉にすることで「なんとなくわかっている」という状態から一歩でも外へ踏み出すことが大切なんです
これは、恐ろしいことに自分が作ったデザインにも当てはまることです。今作り終わったデザインを誰かに見せる前に、言葉で説明できるか確かめてみましょう。自分のデザインをプレゼンする体で「何故こういうデザインにしたのか?」説明してみるのです。
もし納得感のある文章(言葉)にできない時は、あなたが自分の作ったデザインをきちんと理解していない、感性のみに頼って作った可能性があります。
何でもかんでも杓子定規に「こうこうこうなったから、このデザインになった」と説明できたからといって、見た人の感性に訴えかけるものが何一つないなら、それもまたデザインとして失敗です。そういう意味で僕の場合、この言葉にいつも戻ってしまうんですね。
「デザインとは感性と理論の上にかかる橋である」
どちらも大切だよ、ということです。
デザインを作る中で意識的に「今はとにかく〇〇をテーマに格好良いビジュアルを追求するぞ」と「感性」の方に橋を渡りきっている時もありますし、今は「理論」つまり言葉だけでデザインコンセプトを組み立てよう、とPCを閉じて、ノートに言葉だけ書き残す時もあるでしょう。でもどこかで、感性と理論に掛かる橋に立ってデザイン全体を見渡さなければなりません。
「コンセプト探しゲーム」で、短い時間で、言葉でデザインの理由を探していく習慣をつけると、ただただ感性だけでデザインを作っていって壁にぶつかる時に、全く別の視点からデザインを見つけることが出来るようになります。
「デザインとは感性と理論の上にかかる橋である」とは「どちらにも偏ってくれるなよ」という講師からのかけがえのないメッセージでデザインに迷う時に未だ僕を助けてくれています。
街はデザインの学校だ
ここでは「毎日の通勤・通学電車の中でも出来る」ということで、車内広告のデザインを取り上げていますが、もちろん駅構内のポスターや駅ビル内のフリーペーパーでも何でも構いません。
拙著「センスがないと思っている人のための読むデザイン」の第一章でも書いたとおり「街はデザインの学校」なんですから、良いと思ったデザインを見かけたら、節操もなくただちに「脳内解説」を始めてしまうくらいで良いと思います。
リモートワークで通勤していないのであれば、もちろん、ネットで探してみても構いません。ただ通勤途中のスキマ時間で「勝手にデザイン解説」をしていつの間にかスキルアップしてしまう、なんて痛快ですし、ちりも積もれば、ではないですが、毎日やっていれば1年で300回以上はデザイン解説、デザインシュミレーションをしていることになるから、やっている人とそうでない人では相当な差がつく気がします。
「コンセプト探しゲーム」を続けていけば、あなたの日常生活はどんどんデザイン色に染まっていき、いつの間にかプロのデザイナーの狙いとか良いデザインのコツとか、気づきやすくなってきます。
センスが磨かれた、と思われるかもしれませんが、言葉にすることで、コンセプトをたててデザインにする、という左脳的な感覚も鍛えられているはずです。
デザインを上達するためには「感性と理論の上に掛かる橋を強固なものにする」ことが大切です。是非この「コンセプト探しゲーム」を使って、あなたの橋(デザイン)をより強いものに鍛え上げて下さい。